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34 捜査協力依頼

 「というわけで、捜査協力の依頼をしに来ました」


 一連の話を終えた夕海がテーブルに出されていたお茶を一口で飲み干すと、その動作を見ていた羽賀野なつが唇を歪めた。その隣に座っていた波岩は首の後ろを掻いていた。


 「……なんで私なんだ」

 「え、だから……この事件は吸血者が関わっていると思うんですよ」

 「だからって、なんで私に捜査協力の依頼が来るんだ。他にも居るだろ、そう言う事件を解決しそうな探偵が」


 あからさまに態度を悪化させるなつを目の前に、刑事二人──美桜と夕海──は思わず苦笑をせざるを得なかった。が、美桜はそんな彼女を目の前にしても「いえ、これはなつさんにしか解決できない事件なのです」と決意に満ちた双眸で言った。


 「私にしか──解決できない事件」


 と言い、一度言葉を切った後、なつはニヤリと笑みを浮かべた。そして先程の態度とは一変して、彼女は前のめりの姿勢となって「なんだって?」と妖しげな笑みを浮かべた。

 




 ──いやはや……この人態度変えすぎでしょ……。

 




 羽賀野なつは基本的に自分しか解決できないような事件や、自分の能力が最大限発揮できないような事件しか首を突っ込まない。もしくは、魅力的な謎がない限り、彼女という探偵は動かないのである。


 そんなことを思いつつ、波岩はショートカットの髪型をした美桜を見る。スーツ姿だが、豊満な胸が控えめだが強調されており、波岩は思わず彼女の胸に視線を向いてしまった。

 




 ──まあ、この状況だと美桜が上手くなつを動かしているような気がするけどね。

 




 池田美桜は真面目で冷静な性格の持ち主であるが、よく警察の上司や部下と揉め事を起こすと、同僚であり幼馴染みの夕海から波岩は聞いていた。また、彼女は事件に対し、まるで刑事ドラマで見掛けるような情熱さを胸の内に秘めていると言い、事件が解決するまで──というより、自分が納得するまで事件にしがみ付くらしい。


 そんな彼女だが、冷静な性格とは裏腹にツンデレな性格を持っているという。これは同僚の夕海しか聞いていない情報なのだが、これがまあ波岩の性癖を上手くぶち抜いている……ということみたいだった。


 「ということは、捜査協力の依頼を引き受けてくれるんですね?」


 夕海がそう言うと、なつは「喜んで引き受けよう!」と声高に答えた。薄い胸を張っているなつを横目で見つつ、波岩は「ところでなんですけど」と口を挟んだ。


 「なんでしょう」

 と美桜。

 「この事件、一件だけで到底終わらないと思うんですけど」

 「……どういうことですか?」美桜が怪訝な目つきで見つめてくる。


 「先程の話を聞く限り、被害者は喉元や腹部に刃物か何かで刺され、抵抗することなくそのまま亡くなった。僕の勘が正しければ……恐らく、これは連続殺人になる可能性があります」


 「連続?」


 と夕海。茶髪のボブが彼女の頷きで若干揺れるのを一瞥した後、波岩がコホンと空咳をして説明しようとすると、なつが「切り裂きジャックのことか」と話を遮った。


 「切り裂きジャック……何か聞いたことがあります。確か十九世紀に暗躍されたとされる、歴史上最も有名な殺人鬼ですよね」

 「ああ」

 「でもそれがなぜ?」

 と夕海が首を傾げる。


 「あくまで波岩の勘だから鵜呑みにしてほしくないんだが……、切り裂きジャック──もといジャック・ザ・リッパーはロンドン郊外のスラムで住んでいた娼婦達を次々と襲い、今回の事件と同じように、喉元と腹部を刃物で刺したんだ。その他の被害者も、彼の標的にされてしまったんだ。まあ、言わなくても分かるぐらい惨い殺し方だったけどな」


 なつは自分自身の下唇を噛んだ後、「それで、現代に蘇ったとされる切り裂きジャックはどんな人たちを狙ったんだ? やはり当時の状況に似せるために、水商売をしている人が標的になったのか?」


 早口で質問を飛ばすなつ。それに呼応するよう、美桜も手帳をペラペラと捲りながら「えっとですね」と呟いた。目的のページが見つかったのか、ページをめくる手が止まった。


 「違いますね。被害者は一般の大学生でした」

 「……そうか。名前は?」

 「確か名前は……青木亮介という男性でした」


 美桜のその発言に──なつの目線を鋭くさせた。


 「そいつは──過去私に依頼してきた人物だ」

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