表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

バンドやろうぜ ⑥


 Sは不思議な男だった

 当時同じ会社に勤める同僚だったのだが

 結構すごい資格を持っていて

 現場は同じでも所属部署が違う

 (給与もダンチで違う)


 余談だが、Sが持つ資格試験の本を読もうとしたことがある

 まず量子力学の基礎から始まり

 次にクーロンの法則 F=K0 q1q2/r2

 F (電気力) K (クーロン定数) q1q2 (電荷) r (分離距離)

 ……?

 次のページを開くことなく、その本を閉じた


 そんなSだが、性格が変わっている

 嘘がなく真面目で、芯が強く口が悪い

 品格は無いが下品は好まず

 愛想は無いが協調性は高い


 スポーツ経験は無いらしいが、非常にバランスの良い身体


 私が冗談を飛ばすと

 無表情で「殺すぞ」と言い放つ

 最初はドキッとしたが

 すぐに慣れた

 ていうか嘘のない感想を忖度なく即答できる

 天然で素朴で信頼のおける男だったのだ


 実は私が思い描く「理想の人間像」だったりする

 こんな人間とは付き合いたくないが

 こんな人間になりたいと憧れていた

 本当に中身が「カッコいい」男だった


◇◇◇


 Sはラルクアンシェルの大フアンだった

 そんな彼にセックスマシンガンズを聞かせると沼にハマり

 こんなドラムが叩きたいと言い出した


 ……チャンス到来


 私がSにドラムを教える……までもなく

 彼は衝動的に躊躇なく家庭用の電子ドラムを購入

 自宅のマンションで練習を始めた


 しかし近隣からクレームが来たらしい

 防音性が高いはずの電子ドラムであっても

 やはり自宅、しかもマンションでは無理がある

 (注:昔の話なので、現在の電子ドラムの防音性能は知りません)



「はあ、思いっきりドラム叩きたいわ」


「あら、そういうことなら私にお任せあれ、ホーホホホ」


「はあ? なんかええ方法があるの?」


「音楽スタジオを当日個人で借りたら一時間500円でしてよ」


「ええやん、そこ連れていってくれや」


「よろしくてよ、ただし紹介料5000円頂きます」


「殺すぞ」



 音楽スタジオは二人くらいなら個人借り扱い

 私はSをスタジオに連れて行き、ドラムを叩かせた



「おお、本物のドラムは気持ちええなあ」



 機嫌よくドラムを叩くS

 私は

 私は……

 私は…………

 人生で二度目となる「音楽才能の怪物」「天然の天才」

 その出現に驚愕していた



 モーツアルトを見たサリエルの心境か?


 否。


 孔明を見た劉備

 ジャンヌ・ダルクを見たフランス軍

 フリーダムを見たマリュー・ラミアス


 英雄到来の瞬間を

 アニメじゃなく

 ゲームじゃなく

 嘘松脳内作り話ではなく

 リアルで現実に目の当たりにしたのだ


 こんなに痺れた瞬間、映画でも味わったことねえわ


 なんと彼は、セックスマシンガンズのドラムを

 私の目から見ても納得できるレベルで再現していたのだ

 それも何曲も

 それも難曲を


 「みかんのうた」「ファミレスボンバー」「Devil Wing」


 電子ドラムと同時に購入したと思われるツインペダルで

 スタジオのバスドラムをドロロロロロロ!と連打する

 安定した、いや、走っているが、それまた心地よいリズム感

 私も一応ドラムを叩けるが

 この時点で既にSの足元に及ばない

 わずか一か月も経たないドラムの初心者が……


 長いバンド歴を持つ私を叩きのめし息の根を止め埋葬し成仏させたのだ!


