43 探偵に依頼された刑事
「何してるの? 夕海は」
コーヒーを片手にデスクに浅く腰掛けた美桜は、何やら大量の資料を自分のデスクに置き、マジマジと調べている夕海の姿を見て話しかける。彼女の言葉が聞こえてなかったのか、数秒経ってから「何か言いました?」と夕海が後ろの美桜に視線を向けた。
「いや、何してるのかなーって」
「ああ、そういうこと」
と言い、夕海は目の前に広げている資料をチラリと美桜に見せた。その資料は殺人事件の資料であり、事細かく状況が記載されていることが見て分かった。
「なつさんに言われて今調べてるんですよ」夕海は美桜に視線を向けようとせず、目の前の資料と対峙しながら話す。
「なつ? なんで?」
「何だか、五年前に起きた三件の殺人事件を調べて欲しいって」
「五年前……?」
そう言い、美桜は一口コーヒーを啜った後、隣のデスクに自分のカップを置いた。夕海の傍に積んであったファイルを一つ取り出し、ペラペラと捲り始める。
「……未解決の、か。でもどうして?」
「さあ」夕海は美桜にわざとらしく首を傾げた。「まあ何か閃いたんでしょ」
「そうだと良いけど……」
浮かない表情をしながら美桜は頷く。その表情に夕海は「何かあったんです?」と首を傾げた。
「いや……でも、最近この事件に絡むようになったなつさん、意欲的じゃないというか……何か、活気がないというか……」
顎に人差し指を添えながら美桜が話すと、それを見ていた夕海が「確かにそうかも」と小さな頭の上に両手を添えた。美桜の瞳から、そのポージングはあざとらしさのある夕海が見えた。
「私の気のせい……かも」
「そうじゃない? 多分、今頃彼女だったら吹っ切れてますよ」
明るい笑みを浮かべながら美桜に頷くと、同じように美桜も夕海に対し頷きを示す。
美桜がデスクから立ち上がり、置いていたコーヒーカップを持つ。その様子を横目で見ていた夕海が「お疲れ様です」と言った。
「うん。くれぐれも体調には気をつけてね」
「分かってますよぉ。美桜さんもお気を付けて」
「だから、その〝さん〟付けは止めてって。恥ずかしいから」
少し照れながら美桜が喋った後、夕海から離れようとする。が、何か思い出したのか、「あ、そう言えば思い出したんだけど」と美桜が話しかける。
「何でしょう」
「さっきの頭に両手を乗せたポーズ……、あざといから気をつけた方が良いよ」
そう言った後、美桜は「じゃあ」と立ち去った。
「……あざとい?」
きょとんとした表情になりながら、夕海は元の作業に戻った。




