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8 恩師とは

 「光昭さんは今朝、通行人の通報により河川敷で倒れているところを発見されました。しかし、現着した警察官がその場で光昭さんの生死を確認しましたが──その場で死亡が確認されました。屍体には特に目立った外傷はなかったようですが、首元に注射針で刺されたような痕があり、現在鑑識が調べているところです」


 メモ帳に書かれていることを滔々と読み上げると、夕海は顔を上げ、パタンとメモ帳を閉じた。


 「注射針……ということは、殺害した犯人は医療関係者か狩人のどっちか、それとも全く見ず知らずの人がやった、ということになるな……」


 低い声で独り言のようになつが呟くと、夕海は「ええ──私たち警察としてはそのように考えています」と一旦言葉を切り、また話を続けた。


 「ただ、これはあくまで警察としてではなく──私個人の見解として聞いて欲しいですが、今回のコロシ、狩人が犯人だと思わない方が良いかもしれません」


 「……それってどういうことです?」

 少し声量を小さく話す夕海に対し、波岩は首を傾げた。その反応を一度一瞥した後、夕海は再度話し始めた。


 「捜査情報でかつ、まだ帳場に居る上司に報告していない情報ですが──光昭さん、家族に逃げられている最中に狩人たちに追われている……とのことでした。私の他にもう一人刑事がいまして──まあ言わなくても分かる通り、美桜さんですが──、その彼女と鑑取りを進めていたところ、そのような話があがってきました」


 「なるほど……その話って具体的にどういうこと?」と波岩。


 「よくある話で金銭関係の話だそうで。あとはまあ……その追っていた狩人の一人と恋仲になっていたことぐらいですかね」


 「恋仲?」

 「ええ。狩人の──確か、エリという人だったような──」


 そう言いかけた時、なつが唐突に「その人はこの数日前に依頼してきたぞ」と声を出した。夕海が「本当です?」と視線を彼女に向けると、「ああ」と頷いた。


 「その人なら私たちに依頼してきたんだが──ついさっき、彼女の家を訪れたばかりだった」

 「な、なるほど。で、それで」

 「それが──襲われたんだよ。あの人に。まさか依頼人が狩人だなんて……思いもしなかったけど、とりあえず助かったんだ」


 「それは何よりです。で、その時に分かった情報があれば」

 とメモ帳を開いてペンを持つ。


 「……君たち警察が今し方発見した屍体は違法に人体実験された身体で、〝あの方〟を命にエリという女性は動いていたようだった。恐らく……発見次第処分という名の処刑を下していたんだろう」


 低い声で語るなつを一瞥しながら夕海はメモ帳に記入していく。その姿を横目で見ながら、波岩は「けど、どうして嘘なんてつく必要があったんですかね」と口を挟む。


 「はあ?」

 「え?」

 「そんなの、私たちの口を封じるために決まってるでしょ」


 となつが呆れながら話す。その表情と両手を大きく開いた姿を見て一瞬苛ついたものの、すぐにそのイライラを抑えて「……はぁ」と頷いた。


 「でもなんでそんなことを聞くんだ?」

 となつ。一応聞くんだ、と波岩は隣の女性をチラリと見る。


 「まあ……何というんでしょうか……。〝あの方〟の為だとかは確かに言ってましたけど、何だか自分の為とでも思えるんですよね……」

 「自分の為?」


 「ええ──まあ。あの方──僕たちには正体なんて分かるわけないですけど──の為だとは言っても、目的の人物と元は恋人関係だったと嘘をつく必要なんてあるかな……と思ったんですよ。もし嘘をつく必要がなかったら、なつさんに頼ることなくあの人単独で調べられたかも知れないと思ったんですよね」


 「……となれば、そこに違和感があると?」

 確認するような口調でなつが波岩を一瞥すると、彼は「ええ」となつを見つめながら頷いた。


 「まあ確かにあり得る。狩人たちは独自にネットワークを拡大しているし、吸血者の情報があればすぐに駆けつけてくる人だからな……。──一応、今回関わっているエリという人間を調べてくれないか?」


 なつが顎に手を添えながら呟いた後、目線を夕海に変えて尋ねた。その言葉を聞いた彼女は「そう言うと思って」とメモ帳をまた開いた。


 「調べておきましたよ。じゃあ早速──」

 そう言った途端、「待って」と波岩が口を挟んだ。


 「どうした?」

 「そのことなら必要要らないような気がするんですけど……。ほら、なつさんって血液を介して人の記憶を見ることが出来る能力があるわけですし」


 「ああ、そう言えばそうでしたね」

 夕海は一度波岩と顔を合わせた後、二人でなつに顔を向けた。が、彼女は首を横に振った。


 「いいや。あの彼女の記憶は改ざんされてて無理だったんだ」

 「え?」と夕海。


 「狩人って言うのは──互いに過去を詮索しないルールで、もし詮索されても何も問題が起きないよう、記憶が改ざんされるんだ。どんなに幸せな過去であっても──どんなに不幸な過去であっても──」


 「でもそれって、誰がそんな」

 「さあ」と言い、なつは夕海から視線を外した。「……誰のせいだろうな」


 「……まあそれは置いておいて。私が調べた情報によれば、エリという女性は元々児童養護施設で働いていた方だったそうです。ですが、ある出来事をきっかけにそこを退職する羽目になったそうで」


 「ある出来事?」となつ。


 「ええ。働いていた施設が突如として閉鎖され──そのことについて少し調べましたが、恐らく狩人たちの仕業かと──、その後彼女は路頭に迷うことになりました。そこを彼女からして見れば恩師だという人物に拾われ、今の狩人と呼ばれる職業に就いたとのことでした」


 「──なるほどな。まあ、その施設が狩人たちに潰されたのは大体察しがつくから今は良いとして……とりあえず、その恩師の元へ出向く」


 と言うと、何も指示を飛ばされていない波岩が「はいはい」と立ち上がった。


 「車を出せ、と言うんでしょ。分かってます」

 「気前がよろしい」


 波岩を一瞥しながら、なつは口角をクイッと上げる。その表情を波岩は見た後、自分のデスクに戻る。ある車のキーを手に取ってズボンのポケットに入れるが、「ちょっと待って下さい」と夕海が二人の足を止める。


 「ん?」と波岩。

 「それがその恩師──私が此処に連れてきてるんです」

 「はっ?」


 意味が分からず、波岩となつがキョロキョロとした後、二人で見つめ合う。すると、事務所のドアが開く音が聞こえ、なつと波岩──そしてその恩師を連れてきたという夕海がその扉の先へ目線を向ける。そこに居たのは──。


 「どうもご無沙汰しております。波岩の父の──波岩義彦と申します」


 そのダミ声に──彼の息子は目を大きく見開いた。

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