 私がなろうで良い創作が出来ないのは

 こういう経験があったからだと思う

 体験した現実にどうしても想像が追い付かない

 そして言語化し表現することが出来ない


 リアリティのない現実は表現者にとって猛毒だ


 漫画家だったらワンチャン……とか思ってしまう

 だから絵師、漫画が描ける人に心底憧れてしまう

 一度も投稿したことのないpixivで膨大なフォローがいるのはそのためだ

 ちなみにフォロー数500人前後

 フォロワー0人


 なおTwitter……いやいや、Xも似たような感じである

 もちろんフォロワー0人


 (注:検索して探さないでください)



◇◇◇



 

 Vo 黒い安息日

 Gt Bくん

 Ba カルロス

 Dr S

 Dr Tくん

 (ドラマー2名所属の状態)



 この時代の無敵感といったらもう……


 本作では書かないが

 実は会社というか自分で商売をしたことがある

 だから社長というか……いや私しかいなかったが

 それなりに稼がせてはもらった


 一応合法だが言えない話も多いので書けないのと

 実は書けるほど面白い出来事なんて起きてない

 地味

 ひたすら地味

 安く買い高く売る、それだけ

 むしろイレギュラーな出来事は徹底して避けていた


 ……転売屋とか違法物売買とかじゃないよ

 普通に店舗借りてお店してただけ



 だからこの時代

 バンドマンとして最高のメンバーが揃った、この時代

 本当に本当に本当に楽しかった

 マジで気持ちよかった


 なんだろ

 ヤンキー漫画で言う所の最強メンバーが揃ったチーム

 登場するだけで熱い展開しか想像できない

 「外道」や「爆音小僧」や「鈴蘭高校」や「武装戦線」

 自分がその幹部になったような高揚感


 毎日が楽しいぜ!



◇◇◇



 では最後に、当時一番笑った話を



 ライブハウスの雑誌か何か

 フリーペーパーだっけか?

 いや詳細は忘れたがギャラは貰ってないので

 無料配布する何かだとは思うのだが


 私のバンドを掲載したいと連絡が来て

 その編集部から、メンバーの顔写真を送ってくれと言われた

 ケータイで撮影した画像で十分とのこと


 その時私は神戸三宮の「にしむら珈琲」で

 優雅にコーヒーを飲んでいた

 たしか北野坂だ

 昼間だった

 めっちゃ覚えてるわ……


 その場でバンドメンバーに

 これこれこういう訳で、顔写真を送れとメールを送信

 私もその場に居合わせた知人に撮影してもらった


 AIの画像生成を活用して、この時の状況を再現しよう


 まずはその場で撮影した私の画像


挿絵(By みてみん)


 まあ本物はこの数倍美しいが、これで良しとしよう

 シックな内装の壁を背に座っていたのだが

 私レベルの貴族令嬢になると勝手に薔薇が写ってしまう

 高貴すぎるのも考えものだ

 なお、撮影した知人は自撮りに落ち武者が写り込む


 そしてSからの画像を受信


挿絵(By みてみん)


 まあ生成されたAI画像の人物がSに全く似てないのはともかく

 背後がレンガだったのは再現できている

 どこか旅行先か何かで撮影したのだろうか

 ま、良しとしよう

 私は焼き菓子を口に含み、甘さを堪能した


 続いてカルロスからの画像を受信


挿絵(By みてみん)

 

 ん~、もっと若かった記憶だな

 だってあいつ、この頃まだギリ10代だったはず

 背景は忘れたなあ……

 いかにも白人ミュージシャン的な見た目だった

 こいつのルックスで注目度高まるかも……

 などと考えながら、私はコーヒーを口にした

 カルロスとコーヒーは深い関係があるのだが

 その話はいずれ……


 そしてBくんからの画像を受信


挿絵(By みてみん)


 ぶふぉーーーーーーーー!


 盛大にコーヒーを吹く黒い安息日

 おい

 Bくんよ

 確かに私は「顔写真送れ」とは言った

 でも雑誌に掲載するって、言ったよな?

 顔写真の解釈に君と私で大分相違があるな


 たぶん私のメール見て

 その場で自分を撮影したんだろう

 でもな、冷静に考えてくれや

 その画像が雑誌に掲載された状況を


 ていうかその表情なんやねん

 (本当にこんな表情だった、画像はかなりの再現度)


挿絵(By みてみん)


 いや、これはこれで違和感ないか……

 そもそも私の画像がクセ強すぎる

 いや、他のメンバーもか

 逆にSだけが奇人どもに紛れ込んだ一般人にすら見える


 だが当時の私は

 Bくんの画像を見ては狂ったように笑い

 後日思い出して笑い

 突如 (とつじょ) 深夜に目を覚まし、思い出して笑っていたのである




 (一部改変していますが、基本実話です)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