56 狩人の目的って?
大久保宅に向かっている時、波岩の運転する車の助手席で羽賀野なつが話していた。その話の内容は友井靖子が大久保什日を嘗て施設下において管理していたことだった。
彼女が話した内容は誰から聞いた話でもなく、自分がまだあの施設にいた頃見た話だと前置きした上のものだったが、その話を運転席で聞いていた波岩にとって、本当にそれは見聞きしたものなのか疑心暗鬼だった。
なぜなら、彼は極秘に彼女の秘密を調べた事があるから。
この事件を聞いて大久保什日や友井靖子、更には狩人、ムンクという科学者が関わっていることに分かったものの、なぜ彼らがこのような事件を引き起こすかが分からなかった。
大久保や友井は置いておく。だが、なぜ国家公務員扱いをされている狩人や科学者が自ら犯罪を企てるようなことを行う?
あの時のいじめが発端となって起きた事件だってそうだ。あの事件は狩人たちが無理やり介入した影響で、事件の幕が強引に下ろされた。そのことに美桜や夕海など警察の人々は酷く憤っていたが、時が経過すればするほどその感情とやらはいつの間にか収まっていた。
なぜだろう。
一体、何を企んでいる?
それに、羽賀野なつは何を知って、何を知らない?
自分について知るために、彼女は探偵をしていると言った。
そのことを知るためか?
それとも──
一人で考え込んでいると、隣から「おい」と馴染みのある声が聞こえた。その声に反応するかのように、波岩は顔を上げて隣を見た。そこには「青信号だぞ」と注意してくる探偵がいた。
「すいません」
そう言い、波岩は車を発進させた。臀部にエンジンの響きが伝わってくる。
「何を考え込んでいたんだ?」
なつが話しかけてきたのは数秒後のことだった。波岩は動揺を悟られることなく、「いえ、何も」と慇懃に言った。
「そうか……それにしても」なつが態勢を変えた。「この事件、あいつは何を考えているんだろうな」
「あいつ? ……あの科学者のことですか?」
「……科学者の名前まで言うな。今度言ったらお仕置きな」
──子どもかな。
そう思いつつ、波岩は「すいません」と口で謝罪の言葉を述べた。
「にしても、何を考えてるんですかね」
さっき彼女が話した言葉を波岩が呟く。
「…………国家転覆」
「はい?」
なつから恐ろしい言葉が聞こえ、波岩は思わず聞き返してしまう。バックミラーを覗き込むと、波岩と同じ反応をしていた美桜と夕海の姿が見えた。
「これもあの施設に居た頃聞いてしまったんだよ。あくまで噂でしかないけど、私の見立てからしたらあいつは必ずやる」
「で、でも……」
と後ろで声が聞こえる。バックミラーで見ると、口を開いていたのは夕海だった。
「なんだ?」となつが後ろを振り返らず訊ねた。
「国家転覆なんて……小説でしかない出来事と思ってました。まさか……」
「ああ、そのまさかだよ」なつは溜息をついた。「この計画がいつから進んでいるものなのかは知らない。ただ、彼らが最終的な目的としているのが国家転覆ということだけだ」
「じゃあ、今回の事件はその目的を達成するための一部に過ぎないってことですか?」
夕海の隣に座っていた美桜が話す。
「そういうことだ。飲み込みが早いな」
「これでも捜査一課の刑事です」
キッパリと言う美桜をバックミラーで波岩はチラっと見た後、正面を見た。
そこには、目的地である大久保什日の自宅が夕日の光を浴びながらそびえ立っていた。




