大地と森、自然と心、ひとつになろう
まず、誤解を解いておきたい
事実とはいえ「ゲームセンター狂騒曲」は内容が過激すぎた
反社がチンピラを刃物で刺す描写など、私は書きたくなかったのだ
ちなみに人が刺される瞬間を見たのは、この時人生で二度目である
でも本当は、もっと穏やかな
スピチュアルでオーガニックでヒーリングな話が書きたいのだ
それは具体的にどういうものかというと……
うーん……
ええと……
なんていうか……その……
パワースポットでオーラが……
自然はええぞ……みたいな……
……あのさ、そういう話を具体的に答えさせるの、やめてくれる?
(逆切れ)
書きたいと言いつつあやふやで適当な知識しかない私だが
観葉植物を通じて森と大地、そして大自然と一体化したことならある
今回は、その件について語らせて頂きたい
私がゲーセンで働く二年前の物語だ
◇◇◇
地元の先輩が、私の近所で飲み屋を経営していた
とはいえ居酒屋的なものではなく、バーというかラウンジというか
おつまみも軽食とかではなく適当なスナック菓子とかラムネ
2000円で時間無制限の飲み放題だった
安いことは安いんだけど、別に行く理由もない
知らん人の下手なカラオケを爆音で延々聞かされるだけだろう
当時の私は、そう考えていた
現在は他人のカラオケを聞くのが大好きである
音痴大歓迎、熱唱ならなお良し
手拍子、掛け声、なんなら踊って盛り上げましょうぞ
お望みならカスタネットやタンバリンの腕前も披露する所存
そんなある日、噂を聞いた
先輩の店が、大変繁盛しているらしい
常に客が店にあふれ
近隣の若者が集まる社交場になっているとのこと
ナウなヤングのホットなスポットというわけだ (死語というか古文)
そう聞けば私も気になってきた
貴族令嬢として、庶民と交流を深めるのも悪くない
ましてや先輩も知らぬ人ではないので
挨拶がてら足を運ぶことにしたのである
ヤングの集まる、その店に
◇◇◇
その店の入り口は、一階にあった
扉を開けると、急な下りの階段
店のフロアは地下一階ということになる
暗めの照明
シックな内装
小さなカウンター
中央にテーブル席
「あれ?黒い安息日やん!ひさしぶり!こっちこいよ!」
先輩は機嫌よくテーブル席でお客さんと飲んでいた
ゆるい
思ってたより、ゆるい雰囲気
悪くない
先輩に誘われるままテーブル席へ
「紹介しとくな、こいつ後輩の黒い安息日」
「ど、どうもよろしくですわ、ホーホホホ!」
「この人が○○さん」
「おう。」
「この人が▲▲さん」
「あー、ども」
「この子が……」
男二名、女二名、そして先輩と私
女性二名は近くのスナックか何かの店員で
日常生活で使用するには不自然な薄いドレスを纏い
濃い化粧が印象的だったが……
それより気になる二名の男性客
おそらくアート、それも絵画に深い造詣をお持ちなのでしょう
カラフルなイラストをご自身の体に掲載されているようで
手首や首周りからチラチラと拝見させてくれました
あっ… (察し)
社交場、ね……
ちょっと聞き間違ったみたい……
ヤングじゃなくて……
ギャング……
私は遠慮がちにテーブル席のすみっこに座る
店内の癒し、大きな観葉植物の植木の横に
……とはいえ店はにぎやかに
次々とお客さんが入ってきていた
どうやら周辺の飲み屋関係者たちの中継地点になってるらしい
先輩は
2000円払えば好きに飲んで何度でも出入りしていいよ
氷やお菓子は自分でカウンターから取ってこいよ
そんな感じだったし
地下なので、いくら騒いでも問題ないようだ
そんな中でも異彩を放つ○○と▲▲だが
意外な事におとなしく静かに酒を飲むだけ
むしろ周囲の客より節度があった
私の不安は杞憂に終わるようだ
ちなみに○○はマ・ドンソクみたいな体型で
▲▲は……忘れた、まあ普通の体型
ちなみに、この店はカラオケのステージがあり
スタンドが立っていて、その上にモニター
しかも四角いブラウン管のテレビモニターですよ
だから歌わないお客さんはカラオケの画面を見ることが出来ない
先輩は設備にお金をかける気が無いらしい
おそらく古いスナックを居抜きで設備ごと借りたんだろう
まあ、その後すべてを新調することになるのだが
◇◇◇
新しいお客さんが入ってきた
男三人
カウンターで飲んでいた女性たちと知り合いらしい
ワイワイキャッキャとはしゃいでいるようだ
楽しそうにしているなと思っていたが
女性客の一人と口論が始まった
内容は知らない
ていうか飲み屋ではよくある話
だが、しつこかった
だんだん女性客の声がヒステリックで耳障りになってきた
店の雰囲気が変わり
シンと静まりシラケ出したころ
○○と▲▲がテーブル席より立った
彼らはオラつく三人組をなだめ、店の外に出るよう促していた
そんな五人の男たちが、階段を上がっていく……ような気がする
え?
