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29 怒

 数日後。なつと波岩が事務所に佇む中、刑事の美桜と夕海が訪れていた。


 無論二人が訪れた理由は捜査報告。夕海が手帳をペラペラと捲る中、波岩が「事件……」と口に出した。その言葉に反応し、美桜が波岩に視線を向けた。


 「事件は我々警察ではなく……狩人──じゃなく隔離施設職員たちが事件の幕引きを行いました。形式上もしくは世間的には警察が解決したと報じられていますが、実際は彼らが事件の幕引きを強引に行ったんです」


 やるせなさを感じているのか、美桜の口調に覇気を感じさせなかった。そんな中、夕海はいつも通りの元気な口調で「ですが」と声に出した。


 「なつさんの推理は概ね正解です。屍体が発見された河川敷から約五キロメートル離れたところであり、犯人の茂樹の自宅から役二キロメートルほどの場所に凶器らしきものが捨てられていました。その凶器からは被害者のDNAと犯人のDNAが検出され、捜査としては一応終えております。ただ残念なのが……犯人が自殺してしまったことです」


 落ち込むような口調になりつつも、最後まで文章を読み終えたのか、夕海は手帳をパタンと閉めて顔を上げた。が、その表情はどこか翳りが生じていたのを波岩は感じていた。


 暫しの間、時間が空く。


 秒針が時を刻む中、なつがゆっくりと口を開いた。


 「……悔しくないのか?」

 「そりゃ悔しいですよ!」


 美桜が唐突に机を叩き、ピシャリと事務所の中に自分の怒声を響かせた。一瞬のことに、思わずなつと波岩の二人は動揺しつつ、美桜の表情を見つめた。彼女の表情は怒りに満ち溢れつつも、どこか哀しげな表情をしていた。


 「こんな形で事件の幕引きを降ろすことになるなんて……そりゃ悔しいですけど、何より悔しいのがあいつ……じゃなくて、狩人たちが私たちの捜査を強制的に終わらせたことが一番悔しいですよ。何であいつらが私たちの前に勝手に現れて、勝手に終わらせるんですか。意味が分からない」


 吐き捨てるように美桜が早口でまくし立てた後、一息吸って椅子に座った。表情が未だ落ち着いていられていない状況の中だが、なつは「……それはすまなかったな」と反省を述べた。その様子を隣で見ていた波岩は少し意外な表情で目をパチクリさせた。


 「なんだよ、その表情は」

 波岩の様子に気がついたのか、なつが怪訝な目つきで波岩を見る。

 「いえ、なんでも」

 「あ分かった。私の事謝れない人だと思ってるな?」


 図星を付かれたのか、波岩は口に運んでいたお茶を思わず口から吹き出してしまう。その様子を見たなつが「汚っ! 女性の目の前で何をしてるんだ!」とわざとらしく大声を出した。

 




 ──図星をついたからなんですが……。あなたのせいでこんなことになってるんですけど……。

 




 半分呆れながら、ティッシュで零れたお茶を波岩は拭く。その様子を一貫してなつが「汚い! 汚い!」とヤジを飛ばしている中、波岩は無視しつつ、「ところでなんですけど」と刑事二人に話しかけた。


 「なんです?」と美桜。

 「虐待をしていた建英さんは今後どうなるんですか?」


 と波岩に問われ、美桜は胸元から手帳を取り出す。その動作を見ていた波岩の腰をいきなりなつが突いた後、小声で「鼻の下伸ばすな」と冗談を飛ばす。そんな彼女を波岩は半眼で見つめた後、美桜に視線を向けた。


 「彼は虐待の疑いで一度逮捕されたのですが、本人の反省や証拠不十分で釈放の見込みが立っているそうです。恐らく、前者の意向が強いと思いますけど」


 手帳をしまいながら美桜は端的に話し終える。


 「それではまた」

 と夕海が立ち上がると、同じように美桜もまた立ち上がる。二人を見送るようにして、なつと波岩の二人は視線を送った。


 「ではまた。捜査が行き詰まったらまたお会いしましょう」

 そう言い、美桜と夕海の二人は事務所を出て行った。


 扉に付けていた鐘の音がカランカランと寂しく響かせた。

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