尋常に勝負
「――っ!」
「やりますね…。」
和希と冬牙は互いに画面に向かって銃を構えていた。
そして、現れたゾンビに向かって引き金を引く。
カフェで和希が提案したのはゲームセンターでの勝負だった。
冬牙は最初嫌そうな顔をしていたが、結局和希の一言によって、勝負する事が決まった。
二人は飲み物を飲み切ってから無言で移動をした。
このショッピングモールのゲームセンターは広く、多くのゲームがある中で、和希はどのゲームにするかと聞くと、冬牙は初めてだから分からないと、答えた。
和希はそれを聞き、一瞬目を見開くが、冬牙をまじまじと見て納得する。
冬牙が仲間でゲームセンターによる姿も、一人で黙々とゲームをする姿も全く想像できなかったのだ。
そして、和希は一番簡単そうなシューティングゲームを選択し、それぞれ一回ずつ練習でプレイをしてから、本番に臨んだ。
一回目の練習の時はあまり高得点を取れなかった冬牙だったが、その一回でコツを掴んだのか、和希と対戦する時には今日初めてやるとは思えないほどの腕前を見せていた。
「くそ…また同点か。」
「うーん、まさか三回連続同点になるなんて。」
ゲームのスコアを見て、二人は渋面を作る。
点数はかなりの高得点で二人して同点一位を叩きだしているのだが、二人としては一点でもいいから勝敗を決めたかった。
「もう一回するか?」
「……。」
冬牙の言葉に和希はさらに顔を顰める。
「流石にそれは…。」
和希はちらりと周りを見渡せば、かなりのギャラリーが出来ていた。
冬牙は人に見られているのに慣れているからか気にしていないようだけど、和希はこれ以上見世物になる気はなかった。
「なら、俺の勝ちでいいか?」
「……。」
冬牙の言葉に和希は嫌そうな顔をする。
だけど、和希はしばらく考え、仕方なそうにため息を零す。
「凄く不本意ですけど、今日の所はそれでいいです。」
「……。」
和希の言葉に冬牙は眉を寄せる。
「どういう意味だ。」
「さあ、どういう意味でしょうね。」
和希にしては珍しくとげのある言い方だったが、それも当然だろう。
和希としては自分の物は自分で買う、人におごってもらう事を良しとしないところがあり、その上、ゲーム初心者である冬牙に同点で三引き分け。
目立つのもあまり好きでない和希が目立ってしまっているのも、彼女を苛立たせる原因となっている。
「おい、和希。」
「はいはい、何ですか、そろそろ、夕飯の買い出しに行かないといけませんね、冬牙さんは何がいいですか?」
「はあ?夕飯?」
「どうですよ、答えがなければそうですね、ああ、生クリームたっぷりのケーキとかいいかもしれませんね。」
「はあっ!それは夕飯じゃないだろう。」
「えっ、それでしたら、シュークリーム?エクレアもいいですね。」
「嫌がらせかっ!」
「はい。」
目くじらを立てる冬牙に和希はニッコリと微笑み肯定する。
そして、和希の笑みを見た冬牙は絶句する。
「だったら、冬牙さんは何がいいですか?」
「……冷麺。」
「ああ、いいかもしれませんね、暑いですし。」
冬牙の言葉に和希は頷き、冷蔵庫にあるものと今ここで買わないといけないものを心の中でメモする。
「……。」
冬牙はジッと和希を見つめ続ける。
和希はゲームセンターから外に出ようと歩き出すが、冬牙がいつまで経っても追いついてこないので、怪訝な顔をしながら振り返る。
「冬牙さん?」
「夕飯は何にする気だ?」
恐る恐ると言うように訊く冬牙に和希はキョトンと首を傾げる。
「冷麺ですよ、もしかして、他のがよかったですか?」
「いや、それなら、よかった。」
心底ほっとした顔をする冬牙に和希は先ほど自分が言った冗談が思った以上に効果覿面だった事に気づき思わず吹き出してしまう。
「何だ。」
「いえ、何でもありません。」
そう言いつつも和希の肩が震えているのもだから、説得力などなかった。
「それじゃ、買い物に行きましょう。」
和希は冬牙の腕に触れ、彼を歩くように促した。




