帰り道
「和希ちゃん。」
「何?」
「和希ちゃん、和希ちゃん、和希ちゃん、和希ちゃん………。」
「う…うん、紅葉ちゃん、そろそろ、怖いかな。」
腕を組みながら自分の生を呼び続ける紅葉に流石の和希も顔を引きつらせる。
「紅葉ちゃん、和希ちゃん欠乏症なのね。」
「ん。」
「えっと、そんなのないよね。」
桂子の言葉に紅葉は頷き、和希は戸惑う。
「あら、あたしたちにはあるわよ。」
「……。」
「それにしても、今日のあのクソ女マジいかれているんだけど。」
「あ~。」
和希は色んな事がありすぎて桂子の言う女をすっかりと忘れていた。
「和希ちゃんは怒らないの。」
「怒るというか、どうやって退治しようかと、悩んでいるかな。」
「ゴキブリ並みにしつこそうだものね。」
「そうそう、一度叩いても平気で羽をバタバタしてね。」
「本当に死ねばいいのに。」
「……えっと、桂子ちゃん、それってどっち?」
「どっちだと思う?」
怪しく微笑む桂子に和希は苦笑する。
「あっ、紅葉ちゃん、次のT字路、右だよ。」
「……。」
詩音の言葉に紅葉はぎゅっと和希の腕を抱く。
「紅葉ちゃん。」
「や。」
「や、じゃないよね?」
「……和希ちゃん、充電中。」
「……紅葉ちゃん、気持ちはわかるけど、今日は諦めてくれないかな?」
「桂子ちゃん、ずるい。」
「ごめんね。」
本当に申し訳なさそうな顔をする桂子に紅葉も何か思うところがあったのか、大人しく離れる。
「分かった。」
「ありがとう、紅葉ちゃん。」
「和希ちゃん。」
「何?」
「月曜日、お弁当、欲しい。」
「えっと。」
「あら、いいわね。」
「えっ?」
「駄目?」
「駄目かしら?」
目を潤ませる二人に和希は折れるしかなかった。
「分かった。」
「やった。」
「ありがとう、和希ちゃん。」
「もう、二人とも現金だから。」
ため息を吐く和希だったが、その表情は柔らかかった。
「ん、和希ちゃん、桂子ちゃん、また。」
「ええ、また月曜日。」
「またね、紅葉ちゃん。」
「それじゃ、僕も失礼するね。」
「…。」
「紅葉ちゃんの事お願いします。」
「変な事をすれば、許しませんから。」
「あはは。」
頭を下げる和希の横で牽制する桂子、彼女に睨まれた詩音は苦笑するのだった。
「じゃあね。」
そう言って、二人は右に曲がり、和希たちは左に曲がった。




