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悪役令嬢ですが、破滅イベントよりホコリの方が気になります。  作者: 南蛇井


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宮廷クーデターの舞台裏清掃

王都の下町、石畳の裏路地にひっそり佇むギルド事務所。

そこへ一通の依頼書が届けられた。


「古い倉庫を掃除してほしい」


……ただそれだけ。


内容自体はごくありふれたものである。だが、問題は差出人。名前は仮名、身元は一切不明。しかも「至急」「人目につかぬうちに」という但し書き付き。


ギルドの職員は怪訝そうに眉をひそめた。

「なんだか胡散臭いですね……普通、掃除なら堂々と頼みますけど」


けれども、依頼書を手にしたミランダは、優雅に扇子をぱたぱたとあおぎながら微笑んだ。

「まあ、掃除依頼なら断る理由はありませんわ。むしろ、急ぎであるほど張り合いがございます」


その自信満々な姿に、周囲のギルド員たちは顔を見合わせる。

「……また始まった」

「ミランダさんの“掃除魂”が燃えてる……」


こうして、不審な倉庫の清掃依頼を、彼女は軽やかに引き受けるのだった。依頼場所の倉庫は、王都の下町でも一際さびれた一角にあった。

外壁は黒ずみ、扉は錆びついてギィと不快な音を立てる。


「……まあ、見事に放置されてますわね」

ミランダは扇子を閉じ、軍手をキュッと装着。隣のギルド員たちもゴクリと息を呑む。


中に足を踏み入れると、もわりとした埃の臭気が鼻をついた。

天井から床までクモの巣だらけで、棚には長年の埃が山のように積もっている。


「ギルド員の皆さま、手順通りに参りますわよ。まずは天井から!」


ミランダが《セイントダスター》を振ると、神聖な光を帯びた羽箒がシャラリと舞い上がる。

たちまち、天井の黒ずみが剥がれ落ち、梁が新品同様の木目を取り戻す。


「おお……」

ギルド員たちが目を丸くする中、清掃は一気に加速した。

棚を移動させ、床を拭き、積み重なったガラクタを仕分けていく。


ところが――。

「……おや?」と、ミランダがふと手を止める。

棚の裏に、妙に新しい仕切り壁が隠されていたのだ。


さらに床を叩いてみると、コンコンと乾いた音。

「……床下に、空洞がございますわね」


ギルド員たちが顔を見合わせ、ざわめく。

掃除をしていただけなのに、なにやらきな臭いものが顔を出し始めていた。埃を払い落とした仕切り壁を外すと、ギィ、と不気味な音を立てて空間が開いた。

そこにあったのは、ただの倉庫用品ではなかった。


「な、なんですかこれ……!」

ギルド員の一人が声を裏返す。


中には整然と並べられた槍や剣、革鎧、さらに盾の束。

壁際には木箱が積まれており、中身を開けると矢や火薬樽がぎっしりと詰まっている。


極めつけは、机の上に広げられた羊皮紙。

そこには王都の地図が描かれ、王城への突入経路や兵の配置計画まで赤い線で克明に記されていた。


「これ……完全に反乱軍の隠し場所じゃないですか!」

「わ、私たち、掃除どころかクーデターの証拠品を見つけちゃってるんですけど!?」

ギルド員たちが青ざめて大騒ぎする。


しかしミランダは、扇子をパチンと閉じ、眉をひそめただけだった。

「……掃除の妨げになる物は、すべて取り出す。それが鉄則ですわ」


そう言って、彼女は槍を一本つまみ上げると、ためらいもなくギルド員に渡す。

「ほら、持って外へ。片付けを続けますわよ」


ギルド員たちは「えええぇぇぇ!?」と絶叫しながらも、反乱の武器をせっせと運び出す羽目になった。


倉庫の埃と一緒に、反乱軍の陰謀まで白日の下にさらされていく――。「……これは掃除の範疇を超えましたわね」

ミランダは扇子で口元を隠し、すぐさまギルド員に指示した。

「あなた、王城へ走って報告を。宰相閣下に直接伝えるのですわ」


伝令は駆け、ほどなく宰相と近衛騎士団が動き出した。

王都の反乱計画など、放置できるはずもない。

数時間後には、倉庫の周囲を近衛騎士が包囲し、隠された武器や地図はすべて押収されていた。


「まさか……こんな早く……!」

翌夜、戻ってきた反乱軍の首謀者たちは愕然とする。

そこにあったはずの槍も、火薬樽も、入念に練られた作戦図すら影も形もない。


代わりに彼らを迎えたのは、槍を構えて並ぶ近衛騎士団と、厳しい目をした宰相の姿だった。

「武器はすべて押収済み。計画は未然に潰えた。――もはや言い逃れはできんぞ」


反乱軍はその場で拘束され、たちまち城へと連行されていく。


一方、倉庫の隅ではミランダが淡々と棚を拭いていた。

「ふぅ……埃は根こそぎ落とせましたわね。おかげで反乱の方も一掃できましたし」


ギルド員たちは顔を見合わせ、心底ため息をついた。

「……掃除で国の危機が救われるとか、誰が想像します?」「ぐっ……まさか……掃除で計画が潰えるとは……!」

縄で縛られ、地面に押さえつけられた反乱軍幹部が、頭を抱えて呻いた。

彼らが何か月も練り上げてきた王城突入作戦は、埃まみれの倉庫を磨き上げられたその日、あっけなく瓦解したのである。


近衛騎士団に取り囲まれ、抵抗の暇もなく武装解除されていく反乱軍の面々。

「我らの理想が……埃に……!」

誰かが呟き、捕らえられた仲間たちの間に虚脱した笑いが広がった。


その報告を受けた王城の謁見の間では、王妃が玉座の横で扇を閉じてため息をついた。

「掃除でクーデターを潰すなんて、前代未聞ね……」

呆れ半分、しかし同時に深い感心をにじませる声音。


宰相が苦笑しながら頷く。

「もはや王国の防衛には軍隊と同じくらい、ミランダ嬢の箒が必要不可欠ですな」


当のミランダは頭を下げ、にこやかに答えた。

「まあ、掃除とは――乱れを整えることですもの。反乱もまた、汚れの一種に過ぎませんわ」


ギルド員たちは内心「そんな格言じみて言うことですか!?」と総ツッコミを抱えたが、声に出す勇気は誰にもなかった。鎮圧劇が一段落したあと、王城前の広場で一息つくギルド員たち。

ほっとした空気の中、例のギルド員少年がきらきらと目を輝かせて口を開いた。


「じゃあ……次は敵国の兵舎も掃除しちゃえば、戦争もなくせるんじゃないですか!」


周囲が一瞬ぽかんとなる。

だが、ミランダはまるで当然とばかりにうなずいた。


「まあ、汚れがなければ健康的ですもの。兵士たちもきっと快眠できて、争いの気も薄れるかもしれませんわ」


さらりと返され、ギルド員たちは「え、肯定するの!?」と顔を見合わせる。

そこへ近衛騎士が全力で割って入った。


「いやいやいや! 国家間戦争の話を、雑巾一枚で解決するつもりか! 規模が違いすぎるだろう!!」


盛大なツッコミに場がどっと沸き、重苦しかった空気が一転して笑いに包まれる。

こうして「掃除でクーデター未遂を阻止した」という珍事件は、王都の人々に長く語り草となったのだった。

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