あったかもしれない未来の欠片
見覚えのある人たちが、今日いたスタジオに並んでいた。
「えっと、わたしは、日向さんにお願いしたいんです。」
「……。」
妄想癖のあるあの女性なのに、何故かこの彼女はまだ常識人ぽくふるまっていた。
だけど、冬牙はそれでも嫌な顔をして一輝を見た。
「……。」
一輝はその視線を受け、苦笑する。
「ごめんね、ちょっと、彼体調が悪いみたいで休ませてくるね。」
「……そうですか、分かりました。」
少し寂しそうに笑う彼女に一輝は少し冷めた目で彼女を見ていた。
「ねー、せんせー、わたし綺麗?」
「うん、西、綺麗だね。」
「あら、私はどう?」
「東雲も似合っている、流石だね。」
「皆ズルーい、ねーねー、せんせぃ、あたしはどう?」
「南部も可愛いよ。」
「先生、私は?」
「うん、北条も華があるね。」
「……。」
一輝は自分を慕う教え子たちを褒めていると、誰かに服を引っ張られる。
「どうした?冬牙?」
「そんなに褒めるのなら、着れば?」
「……………………………………えっ?」
冬牙の言葉に一輝は固まる。
「あら、いいわね。」
「ね、姉さんっ!」
楽し気に笑う、「今」と全く変わりない夏子はくすくすと笑っている。
「西さん、東雲さん、南部さん、北条さん。」
「「「「はい。」」」」
夏子の言葉で四人は一輝を取り押さえる。
「それじゃ、化粧室にGOっ!」
「ちょっと、待って、嘘だろうっ!」
ずるずると連行される一輝はしばらくしてからウエディングドレスを着て登場する。
「綺麗だ、よく似合っている。」
「それ、嘘だよな。」
明らかに吹き出しそうな顔で言う冬牙に一輝は睨みつける。
「くくく。」
「もう、マジないっ!」
そして、夏子の提案で冬牙の新郎姿と一輝の新婦姿の写真が取られる。
どこか幸せそうな顔をしている冬牙の姿を見て、和希は一歩引いた場所でそれを眺めていた。
そして、不意にどこからか声が聞こえる。
『これはもしもの世界、もしも、貴女が「一輝」として生きていて、さらに、「一輝」のあの女性の好感度がゼロまたはマイナスになっていた時の一つのイベント。』
誰、和希はそう発したはずなのに、声は出なかった。
『これは、泡沫の夢。もうすぐ、目が覚めるわ。貴女は貴女の思うとおりに進んでも構わない、それはきっと、人を救う事に繋がるのだから。』
声は静かに遠ざかり、最後には聞こえなくなった。




