11 夢、むすぷべき
次の日曜日、定信義市と桂木美鈴は二人で秘密の隠れ家に向かった。
その日は肌寒さを和らげるため、うすい水色のスカーフをしていた。
スカーフがよく似合う。
定信義市は桂木美鈴の体調を気遣いながら少し前をゆっくり歩く。
美鈴は少し遅れてついてきた。
定信義市は美鈴と一緒にいるだけで、気持ちが風船のようにふわっとふくらんだ。
「今日はありがとう」
声が後ろから聞こえた。
「え……?」
「隠れ家に連れて来てくれて……」
「三平と二人の秘密なのだけど……桂木さんは特別だ」
「青柳くん、怒らない?……」
「怒るかも?」
「困ったわ……」
「青柳は、僕が桂木さんと一緒にいると機嫌が悪くなるんだ」
「私が嫌いなのかしら……」
「ちがうよ……桂木さんが好きだからさ。だから、僕が桂木さんと一緒にいると怒るんだ」
二人は十五分ほどたって橋に着いた。
秘密の隠れ家とは、橋の両側を支えているコンクリートの支柱の下の窪みのことであった。
立つことは出来ないが、二人が身体を触れさせないで座れるほどの空間があった。
そこにたどりつくには橋の横から、やや急な坂を降りていかなければいけない。
定信義市と三平は慣れているから平気だが、美鈴は女の子なので無理はできなかった。
もう一つは少し離れたところから、なだらかな土手道が川の岸まで下りていた。
定信義市はその道を選んだ。
それでも美鈴の足元に気をつけて、ゆっくりゆっくり下りていった。
いったん川岸に下りて、それから橋まで少し歩き、今度は上に少し上ったら、その隠れ家があった。
それは定信義市と三平が偶然見つけた。
橋の下だから他人から見られることも少なく、邪魔も入らないのでゆっくり話しが出来た。
定信義市が先にそこに入ってコンクリートの塊に座った。
「さあ、入れよ……」
定信義市はテレ笑いながら手を差し出した。
「ありがとう……」
美鈴は辺りが気になるのか、二度三度振り返った。
「身体は大丈夫?」
その時、定信義市はなかなか入ってこない美鈴を心配して聞いた。
「うん、でも、男の子と……」
「そんなことか、それなら君がこっちに座れば誰にも見られないよ」
奥の方は一部が壁になっていて、外から見えにくくなっていた。
「でも、外で風に当たっているほうがいいわ」
「君がそう言うのなら、それでもいいよ」
「でも、楽しそうね。もっと大きくなって何でも平気になったら、今度はほんとに、この隠れ家で定信君とずっと話をしていたいわ」
「大きくなったら、ここは狭くて二人じゃ入れなくなっちゃうだろ……大きくなったら、別の所で二人の隠れ家を探すんだ」
「二人の隠れ家を探すの? 私に探すことができるかしら」
「僕と君と二人で探すんだ……花と緑が広がって……そこに甘い食べ物を一杯持ち込んで」
「それって、二人が……結婚するってこと……」
一瞬驚いたように定信義市は目をむいた。
「隠れ家さ。秘密の隠れ家……三平も知らない二人だけの場所……」
「楽しそうね。結婚するより、楽しいかも……」
「結婚したら、隠れる必要なんかないから、きっと楽しくないと思うよ」
その言葉を聴いているのか桂木美鈴はニッコリ微笑んでいた。
定信義市には、それが何処か寂しげな笑顔に見えた。
そんなことがあって、数日が過ぎた。
それは突然の出来事だった。
昔、講談(講釈)が盛んだった頃には、講釈場では時代劇の続き物をやっておりまして、切り場になったところで「又、明晩」と期待を持たせて終わらしたと聞いたことがあります。
それは突然の出来事だった!
読んでいただいて有難うございました。