表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/43

30 被検体

 真夜中だが、人が忙しなく行き交う場所があった。


 そこは誰の目にも留まることなく、ただひっそりとその建物は佇んでいた。建物自体は古そうに見えるものの、逆にそれがアクセントとなり、かつまるでファンタジー小説に出てくるような大きな建物が、一層非現実感を訪れる人々に感じさせる。


 その建物の地下一階。そこである科学者が多くの人に指示を飛ばしていた。


 「ムンク様。用意は出来ました」


 そう言ったのは、ナンバー006だった。ムンクと呼ばれた老人の男性は「うむ」と頷いた後、どこかへ移動する。先程の大きな部屋を出て、直線に伸びる廊下を真っ直ぐ歩く。目の前に現れた部屋の扉で一度立ち止まると、ムンクはポケットから身分証を取り出した。


 扉の横に付いてある物にそれをかざした後、ムンクは後ろから付いている人達と共に部屋に入る。


 実験室と書かれていた部屋は先程の部屋より少し狭めだ。ムンクは真ん中で目を瞑っている被検体に近づいた。


 「被検体に異常はないです」


 と被検体の女性の隣に居た研究員──ナンバー667が言う。ムンクは「ああ」とだけ呟き、右腕を挙げた。その動作が合図となったのか、周辺の研究員たちが忙しなく動き出す。


 「……辛いと思うが、頑張ってくれ。世のために」


 被検体に語りかけ、その場から離れたムンク。その直後、被検体に激しい電流が流れ込まれて被検体の女性が「あぁ……!」という喘ぎ声に近い声を出す。


 暫し、電流が流れ込まれる。


 秒針が時を刻む。


 そして、その時はやってくる。


 被検体の女性はやがて声を出さず、ゆっくりと顔を俯かせた。一瞬周囲の人々は「またもや失敗か」と思われたものの、ゆっくりと顔を上げた時の瞳を見て──ホッと一安心をしていた。


 無論それは、ムンクであっても。


 彼は被検体の女性に近づく。瞳は綺麗な紫色をしており、宝石のようだった。蒼白な肌を持っている為だろうか、一段と瞳の色が強調されているように思えた。


 「自分が誰だか……分かるかい?」


 冷静な口振りで訊ねるムンク。すると、女性はゆっくりと口を開いてこう言った。

 




 「はい。私は羽賀野なつという探偵を殺すために生まれた──特別な吸血者、〈紫月の殺人者(ヴァンピール)〉として」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