42 幕間
夜中、電柱に備え付けられている光が寂しく住宅街の歩道を照らしている中、ある女性がその道を大股で歩く。その女性は何かブツブツと呟いており、偶に通り過ぎる人がそんな彼女を訝しげに見ていた。
そんな女性を──ある一人の女性が後をつけていた。
刃物を持って。
そんな後ろに居る女性のことを気にすることもなく、女性は独り言を呟きながら住宅街を歩く。少し歩いた先に小さな交差点があり、目の前が赤信号だった為に彼女は歩道の手前で立ち止まった。
独り言だけが止まることなく、ずっと口が動き続ける中、後ろから付けていた女性が刃物の先端部分を彼女の背中に突きつけて、
「動くな」
と低い声で脅しつけた。
その声に彼女は動揺することなく、ゆっくりと両手を挙げて抵抗する意思がないことを示した。
「何の用です?」
女性が言った。目の前の歩行者用信号が青になったにも関わらず、彼女は立ち止まり続けた。
「今から私の言うことに従え。でないと──」
「殺す、か。まるでドラマみたい」
言葉を継ぎ足した女性が無駄口に走ると、後ろに居た女性は小さく舌打ちを鳴らし、突きつけていた刃物の先端部分をゆっくりと彼女の腰にめり込ませようとした。
「失敬」
そう言い、女性は謝罪した。その言葉に呼応するように、後ろの人物は刃物をゆっくりと降ろし、代わりに別の物を彼女の腰辺りに当てた。黒い物のようであり、先端部分についていた金属製の突起物のようだった。
「横断歩道を渡ったら右に行け。その後真っ直ぐに歩いたら、左手に私の住居がある。そこに向かえ」
「了解」
淡々と話す後ろの人物に対し、女性は端的に述べた。
二人の間に暫し沈黙が走る。
暗闇の中、二人が目的地の場所に辿り着くと、後ろの人物が「止まれ」と唐突に脅し口調で述べた。その指示通りに女性は止まる。
「ここが目的地か?」
女性が見たところ、一般的な住居だった。二階建ての洋風な住居と言った感じではあるが、塀を越えて雑草が生えており、そして表札が何もないことから、誰も住んでいないことが容易に想像出来た。
「ああ。ここは昔、私が住んでいた場所だ」
そう言い、低い声で「入れ」と持っていた刃物で促す。促し通りに女性は住居に入っていく。
二人が一階のリビングに入った時、最初に声を出したのは脅してきた人物だった。
「羽賀野なつ」
なつと呼ばれた女性はゆっくりと振り返った。
見覚えのある姿が彼女の脳裏に霞んでいく。
「……ナツメか?」
そう言ったものの、ナツメと呼ばれた女性は黙ったままだった。
少し間を置いて、
「あと数日経てば、事件が再び起こる。次の場所は警察署だ」
と冷静な口調でなつに話した。
その言葉に彼女は一瞬目を見開いたものの、すぐに冷静になり、一息つく。
「どうしてそのことを私に伝えるんだ?」
「……これは貴女にしかできないことだからよ」
「……」
「ええ。私の見立て通りでは、犯人は貴女と友人である彼女──」
「馬鹿な」
なつが言葉を被せるように話す。が、その様子を気に触れることなく、フードを深く被った女性は話し続ける。
「ではなく、彼女と協力関係を持った男性。その人こそ、今回の一連の事件の犯人」
「……どうすれば捕まえられる?」
また少し間を置かせてなつが女性に問う。同じように少し間を置かせてから、女性が話し出す。
「ヒントを言おう。前回と今回の事件は、五年前に起きた三件の殺人事件と繋がっている。それらの事件は未解決であり、まだ資料も警察署に残っているはず」
「ということは、それらの事件を調べれば自ずと犯人も分かると言うことか?」
そう言うが、なつの目の前の女性はただうんともすんとも言わなかった。頷くことなく、女性は「それではまた」と静かに告げ、なつの瞳から消え去った。
「……五年前の殺人事件」
その時、羽賀野なつの口角が上がっていた。
──忌々しいこれらの事件、解決してやる。




