最凶の魔王vs最薄の勇者
あれから数年。
魔界は、すっかり変わった。
俺が爆破した旧魔王城の跡地には
今、巨大な黒い城がそびえ立っている。
新たな魔王城だ。
そして、その玉座の間。
そこは数多くのリア充パーティ爆破し、塵に変えてきた惨劇の舞台でもあった。
「……ふん。今年に入ってから何回目だ」
俺は、目の前で塵と消えた勇者パーティの残骸を眺めながら鼻を鳴らした。
そして、手渡される爆破したリア充どもの記録。
魔界ではいつの間にかこれが正式な行政資料になっている。
横で、黒髪の女がため息をついた。
「魔王様……また城の修繕費が増えているのですが」
彼女の名はカミラ。
魔王軍参謀。頭脳担当だ。
サキュバスである彼女が俺の側で真面目に働く理由はただ一つ。
自分が爆破されない為だ。
元々は旧魔王軍の中で魔導士をしながら、
力のある男どもを食い荒らしていたが、俺の噂を聞いてからは大人しくしていたらしい。
冷静な判断力と行動力があり、仕事も早い。
そして美貌を併せ持つ。
本来ならば俺が真っ先に爆破している人物だろう。
だが、最近は少し疲れた顔をしている。わざとなのか、本当に疲れているのか。
真相は分からないがカミラは今、城の補修費に頭を抱えている。
「知ったことか」
俺は肩をすくめた。
「俺の前でイチャつく奴は、魔王だろうが勇者だろうが爆発する。それがこの世界の理だ」
玉座の横では、もう一人気だるげな幹部の男が立っていた。
長身で痩せた黒装束の男。
魔王軍の諜報部隊長、ザルドス。
元は魔界でも名の知れたアサシンだったらしい。
やる気が無いのがたまに傷だ。
俺が魔王になってからも金さえ貰えればなんでもすると、それなりに働いている。
無口で忠実。
ただし恋愛慣れしている気がする。
本人は隠そうとしているが…
「魔王様」
ザルドスが静かに言う。
「本日、領内東側と西側の警ら隊が壊滅しました」
「何故だ」
「隊内恋愛が発覚し、自然爆破しました」
「うむ。。。実に平和だな。。。」
カミラは頭を抱えた。
そんな時だった。
玉座の間の巨大な扉が、ゆっくりと開いた。
「……はぁ……やっと……着いた……」
現れたのは、一人の少女だった。
銀色の長い髪。
透き通るような碧い瞳。
使い古された軽鎧からは、今にも溢れ出しそうな程豊かな胸の曲線がのぞく。
引き締まったウエストが彼女スタイルを強調している。
明らかに場違いなほどの美少女だった。
俺は思わず眉をひそめる。
(……おいおい。どこのラノベのヒロインだ?注文した覚えはないぞ)
こんな美少女が一人で魔王城まで来るはずがない。
どうせ外には、
想い人の騎士だの、幼馴染の賢者だの
そういうリア充仲間が控えているに違いない。
俺は指先に魔力を込めた。
いつでも爆破できるように。
「……あなたが、魔王……ですか?」
少女が息を切らしながら言う。
「いかにも」
俺は玉座に座ったまま答えた。
「俺は魔王ハジメ。……小娘、お前の後ろにいるリア充どもを呼べ」
「まとめて花火にしてやる」
だが。
返ってきたのは、沈黙だった。
少女は、ゆっくりと膝をついた。
「……後ろになんて、誰もいません」
弱々しい声。
「ここまで……ずっと一人で来ました」
玉座の間が静まり返る。
「パーティを組んでも私の不幸体質のせいで、やっぱり無理って断られて……」
「唯一しばらく続いた変態糞オヤジは、身体目当だったし……」
【…………】
俺のリア充センサーが。
ピクリとも反応しない。
それどころか、彼女から漂ってくるのは、
懐かしい匂いだった。
スラムにいた頃、嫌というほど感じた絶望と生活苦の匂い。
少女はぽつりと続ける。
「有給も取らせてもらえない、残業代も出ない。
王様は『世界を救えば結婚してやる』って言ってくるけど、チビデブハゲの王様なんて絶対無理……死にたい……」
「……だから、もう早く殺してください。転生特典でもらった聖剣も、維持費がかかりすぎて借金のカタに売っちゃったし」
「死んだら何も残らないけど……」
「魔王に挑んだなら名誉は守られる筈です」
少し間があって。
「……でも」
小さく笑った。
「死ぬ前に……白いご飯、お腹いっぱい食たかったな……」
その瞬間。
ぐぅぅぅぅぅ。
腹の音が、玉座の間に響いた。
俺は思った。
(……こいつ)
(ガチの非リアだ)
俺のスキルが、一ミリも反応しない。
無敵だった即死スキルが、完全に無力化されている。
俺は舌打ちした。
「……チッ」
「思わぬ天敵が居たものだ…」
もしかしたら唯一の天敵かもしれないこの幸薄勇者に、
不幸でいられては困る。
勇者に近づき、ザルドスに指示を出す。
「こいつを捕らえろ。とりあえず城で奴隷として働かせる」
「飯を山ほど食わせてやれ」
「っっっっっっ!魔王!…いえ、魔王様!ありがとうございます!どんな仕事でもさせていただきます!」
ザルドスが、若干ニヤリとしながら一礼した。
その時だった。
リリは立ち上がろうとして、足元にあったマントに躓いた。
「わっ!?」
前勇者の忘れ形見だ。
そして。
「おっと!?」
咄嗟に支えようとした俺の胸に、リリの柔らかい体が飛び込んできた。
凄まじい衝撃。……いや、柔らかさ。
顔のすぐ横に、彼女の銀髪が舞い、甘い香りが鼻をくすぐる。
(……デカい。いや、柔らかい。なんだこれ、これが……『女の子』の感触……!)
「あ、あの……魔王様……? 近いです……。私、こんなに男性と密着したの、初めてで……あ、あの、変なところがドキドキして……」
リリが顔を真っ赤にして見上げてくる。
俺は、直視してしまった。
その無防備な潤んだ瞳を、少しだけ開いた唇を。
その瞬間。
【警告:心拍数の上昇を確認。対象との間に『事故による物理的密着』が発生中】
【現在、リア充度……0.0001ポイントを検知。微弱な爆発を開始します】
「……は? 待て、嘘だろ。今ので反応するのか!?」
パチッ。
俺の胸元で、ピンク色の火花が散った。
「……は?」
「ひゃうんっ!? なんか、胸のところが熱いですぅ! ああっ、服が……服が焦げちゃう!」
「お前、離れろ! 離れるんだ! 俺のスキルが暴発する!」
「む、無理です! 装備のベルトが、魔王様のベルトと絡まって……抜けないっ!」
「お前、どんな不運体質だよ! くそっ、引っ張るな! それを引っ張ると、お前の――」
ビリリリリリッ!!!
無慈悲な音が響き渡り、リリの軽鎧の紐が弾け飛んだ。
そこから露わになったのは、
彼女の白く輝く「山脈」だった。
「「…………」」
「……はわわわわわわ……!」
リリは真っ赤を通り越して真っ白になり、
俺は、前世から通算しても見たことのない「実物の至宝」に目が釘付けになった。
【警告:リア充度が急上昇中! 自爆までカウントダウン開始!】
「……ザルドス、カミラ! とりあえず、この娘を風呂に入れて、飯を食わせろ! スキルが爆発する前に、俺の視界から外せぇぇぇ!!」
俺の叫び声と共に、魔王城に小さなピンク色の爆発が巻き起こった。
こうして。
魔王としてのハジメの平穏な日常は、
一人の幸薄勇者によって、盛大に崩れ始めたのである。
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