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51 ある女性の話②

 その日の夜。冷たい夜風を火照った頬で感じながら、一人寂しい夜道を歩く。駅から五メートル離れた住宅街であるが、人通りは少なく、電灯のみが寂しく道端を照らしていた。


 元々人通りが少ない道。昼間でも静かな道だが、夜道になれば虫の鳴き声がよく響くほど静かだ。そんな住宅街の道を私は気に入っているし、疲労が溜まっている時にこの道を歩くと何故かは知らないけど、落ち着く。


 実家のような安心感だろうか、そんな感じがする。


 ただ──この道を偶にあの彼らが使用して吸血者を捕まえる時だけが玉に瑕だ。


 その時だけは絶対的に静かにならないし、必ず騒音問題に繋がる。彼らが吸血者を捕獲するときに使用するものは殆ど周囲に騒音をもたらすものである。それを駅前など騒音が気にならない場所ならまだマシ、騒音が気になるような、住宅街などの場所で使用されたら──本当にうるさいのである。時折その状況で二時間ぐらいしか寝れなかった時がある。


 「疲れたなぁ」


 独り言が夜風に吹かれて流れていく。片手に持っていた携帯の画面に目線を落とすと、そこには愛犬のルビーが映し出されていた。毛色が茶色のトイプードルで、昨年の冬頃に亡くなった。


 理由は分からない。ただ、いつの間にかルビーが私の家から脱走して、近くの道を走っていた車に轢かれていたとのことだった。


 その時、私は会社に夜勤で出勤していたこともあり、連絡が私の元に届いたのはその日の翌日だった。疲労を感じている中、必死にルビーが搬送されていた動物病院に走ったのは今でも脳裏を掠める。


 そして、今でもそれを思い出す度に、胸が痛い。


 「……ルビー。私はこれから先、どうすれば良いの」


 夜空を見上げて呟く。寂しく点々と照らす星空が私の網膜に映し出された。


 その時だった。

 「……その気持ち、理解出来るぞ」


 そう低い声が聞こえたのは後ろだった。振り向くと、そこにはポツンと人が立っていた。電灯がない場所に立っているからか、顔や性別が分からなかった。


 「……誰?」


 怪訝な目つきで私は訊ねた。その人物はコツンコツンと足音を鳴らしながら、私に近づいてくる。同時に顔が浮かび上がり、端麗な顔つきであるが筋肉質な体つきを見て、私は男性だと思った。


 「初めまして。ムンクと申します」


 紳士な口振りと態度でその人はムンクと名乗った。


 「ムンク……? あんた、誰よ?」

 「科学者です。まあ……普通とは違いますが」

 「普通? 普通と違うってどういうことよ」


 と言いながら、彼の胸元を見た。そこにムンクと印字された名札があり、名前の下には吸血病管理庁とも印字されていた。


 「吸血病管理庁……あんた、科学者?」

 「ええ。あなた、友井さんですよね?」

 「なぜ私の名前を?」


 なぜ私を?


 そう思いながら、私は彼の顔をジッと見つめた。端麗な顔つきで見惚れるぐらいで、仮に化粧をすれば女性にもなれそうな美貌だったが、それぞれ異なる左右の目が奇妙さを更に醸し出していた。また、高身長でもあるためだろうか、カリスマ性が中々にありそうだなと内心感じていた。


 「……自分の勤務先を本日付でお辞めになったでしょう。しかも、身に覚えのない横領の疑惑をかけれて」


 ──なんでそんなことを知っている?


 そう思いながら、ムンクが私の隣に来るのを一瞥する。

 「私は彼らを一括して管理している科学者なのです。その彼らが仕出かしたことをこの私が知るわけがないでしょう」

 「やはりあれは……!」


 つい拳が力んでしまう。その様子を見ていたのか、ムンクが「まあまあ落ち着いて」と私に優しく耳打ちをしてきた。


 「私に提案があります」

 と言い、ムンクが私の顔に近づけてきた。目と鼻がくっつくぐらいの距離感で、彼が囁く様に話す。


 「私の元で働きませんか? ……科学者として。私の右腕として」


 そう提案してきた彼の表情には──妖しい笑みを浮かべていた。

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