幕間・回避をしたものの
不穏な空気を纏った少女とすれ違った。
「どうした?」
隣を歩ていた彼が同じように足を止める中、彼女は振り返り、険しい顔をする。
「干渉しないといけないみたい。」
「……。」
基本は見守るのをスタンスにしている二人、時に助言をするけれども、それでも、直接関与する事はまれだった。
自分たちから動くことはない。
するとすれば、例えば目の前に溺れる人がいたら、人として手を差し出すそのくらいはするけれども、自分から関わる気はなかった。
決めるのはこの場で生きる人たちにゆだねていたから。
だけど、このまま放っておけば、せっかく整えたものが崩されてしまうかもしれない。
ようやく本来の流れに向かい始めたのに、それを少女が台無しにする可能性が大いにあった。
「行くか。」
「ええ。」
二人は距離を置いて、少女を追いかけた。
少女は一つのマンションの前で誰かを待ち始める。
それを二人は見守った。
何も起こらなければいい。
そう、二人は願った。
しかし、その二人の思いは裏切られ、少女は彼らと会ってしまった。
少女と会ってしまった、青年と少女は不快を表すが、不穏な空気を纏った少女はしつこく自分を押し付ける。
折れたのは青年たちの方だった。
彼らは不穏な空気を纏う少女を連れ中に入った。
中で何が起こっているのか、彼女たちには分からなかったが、穏やかじゃない事ではない事は理解していた。
彼女たちは少女が出てくるまで、待つことを決める。
少女はあの二人にとって招かれざる客だった。
少女は自力でこのマンションを突き止めたのかもしれないが、それでも、ある人物はそれを望んでいないだろう。
だから、彼女は少女からその記憶を消そうと決意する。
そして、通常の滞在時間よりは短く、だけど、彼女たちが予想していたよりも長くいた不穏を纏う少女は、先に歩く少女について歩いていた。
「――っ!」
彼女は走り出した。
両手を伸ばす少女の先にいるのは心優しい少女。
もし、その手を突き出し、心優しい少女を突き飛ばせば、少女は無事ではすまないだろう。
下手をすれば「死」。
ようやく持ち直し始めた青年にその「死」はどう映るのか、火を見るよりも明らかだった。
彼女は両手を伸ばす少女の手を掴み。
「殺人は許さないし、貴女のした事はストーカーと同じ、だから、一部の記憶を消さしてもらうわ。」
そう言って、彼女は少女の記憶を消した。
封印も一度は考えたが、封印は何かの拍子で解かれる可能性があった。
だから、その事も考慮して、一度リセットした。
世界は何もなかったかのように動く。
一人の少女の記憶を消されても、何もなかったかのように動く。
彼女は少女に敵意がなくなったのを確認して、手を放す。
幸いにも、心優しい、少女はこの一連の出来事に気づくことなく、役目を終え、マンションに戻っていった。
不穏を纏っていた少女はわずかに、その空気を和らげるが、それでも、彼女に警戒心を抱かせたままだった。
彼女は戸惑いを隠せなかったが、今はまだその時じゃないと思い、踵を返した。
「いいのか、一部で。」
「ええ、下手に記憶を消せば、彼女を全て消してしまう。」
「……。」
「それはまだ、必要ない。」
「分かった。」
「あの子には迷惑をかけると思う、だけど、これ以上の干渉は控えましょう。」
「……無理をするな。」
慰めるように彼は彼女の頭を撫でた。




