52 ある女性の話③
二日後。私はムンクという科学者に連れられ、草木が生い茂った獣道を歩いていた。周囲には森林が生い茂っており、今にも野生動物や得体の知れない何かが出てきそうな、雰囲気だった。
夏なのに寒く感じる中、私はムンクの後ろを歩いていくと、開けた場所に出る。その場所には洋風な建物で、富豪で住んでいそうな大きかった。前の人物が私にフッと笑みを浮かべた後、建物の中に入る。私もその後を追って中に入る。
建物の中もとても広く、まるでどこかの時代のヨーロッパにタイムスリップしたような感覚だった。
「どうだい? 私の職場は?」
「……とても、広いです」
そう言うと、突如としてムンクが「ハッハッハッ」と大笑いを始めた。中々特徴のある笑みに私は目をパチクリさせた。
「まあこの建物はカモフラージュ用なんだけどね。本当の職場はこの下にある」
と言い、近くのエレベーターを指差した。中央階段の横にあるエレベーターで、隠されているのか、エレベーター自体がひっそりとしていた。
ムンクがその場所に近づき、自身のIDカードを傍にある専用機器にかざす。すると隠し扉のようになっていたエレベーターが開きだし、その中へムンクが入り、続いて私も入る。
彼がエレベーターの階数ボタンを押し、開閉ボタンに触れると扉が閉まる。
「ここからは誰にも言ってはいけない場所だ」
私に振り返らず、彼が話し出す。その言葉に重みがあり、思わず私は緊張してゴクリと喉を鳴らしてしまう。
「緊張してるのか?」
と初めて彼が振り向く。
「ああ、いいえ」咄嗟に私は首を横に振った。
「まあ良いよ」彼は微笑んだ。「この場所には多くの科学者が勤務している。皆それぞれの目的を元に実験など行動をしている。そこでだ」
そう言い、ムンクは私に振り返った。水色の片目が見入ってしまう。
「君にはこの場所で科学者として働いて貰う。そして、俺の右腕としてでもな」
「右腕……」
私はその言葉を繰り返した。
右腕……。こんな平凡な私でも出来るのだろうか。
不安な気持ちに駆られる中、その気持ちを悟ったのか──ムンクがいきなり私の隣に来て耳打ちをしてきた。
「心配しなくて良い。君は俺の為だけに働いてくれれば良い。それに君にしか果たせない仕事があるんだ」
「私にしか、できない……?」
首を傾げると、彼は一旦柔らかな笑みを浮かべてから私と距離を離した。そして、両手を大きく広げて高らかな声で言った。
「暫くの間見て貰いたい人がいるんだ!」
そう言った後、暫く私たちの間で微妙な空気感が流れた。




