27 自白
「息子が……茂樹くんが被害者を殺したってどういうことなんですか」
途中息苦しさを感じつつ、波岩はなつが発した言葉にクエスチョンを付した。その彼の言葉に彼女は「今から説明する」とニヤリと笑った。
「事は息子の茂樹が自殺する二週間前のことだ。泣きながら帰ってきた息子をあんたは〝どうしたんだ〟と問うた。その時、息子の茂樹は嗚咽を混ぜながら苛められていたことを明かした。息子がいじめられていると聞き、あんたは一瞬動揺しつつも冷静になり、そのいじめの件について聞き始めた」
一度言葉を切ると、話の続きを建英が話し始めた。
「その時に話している茂樹はショックを感じてたよ。そして……俺と同様にいじめを受けたんだなって。正直子どもがやるいじめと、大人がやるいじめは差があると思うが、俺は息子と話をした。そして話を聞いているうちに──息子が自ら殺人を自白したんだ」
「自白……」
と波岩が独り言のように呟く中、なつが「さっきお前が言ったこと、聞き捨てならん」と思い切り唇を歪めた。その態度に建英が「なんだと?」と目を細めた。
「子どもがやっても、大人がやってもいじめなんだよ。どんな内容であってもいじめであり、絶対的に得をするのは加害者の方だ。被害者が子どもであっても、大人であっても、損するのは一緒なんだ。本質は同じなんだよ」
力説するなつを目の前にして、建英は少し「……悪かった」とだけ呟いて頭を下げた。その態度を見た彼女は何も言わなかった。
「で、彼が犯した殺人というのは?」
と波岩が口に出す。すると、「殺人なんてあいつがするわけねぇ‼」と椅子から立ち上がり、建英は怒鳴りつける。その態度に波岩は一瞬ビクつくものの、焦点は紅潮させた建英を捉えていた。
「……失礼」建英は額を押さえながら椅子に座った。「俺の息子が絶対に殺人なんて……と思っていると、どうしても感情的になるんだ」
「いや、彼は殺人なんて犯してないぞ」
「本当か⁉」
少し身を乗り出すかのように、前向きな口調を出した建英。そんな彼を目にしながら、なつは「一応な」と言った。
「恐らくこれらの事件が公になるとすれば……必ず国が動くはず」
「え、国?」
波岩がきょとんとする。隣の男性をなつは「……節穴め」と小声で悪態をついた後、人差し指を顔の横にぴょこんと立てた。
「狩人が動いている時点、何か察しないのか?」
「察すると言われても……」
「……本当に節穴め」
「後であの人に連絡しますからね」
波岩が恨めしげに小声で呟くと、その声が聞こえていたのか──なつは「まじでやめて、本当にやめて」と懇願するような口調に一変した。
──自分の妹には弱いんだ……この人。
羽賀野なつには幼い頃に両親を亡くしている。そのため、叔母が彼女とその妹の親代わりとなっていた。彼女の妹は立派に一人前と呼べるような状態となっていったものの、なつは立派な一人前になっておらず──それどころか中途半端であり──、普段外出しているときはまともに見えるかと思えば、家に帰るや否や、だらしない生活を続けているのである。
そのことに彼女の妹である羽賀野花楓は、時々なつの自宅に訪れては部屋の掃除をしているという。そのことをなつは妹のことを誇らしく思っているが、妹の花楓と波岩の二人は苦笑しながら否定している。
秒針の進む音が部屋に響き渡る中、なつはコホンと空咳をした。
「狩人……隔離施設職員は国家公務員の扱いを受けており、給料もそれなりの金額を貰っている。そのことに一部の人間は不満を持っているが……その話題について話すと論点が逸れるので止めておく。その彼らが行う主な仕事は──何だと思う?」
と波岩に目線を向けた。
「一つは各地に居る吸血者を移送すること。もう一つは抵抗した、或いは何らかの方法で人間に危害を加えた吸血者、事件を起こした吸血者を殺害すること。そして──」一度言葉を切り、息を吸ってからまた言葉を発した。「吸血者が関わった、もしくは被害者や加害者の事件を隠蔽すること。──徹底的に」
「ああそうだ。この事件は今後誰の目にも触れることなく蓋をされ、一切の情報が伝えられなくなる」
「だが、なんで俺の息子の自殺の件と、その……河川敷の屍体で関連があるんだ。一体何があるって言うんだよ」
と建英は困惑しながらなつに問うた。当の本人はニンマリと表情に浮かべていた。
「茂樹と河川敷で見つかった屍体、どちらも国が極秘で実験を進めている被検体なんだよ」




