嵐到来
和希と冬牙はたまに時間が合えば一緒に買い物をするようになった。
はじめ和希は自分で持つと言っていたが、何度も、何度も冬牙に荷物を取られ結局は彼に任せる事にした。
そして、その時は少し重めだったり、かさばってしまうような荷物になるものを買ったりする、お米や洗剤、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどを冬牙に持たせたりした。
そして、今日もまた冬牙にお米を持ってもらい、自分はお昼と晩御飯、明日の朝食の食材の袋を持っていた。
「そう言えば、冬牙さんの大学はいつから休みなんですか?」
「八月に入ってからだな。」
「……。」
一か月は一緒に居られるのか、と考え、和希は一人頷いていると、ふっと、自分たちが住んでいるマンションの前に人影あるのに気づいた。
こんな暑い中日陰にも入らないなんて熱射病か熱中症になる、と和希は心配したが、その顔を見た瞬間、その心配も吹っ飛びそうになった。
「あ……。」
「冬牙様っ!」
「……。」
和希が引き返そうと、冬牙の服を引っ張ろうとするが、それよりも早く彼女の方が和希たち、否、冬牙を見つけてしまった。
冬牙は思いっきり不機嫌そうな顔になり、何事もなかったかのように歩きだす。
「……。」
和希は一瞬迷いを見せたが、冬牙の後を追った。
彼女は自分の前を通過しようとする冬牙に手を伸ばすが、寸前の所で、冬牙自身にはねのけられる。
「……。」
彼女は一瞬呆気にとられたような顔をするが、すぐに気を取り戻したのかまた手を伸ばそうとするが、今度は和希がその手を止めた。
「何をしているんですか?」
「……何で、モブがいるのよ。」
「……。」
和希の額に青筋が浮かぶ。
「私は冬牙さんの食事を作っているので。」
「へー、なら、わたしもいいですよね、冬牙様。」
ニコニコと冬牙を見る彼女に和希はどうやってこいつを殺してやろうか、というような目をしていた。
「俺はこいつの飯がいい。」
「えー、わたしも美味しいご飯を作れますよ。」
「……。」
和希は意外だった、まさか、冬牙がそんな事を思ってくれているだなんて思ってもみなかった。
「駄目だ。」
冬牙は彼女を無視して行こうとするが、彼女は必死だった。
「一度だけ、何か作らせてください。」
「…警察を呼ぶぞ。」
「――っ!」
冬牙の目を見てそれが本気だと伝わったのか、彼女がひるむ。
和希は大丈夫かな、と思って彼女の手首から己の手を放す。
「……あんたからも言ってよ、一度でいいってさっ!」
彼女は標的を和希に切り替えた。
和希の胸倉を掴み、彼女は鬼のような形相で言う。
「何で私が。」
「あんたがあいつと同じ役割を担っているんだったら、少しはわたしの役に立ちなさいよっ!」
「嫌だっ!」
和希は彼女の手を掴むと、無理やり外す。
「痛い、痛い、手当てしなさいよっ!」
大げさにしている彼女に和希は冷めた目で見ていたが、ふっと、和希たちが来た方から人が来ていることに気づき、和希は顔を顰める。
「家に上げないと、もっと騒ぐわよ。」
「……。」
脅してくる彼女に冬牙と和希は顔を顰める。
「………………………………分かった。」
「やった、それじゃ、行きましょうっ!」
ベタリと彼女は冬牙にへばりつく、和希は申し訳なさそうな顔をしてすぐさまエントランスに行く。
そして、すぐさま、部屋番号とパスワードを入力して扉を開ける。
すぐさま振り向けば、彼女は冬牙しか見ていなかった。
「よかった…。」
もし、部屋番号とパスワードを見られれば確実に乗り込んでくることが目に見えていた。
だから、和希は冬牙を生贄に即座に入力しに行ったのだった。
そして、それは冬牙も嫌々だったが了承した。
一瞬の嫌悪と、一生のストーカーならば前者の方がマシだったのだから。
こうして、和希たちの元に嵐がやってきてしまったのだった。




