星空の下
「おい。」
冬牙に手を引かれた和希は不思議そうな顔をする。
「どうしたんですか?」
「お前……。」
何を言いたいのか、和希には分からなかった、もしかしたら、声をかけた冬牙自身も分かっていないのかもしれない。
「本当に何なんだよ。」
「何がですか?」
「あの可笑しな女から俺を守ったり。」
「冬牙さんはあのような女性苦手ですよね?」
「博愛主義なのか、お節介を焼いたり。」
「そんな事ありませんよ。私にだって好き嫌いはあります。」
「お前、俺が本当は嫌いだろう?」
冬牙の言葉に和希は虚を突かれたような顔をする。
「どうしてそう思うのですか?」
「ずっと、どこか一線を引いているよな、よそよそしかっただろう。」
「そんな事ありません。」
「ある。」
「ない。」
「ある。」
「ないですっ!」
和希はそう言うと冬牙の胸倉を掴む。
「私は貴方を嫌うなんて事は絶対ありません。」
「……。」
「絶対にない。」
「何でそう言い切れるんだ。」
「私にしたらどこをどう見たら、私が貴女を嫌っていると思われるかの、そっちの方が疑問です。」
「……。」
「冬牙さんは本当に人づきあいが苦手ですね。」
「……。」
黙り込む彼に和希は天を仰ぐ。
群青色の空に星々が煌めいていた。
「私の気持ちを疑うのならそれでも、構いません。」
「いいのか?」
まさか、自分の気持ちを否定してもいい、というとは思ってもみなかった冬牙は目を見開く。
「どうせ、口で何度言っても、どうせ、貴方は信じませんからね、疑いのなら口にしてくださっても構いません。」
「……。」
「私はその度否定しますから。」
「…お前は本当に変わっている。」
「そんな事ありませんよ、私より変わった人が目の前にいますから。」
「……。」
和希の言葉に冬牙は眉を寄せる。
「ほら、早く帰りましょう?」
和希はクスリと笑い、冬牙の手を引いた。
それはまるで、一輝の時と同じようだったが、それでも変わったものがあった。
幼かった少年は大人の男の手になり、青少年だった男は女の華奢な手になったのだから。




