ホットケーキ
「冬牙様~、出来ました~。」
彼女は出来上がったホットケーキをお盆に乗せて運ぶ。
そして、冬牙はお盆に乗っているものを見て眉間にしわを寄せる。
「いらない。」
「えー、せっかく作ったんですから、一口だけでも。」
「……和希、変なものは入っていないか?」
「見てた限り、普通の材料で作っていました。」
「えー、そんに信用ないなんてひどいです。」
「……。」
ぷんぷんと怒る彼女に和希は、本性バレているんだから止めて欲しい、と思うのだが、流石に悪意なく遠回しには言えないので、結局口を閉ざすしかなかった。
助けを求める冬牙の視線に和希は小さくかぶりを振る。
下手にここに和希が介入すれば、確実に彼女はいちゃもんを付けて下手をすれば一晩泊めてくれ等言ってきそうだ。
冬牙は和希が助け船を出さない事に観念したのか、一口だけ。
本当に小さく切って口に入れた。
刹那、冬牙はカッと目を見開き、口を押え、台所に駆け込む。
「と、冬牙様?」
水の音で何かを流しているのか理解した和希は仕方なく、残りのホットケーキを一口食べてみると。
「~~~~~~~~~~~~~~っ!」
甘いのが大丈夫な和希でも目を見開く程の甘ったるいものが口に広がる。
これは甘いのが苦手な冬牙でもそうなると思い、和希は何とかその一口だけ口にして、コーヒーを二つ分淹れに行った。
「な、なんなのよっ!」
一人理解できない彼女は叫ぶが、口直ししたい和希や必死で口をゆすいでいる冬牙が答える事はなかった。
和希は手早くコーヒーを淹れ、そっとブラックコーヒーを冬牙に差し出すと、彼はそれを目にした瞬間一気に飲み干した。
「助かった、まだ、あるか?」
「はい、少し、多目に作ったので。」
和希はいつもなら砂糖を入れたカフェオレにするところだけど、今回は砂糖抜きのカフェオレを飲んでいた。
「頼む。」
「はい。」
和希は生贄にしてしまった事を申し枠なく思ったので、大人しくコーヒーを追加でカップに入れる。
「……。」
それも一気に飲み干し人心地着いた冬牙は深く息を吐いた。
「何なんだ、あの殺人的な甘さは。」
「ええ、作り方は普通だったんですけど、分量まではちゃんと確認しませんでした、すみません。」
「いや、そもそも、あいつをここに入れた時点で間違いだったんだろう。」
「でも、騒がれていましたし。」
「……。」
結局どうする事も出来なかったと、二人は思った。
「冬牙様、どうでしたか?」
「「……。」」
二人のこの様子を見てそれを聞いてくるのか、と二人は驚愕する。
「こいつの頭は何で出来ているんだ?」
「さあ。」
「明らかに腐っているだろう。」
「……。」
顔を引きつらせる冬牙の言葉に和希は危うく頷きかけた。
「美味しかったですよね?」
「……一つ聞いてもいいですか?」
「何よ。」
「味見しました?」
「しないわよ、砂糖多めにして愛情たっぷりなんだから、美味しいに決まっているじゃない。」
「……。」
遠い目をする和希に彼女は何故か胸を張っている。
「あんたはお役目ごめんなんだし、出て行ったらどう?」
「……和希、このバカ女を追い出しとけ。」
「はい。」
「えっ、冬牙様?」
自室に逃げようとする冬牙に彼女は手を伸ばすが、冬牙はそれを乾いた音を立てて振り払う。
「出て行け。」
冷え切った声に、流石の彼女も固まった。
和希は同情的に冬牙を見て、そして、愕然としている彼女を見て、深くため息を吐くのだった。




