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46 事件資料

 当時の捜査員の記録によると、五年前に起きた連続殺人事件は日本中を恐怖に陥れた事件だった。よくメディアは〝日本中を恐怖に陥れた〟と誇張表現を使い、視聴者を驚かして視聴率を確保しようとするが、実際の中身は何てこともない──そんなことがあるが、この連続事件については、警察をも恐怖に陥れた、そんな事件だという。


 連続事件の幕を開かせた一件目の事件は、豊島区内の池袋にある某飲食店にて。そこで発見されたのは、何か鋭利な物で滅多刺しにされた被害者と、刺した時に飛び散ったであろう鮮血が周辺の壁や床に付いていた。その異様な光景を見た発見者──発見場所の飲食店で働いていたアルバイトの男子大学生がすぐさま警察に連絡、事件が発覚したという。


 その後の調べでは身元が判明したが、犯人がすぐに分かるような状況ではなかったという。身元は発見場所の飲食店経営者だそうで、齢は四十から五十程。被害者の身辺は妻が一人で、娘が一人。が、妻は既に他界しており、娘も事件発生から二年前に娶られ、今は東京から離れた遠い地方に在住しており、東京都内に住んでいたのは被害者一人だったそうだ。


 人間関係もあまり広くはなく、当時住んでいた隣人から見た被害者は〝どこか影が潜んでいた〟、〝暗そう〟などと言ったマイナスなイメージが付されており、良好な人間関係ではなかった。被害者には妻や娘が居なくなった後から多額の借金が抱えており、隣人の噂話によれば、被害者は自殺を考えているのではないか? というようなものだった。


 被害者には喉元や腹部を刃物によって切り刻まれていた。その他特徴はないが、首元に二つの穴が空いており、まるで誰かがそこを噛んだかのような痕だった。


 その被害者の状況から鑑み、当時事件捜査を指揮していた管理官が「大体の犯人を吸血者と仮定した上、捜査を進めてくれ」と指揮を執った。その指揮通りに捜査員達が動き出し、被害者と当時関わりのあった吸血者たちを捜し出した。


 その結果、ある一人の吸血者が捜査線上に浮上。


 その人の名を、大久保什日(じゅうにち)


 彼は元々人間だったが、ある時を境に吸血病の感染源と言われるM細胞に感染、吸血病に罹って吸血者となった。人間の頃の彼は知り合いによれば、非常に温厚な性格で真面目な人だったという。何か困っていることがあれば、真摯に向き合ってくれるという人だと言い、そんな人が吸血者となり、人間の鮮血を求めるような行動が多くなったという。


 そんな中、彼は警察に任意同行を求められた際、狩人たちに捕まった。


 警察と秘密裏に繋がっている狩人によれば、また狩人の下で働いている人達によれば、以前から彼の情報は警察が把握するより遙かに手に入れており、いつ捕まえることが出来るのかタイミングを見計らっていたとのことだった。


 そんな中、飛び込んできたのが今回の状況。この状況を踏まえ、狩人たちは什日を捕まえる為に綿密に作戦を立て、警察が彼の任意同行を求めた時に計画を実行したとのことだった。


 当然、目の前の人物が消えたことにより、警察内部は混乱に陥った。憤りを感じて、当時の上司や管理官に不満をぶつける人もいた。だが、狩人たちはこれらを見て見ぬ振りを貫き、什日をどこか保護施設へ移送されてしまった。


