幕間・彼の人に似た彼女
夏子はビールを呷るようにして飲んでいた。
「そんなに飲むと体を壊しますよ。」
「そんな柔な体じゃあーりませーん。」
「……。」
困ったように笑う旦那に夏子は唇を尖らせる。
「何よその子どもを見るような目つきは。」
「そんなんじゃ、ありませんよ。」
「いつまで、敬語使うの?」
「仕方ないでしょう、夏子さん、ずっとこうだったんですから。」
「……。」
「それで、今日はどうしたんですか?さ…いや、結婚されて苗字が変わっていたな…確か今日は神崎さんに会っていたんでしょう?」
「会ったわよ~。」
「そこで何かありました?」
「……。」
夏子はグラスに一度目を落とし、そして、自分を見透かすような目をする彼に視線を向ける。
「何でそう言うの?」
「夏子さん、普段ビールは飲みませんから。」
「で?」
「貴女がビールを飲むのは弟さんの悪口を言われたか、あの子に対して何かあったかですから。」
「そうなんだ。」
「そうなんです。」
そんな癖があったんだー、とあまり回らない頭で考える。
「あのね。」
「はい。」
「一輝に似た子に会ったの。」
「……。」
旦那は心配するように夏子を見つめる。
「何というか、その子夏希の娘さんでさ、名前まで「かずき」なんだよ、思わず夏希を恨みそうになった。」
「それは…。」
「でも、今はそれでもよかったと思うの。」
「えっ?」
旦那はてっきりその子に会って夏子が落ち込んでいるのだと思ったのだが、彼女の火の灯った目を見て違うのだと理解する。
「夏子さん?」
「あの子なら、あの坊ちゃんの目を覚ましてくれる気がするの。」
「……。」
「ただね…。」
どこか物憂げに遠い目をする夏子に旦那は首を傾げる。
「どっぷりと依存しそうで怖いわ。」
「……。」
「弟でアレだったんだもん、もし、異性のあの子が生きる意味を教えてしまえば……学生で母親とか…どうしましょう。」
「……神崎さんに先に謝っておきますか?」
「そこは大丈夫だと思うわ。」
「そうですか?」
「そうよ、多分なったとしても、合意だろうし。」
「ご、合意?」
「あの子絶対お堅いタイプよ、もしかしたらファーストキスだってまだかもよ。」
「……。」
「そんなお堅い子を落とす前に襲う男じゃないと…思うしね。」
「そこは断言して欲しかったです。」
「まあ、もし、何かあったらよろしくね。」
「いやいや、この件を持って行ったのは夏子さんじゃないですか?」
「あら、貴方は旦那さんでしょ?」
「それとこれと話は別です。」
「さーて、今度はワインでも飲みますか。」
「飲みすぎですっ!」
「夜はこれからよっ!」
グラスを高々と上げ、夏子は笑った。
彼に似た、彼女ならきっとあの現実を見ないあの子に一発喝を入れてくれるだろう、と--。




