32 現場到着
神田某所の公園。まだ太陽が燦々と地面を照りつけている中、幾多のパトカーが昼間の時間にサイレン音を響かせる。
数々のパトカーが現場である神田公園に次々と到着すると、次々と体格の良いスーツ姿の男性たちが公園の中に入っていく。その中に女性刑事二人──池田美桜と鳴田夕海の姿が現場周辺の人々から視認出来る。
「失礼」
美桜がそう言い、規制線をくぐる。似たような動作を夕海も続けると、今か今かと二人のことを目の前で待ち構えていた、ある一人の男性が二人に声をかけてくる。美桜と夕海のスーツ姿とは異なり、青色の作業服に青い帽子、そしてマスク姿という、刑事ドラマでよく見掛ける鑑識の格好だった。
「東堂さん。お久しぶりです」
と声をかけたのは美桜だった。慇懃に頭を下げると、東堂は「良いよ良いよ。わざわざそんなことしなくても」と軽く顔の前で手を振った。
「それで、被害者の方は?」
そう言うと、東堂はチラリと後ろで倒れている被害者を一瞥した後、二人に視線を戻して話した。
「被害者は喉元を切られており、その後に腹部を切ったようだった。まだ切られてから間もないのか、喉元や腹部から鮮血が流れてるよ。……犯人、相当被害者に対し殺意を抱いてたのかな」
気が滅入るような発言をしながら、額を押さえる東堂。その様子から如何に被害者の状態が悪いのかが窺えた。
「身分証とか持っていなかったんです?」と夕海。
「ああそれは持っていたよ。氏名は青木亮介。身分証が学生証だったから恐らく大学生だと思われるし、先に現着していた警察官──機捜の彼らが周囲に聞き込みを行ったところ、被害者は一人だったらしい。しかもその被害者、この公園に毎日と言って良いほど訪れているらしい。まあこりゃあ、犯人は彼の行動を考えた上で殺害したかもな」
と、話を終えて東堂は口にくわえた煙草に火を付ける。その仕草に思わず美桜は顔をしかめると、東堂は「失敬」とその場で煙草を捨てた。
「ポイ捨てですよ」
冷淡に美桜は言う。
「ごめん」
腰を落として東堂が先程自分で落としたものを拾う。その動作を見つつ、夕海が「それでは私たち、被害者の方へ向かいますね」と言う。
「ああ」
そう言い、美桜と夕海、東堂は互い違いに歩き出した。




