姉貴
フラフラする頭を抱えながら和希は帰宅する。
「ただいま……。」
ふっと見覚えのないパンプスを見つけ、和希は怪訝な顔をする。
「あら、かずちゃん、お帰りなさい。」
「夏希の自慢の娘さん?」
「ええ。」
リビングから聞こえる二人の女性の内、一人は母親の声だが、もう一人は聞き覚えのない、否、前世の自分なら聞き覚えがあり、今の和希が知らない女性の声が聞こえた。
和希はバクバクと煩い心臓を抑え、ゆっくりと廊下を歩く。
「そう言えば、名前聞いてなかったわね。」
「そうだっけ?」
「ええ、娘さんなんて言うの?かずはちゃん?かずみちゃん?」
リビングの扉の取っ手に手を伸ばす、まるで、全てがスローモーションになったかのようにゆっくりにしか彼女は認識できない。
そして、とうとう扉が完全に開ききり、彼女は目の前にいる女性を見て悟った。
(姉貴……。)
「和希ちゃん、お帰り。」
「かずき……?」
呑気な母親の声に対し、かつて姉だった女性の表情が凍り付く。
「この子、かずき、っていうの?」
「ええ。」
「……かんざき、かずき?」
「……ごめんなさいね。」
「えっ?」
「夫のお義母さんが、私たちから一文字ずつ取りたいと言って、この名前になっちゃったの。」
「……ううん、いい名前じゃない。」
無理して笑うかつての姉に和希は唇を噛む。
「お、お母さん、その綺麗な人は?」
「紹介するわね、母さんの大学時代の友達で雨宮 夏子さんよ。」
「夏子でいいわよ。」
「夏子さんですね、私は神崎、和希です。」
「一文字ずつって言ったわね?」
「はい、母の希の「希」と父の「和」という字で和希です。」
「そっか、なんか運命を感じるわ。」
「ごめんなさいね、思い出せちゃったわよね?」
「ううん、いいのよ、もう、大分と落ち着いたし。」
「そっか、これも雨宮くんのお蔭ね。」
「そうかもね。」
雨宮、和希は前世の記憶を引き出し、そして、思い出した。
雨宮さんは姉が大学のサークルで知り合った中の一人で、見ていれば姉に気があるのが分かっていたがあまりにもいい人すぎてこのままいけば間違いなくお友達で終わってしまうだろう、と一輝の感想だった。
だけど、どうやら、彼の気持ちが実り、夏子と結婚したようだ。
「まっ、あいつがいてくれて本当によかったと思うけどね。」
「ふふふ、惚気?」
「そんなんじゃないわよ。」
「どうかしらね?」
「夏希、買って来たケーキ和希ちゃんに出したら?」
「そうね、二人ともちょっと待っててね。」
そう言って台所に向かう母に和希は居心地悪く感じていた、何せ、夏子がガン見しているのだ。
「あっ、あの…。」
「あら、ごめんなさいね、何というか、顔立ちはお母さん似なのに雰囲気が全然違ってあの子にそっくりだったから。」
「……。」
「ははは、ごめんね、こんな事言われても困るわよね。」
「いえ。」
「貴女だったらもしかしたら、心開いてくれないかな。」
「えっ?」
夏子の言葉に和希は瞬きをする。
「うん、決めた、お願いがあるのっ!」
和希に詰め寄り、夏子は彼女の手を掴んで逃げられないようにする。
後々和希はこの時の事を語る時、夏子の背後には肉食獣が控えていたと語っている。




