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53 ある女性の話④

 あの日から一ヶ月とか二ヶ月が経過した。


 私はムンクという科学者に雇われ、彼が勤務しているという吸血病管理庁──正確にはその離れの建物で彼の右腕として、そして科学者として何不自由なく働いている。


 彼の右腕として働く……というのは正直意味が分からなかったが、立場上は科学者であるためか、理系の問題をぶつけられることが多い。幸いにも私は理系の人間であり、特に化学については得意分野であるため、この施設で主に取り扱う化学については得意だった。


 プライベートの時間もしっかりと設けられているため、休みの時間は休みとしっかりと取ることが出来た。まあそれは、前の仕事でもそうだったけど。でもどちらかというと、今の仕事の方が不自由なく過ごすことが出来ているし、科学者もとい吸血病管理庁は元々国の機関であり、職業上は国家公務員に振り分けられているため、給料が前の仕事より安定している。それに前の仕事の安月給より今の仕事の方が多く貰えているためか、プライベートで買う物が多くなった気がする。



 ──そのせいで部屋が物だらけになったのは目を瞑りたい事実だけどね。



 独り言を内心呟きながら、目の前にあるディスプレイと向かい合って仕事を熟す。世間的によく言われそうな難解な数式や英語がディスプレイ上に現れており、私はキーボードをカタカタと入力して論文とやらを書き上げていく。


 一応私も科学者だ。何かしら形でも科学者として論文を書かないと。


 そう思っていると、扉をノックする音が部屋に響く。私はその音に反応して「はーい。どうぞ」と少し高い声を出した。


 「どうだい? 調子は」


 そう言って顔を覗かせたのはムンクだった。相変わらず端麗な顔つきと左右異なる双眸が目についてしまった。


 「ムンクさん。調子は良いですよ」

 そう言いつつ、私は自分の部屋を入って物色しているムンクを一瞥する。狭い自分の部屋を彼は事細かく、まるで探偵のように物色している。


 ここ一ヶ月で彼について徐々に分かったことがある。


 まず、彼はだいぶ変わり者だと言うことだ。


 これは彼の右腕となった私だから分かったことなのだが、歩き方は大股だけどどこか雑多な歩き方をしているし、歩いている時とか食事を共にしている時とか、様々な場面で彼は人間観察をしている。当初は何をしているんだろうと思って訊ねようとしたが、彼の漏れた独り言が下ネタだったため、何となく察してしまった。


 だが、変わり者のくせにやたら記憶力が良い。これについては彼自身に訊ねたことがあり、彼曰く映像記憶と呼ばれる能力が備わっているとのことだった。また、一部分ではあるが見た物そのものを見たそっくりに覚える、いわゆるフォトグラフィックメモリーという能力も彼に備わっているらしく、そのせいか人の顔を覚えるには一度だけで良いとのことだった。


 彼についてもう一度脳裏で振り返っていると、当の本人から「ねぇ」と声が掛かった。いつの間にか私の目の前に来ており、椅子ごと少し後ずさってしまった。


 「実験、参加してくれない?」

 そう言った彼の口元には危険な笑みが浮かんでいた。

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