 その後の警察の行動として、彼の身辺を徹底的に調べ上げ、什日を被疑者として逮捕できる程にまで証拠を集めていった。


 そんな時、第二の事件が発生する。


 第二の事件が発生したのは都内某所の閑静な住宅街。通行人が『人が倒れている』と警察へ通報したことをきっかけにして、事件が発覚した。


 被害者は喉元や腹部を切り刻まれており、一つ目の事件と同じような特徴をしていた。が、一つ目の事件とは明らかに違う点が一つだけ存在していた。


 それが、路面に血文字で〝JTR〟と綴られていたこと。


 これがどういう意味を表すかはさておき、この血文字を巡って世間では色々な説やら迷信やらと攪乱させた。一つは事件現場に偶然居合わせた人が、犯人がいない間にこっそりと書き加えた。一つは被害者自らが犯人の特徴を十九世紀末のイギリスで暗躍した切り裂きジャック、通称ジャック・ザ・リッパーの略称を書いた。一つは犯人が自らを呼ぶ為にそう名乗った。などと、色々な説が世間の間に飛び交う中、警察の捜査にこっそりと協力をしていた探偵、羽賀野幸夫という人物が警察に対し、「これは単独犯じゃない。複数犯だ」と知り合いの刑事に発言し、それが伝言ゲームのように警察内部に伝わっていき、遂には管理官の耳に入るようになった。


 これを受け、管理官は特別協力人という立ち位置を設け、羽賀野幸夫を捜査チームに加えた。この対応に一部反対する人も存在したものの、『捜査を迅速に進めるため』・『いち早く事件を解決するため』などと管理官が掲げたため、捜査途中で抜ける人は一人も居なかった。


 その言葉が現実になってしまったのは、第三の事件が発生してしまったこと。


 第三の事件現場に選ばれてしまったのは、不遇にも一般住民が住んでいた住宅である。無論その住宅に住んでいた住民がその事件の第一発見者であり、警察によって詳しく事情が聴かされた。


 その目撃者によれば、被害者は目撃者と婚姻関係を結んでいる夫婦だと言い、何もトラブルを抱えることなく生活をしていたとのことだった。これについて、警察は徹底的に裏を調べたところ、周囲の人達からも疑う余地がないほど幸せな人達だったことが分かっていた。


 が、しかし、後に逮捕されたのは、第三の事件で目撃者となった女性だった。


 氏名、友井靖子。


 年齢は四十過ぎで、職業は無職で主婦を専業でしていたという。


 なぜ男性を殺害したのかは不明としながらも、刑事への問いかけに対し、被害者への恨み節を吐露していたことから、動機は夫への恨みが原因なのではないか、と取り調べを行った刑事たちが口々に述べていた。


 そして、彼女は一連の殺人事件の被疑者として──大久保什日の協力者として、逮捕・送検された。

その際の取り調べで、当の本人は当然の如く否認を続けており、連続殺人事件の存在を知らなかったとの主張を繰り返した。しかし、今回の事件とこれまでに発生した事件には幾つか共通点が見られ、そして彼女を逮捕・送検となった決定打となる証拠が、彼女の現場となった住宅から少し離れた公園で見つかったとのことだった。その証拠とは、什日が使用していたであろう凶器が残されていたこと。警察の調べにより、その凶器から複数人のDNAが確認され、それらのDNAが今回の連続事件の被害者のものと一致したことが確認された。


 これらの証拠により、友井靖子は裁判に掛けられた。


 当然、検察や世間は誰もが有罪判決を下されるのだろう──と思っていた。

 だが。





──友井靖子は、無罪判決を言い渡された。





 それだけではない。

 彼女は無罪判決を言い渡されたその日の夜、突如として連絡が途絶えて姿をくらましたのだった。

警察は徹底的に彼女の周囲を洗い出し、現住所を調べ尽くした。だが、その努力は全て無駄となり、彼女の場所は発見することが出来なかった。


 これらの対応はマスメディアによって報じられていないため、世間はこのことを知らない。しかし、警察と関係を持つ人々はこの事実を少しだけだが知っており、痛烈に批判してきた。が、その彼らは全員何も無かったかのように警察への批判を全て撤回し、何事もなかったかのように生きているという。


 恐らくは、圧力だろう。


 警察の圧力ではなく。


 狩人の圧力。


 又その一部の人達の口々によれば、友井靖子は狩人によって攫われており、吸血者にされたのでは? という根も葉もない噂話が出ているそうだった。


 その噂話を信じる人もいれば、信じない人だっている。


 事件の幕は有耶無耶になったまま、静かに降ろされた。

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