「気がする」ってどういうことかって?
座席の位置的に階段見えないんだよね……
足音?
したかもしれんけど覚えてないよ……
でも、彼らが戻ってきて
再び階段を降りた瞬間は、よく覚えている
まず、こんな音だった
ドンガラガラゴトガタドン!
フルコンボだドン! (太鼓の達人)
三人組の一人が階段を転がり落ちてきた
続いて二人目が駆け下りて来るも途中でつまずき結局転ぶ
どっちがどっちかよくわからなくなったが、片方はうずくまったまま動かない
どすん、どすん、と○○が階段を降りてくる
記憶にないから、たぶん○○は終始無言だったと思う
転んだまま腰を抜かして立てなくなった男の髪を無表情で掴み
カラオケのステージ上まで引っ張り込んだ
そして無言でブラウン管モニタを担ぎ上げ、上から、ドシャ。
三人目の男と▲▲が、ワーワーとオラつき合いながら階段を降りてくる
その途中で三人目の男は店内の状況を見ただろう
粉々に砕けたブラウン管モニター
そのでっかい箱の下で動けなくなった友人
無言で立ち、それを見下ろしているガタイの良い○○
そして階段の下でうずくまって動かない友人
(本当は階段から転がり落ちて動けないか、死んだふりしているだけ)
「気」を読む、とか
何かを瞬間で深く察する、とか
そういうのってさ
超能力とかそういうのじゃなくてさ
この「場」に居合わせたら誰でも感じるっちゅうの
明らかに三人目の男はビビり出した
そして
明らかに▲▲は調子に乗った
ていうか悪い方向で彼は興奮しはじめたようだ
「てめぇこらぁ、はよ下降りんかいや」
▲▲は声を張り上げる
三人目の男は、小走りでトタタタと階段を降りる
▲▲はワーワーとオラつき叫びながら
肩をブウンブウンと振り回し後から階段を降りてくる
こういう人らってさ
状況と自己暗示で、自身に催眠かけるんだよな
越えちゃいけない一線超えるために
そんでさ
相手が弱い、必ず勝てる、って確信したら
徹底的に調子に乗るっていうか、残酷になるんだよな
三人目の男はすでに及び腰で、店の中央に立っていた
▲▲は意外にもそこへ行かず、迷わずカウンターの中へ入る
包丁……刃物を取り出した時のかすかな金属音が
めっちゃよく聞き取れたのを今でも忘れない
▲▲はカウンターから持ち出した包丁を片手に
三人目の男へオラオラ!みたいな感じで近寄る
ひゆ。
振り回したときの風切り音が聞こえた気がした
まあ、この業界では日常茶飯な揉め事さ
そう言いたげに見えた横に座るドレスの女性客だったが
さすがに今は表情が消えている
そんな彼女は
名も知らぬ彼女は
正面を見据え
表情と目線は凍り付いたまま
名も知らぬ私の手を握った
────なんとかして
その手が、そう伝えてる
その震えが、そう訴えている
その時、私は……
観葉植物を通じて森と大地、そして大自然と一体化していた
ここは地下
すなわち大地
そして横には観葉植物
そして私も大自然の一部
森よ
自然よ
私は空気
そう、誰にも気づかれず、ただ流れる空気
人はそれを、風と呼ぶ
目前で繰り広げられる争いごとなど
風である私には関わりなきこと
ただ通り過ぎるのを待ち
頃合を見て2000円置いて帰るのみ……
◇◇◇
以上。
私がゲーセンで働く二年前
観葉植物を通じて森と大地、そして大自然と一体化した話である
なお
人が刺される瞬間を見た人生で最初の出来事でもある
え?
この後どうなったかって?
知らん。
適当に頃合見て逃げ帰ったから
この店どうなったかって?
知らん。
ていうか二度と行くかよ、こんな店!
まあ、カラオケ設備は新調したと思うよ




