茶番 4
「和希ちゃん、お疲れ様。」
「いえ。」
近寄ってくる夏子に和希は苦笑してから、ある一点に対しては冷ややかな目を向けている。
「貴女は着替えなくていいの?」
「何で、モブなんかと写真を撮らないといけないのよ、いい加減冬牙様を出しなさいよ。」
「いい加減にしてほしいのはこちらですけど?」
「何よ。」
「これはお遊びじゃないのよ、私たちはちゃんとした夏子さんの依頼でここにいるのよ、貴女はいったい何様のつもり?」
「…………。」
「ねぇ、いい加減にしたらどうかしら?」
和希は彼女に近づき、そして、囁く。
「冬牙さんは貴女なんかに渡さない。」
「--っ!あんたこそ何様よっ!」
「私?私はただの冬牙さんの世話役よ。」
「嘘おっしゃい。」
「私は夏子さんにお願いされて彼のそばにいる、はじめは面倒だと思った。でも、今は私の意志で彼の力になりたいと思っているの。」
「この泥棒猫っ!」
「ふふふ、本当に可笑しなことを言うわね。泥棒?
私はいったい誰から何を奪ったというの?」
「わたしから冬牙様を取ったじゃないっ!」
彼女の言葉に和希はとうとう切れる。
バンっ!
和希は強く、手がジンジンと痛むほどの力で壁を殴った。
思わずこの音で全員が和希を見るが、すぐにその視線は外される。
それは――。
「へー、いつの間に冬牙さんは貴女のものになったのかしら?」
「は、はじめからよっ!」
「バカ言ってるんじゃねぇよ。」
和希は無表情だった。いつもなら少しの感情を宿しているのに、彼女は無表情になっていた。
「お前さ、何で冬牙さんに付きまとうわけ?
格好いいから?ああ、確かにすらっとしているし、異性からも同性からもきっと称賛されるだろうな。
頭がいいから?確かにいいな、大学に行ってるんだし。
性格?あれはよくないだろうな、基本攻撃的だし、優しいとはお世辞にも言えねぇ。
お金を持っているから?それじゃ、そこんじゃそこらのおっさんでもいいだろう?」
何であいつなんだと和希はその目で問う。
「それは…。」
「今のあいつを見てそれで好きだというのなら止めねぇよ。だけど、あんたは違うだろう。」
「……。」
「色眼鏡であいつを見るな、不愉快だ。」
「く……。」
「あいつはあいつで苦しんでいる。なのに、何にも知らねぇ私やあんたが口を出すなんておかしいだろう。」
「何よ…。」
「私は正直あの人に口を出すのは生活習慣だけのつもりだ。それ以上は言うつもりはない。」
「嘘を吐かないでよっ!」
「……嘘…そのつもりはないけど…まあ、確かにコミュニケーションを口出しはする。外面さえよければ、どうにかなるし…。」
「わたしが言いたいのはそうじゃないわよ。」
「どういう意味だ?」
「あんたは冬牙様を独り占めしているのよ、いい加減にしなさいよ。」
「そんなつもりはない、冬牙さんは冬牙さんのやりたいようにやっている、私もそうだ。」
「嘘おっしゃい。」
「はいはいはい、そんなに騒ぐんなら出ていく?」
いい加減焦れたのか夏子は二人の間に入る。
「それにしても、和希ちゃん。」
「何だよ。」
「普段の貴女ってそんなに男っぽく話すのね。」
「えっ?」
夏子の指摘に和希はきょとんとし、そして、自分の発言を思い出し、過去に引きずられたことに今更ながら気づく。
「い、いえ、切れてしまい…。」
「あら、元に戻ったわね、つまらないわね。」
「……。」
和希は額に手を当て、必死に過去に引きずられるなと念じる。もしかしたらどこかでぼろが出ていたのではないかと若干焦るが、それでも、もう発言はなくすことはできないのだから、彼女はそれを受け入れる事しか出来なかった。




