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24 元狩人

 先程の学校を離れ、車で移動すること二十分。波岩の運転する車で、もう一つの事件──美桜と夕海たち警察が捜査しているという、自殺の件と殺人の件のことのうち、前者を調べる為に、二人は自殺した川又茂樹の父親である川又建英の元に向かっていた。


 十階建ての高層マンションで、外観としては真新しい雰囲気を受けた。二人はマンションのエントランスに入り、そこで管理人に事情を話して中へと入る。奥のエレベーターで七階にまで上がったところで、波岩は「ところでなんですけど」と話しかけた。なつはきょとんとした表情で波岩に顔を向けた。


 「どうした?」

 「自分でも疑問に思っていることなんだけど……この自殺の件、あまり関連性がないと思えるんです」

 「どうしてだ?」

 となつが首を傾げる。


 「多分……単なる偶然の可能性だって否定できないかなぁって」


 「あぁ……そのことか」となつは波岩から目線を逸らし廊下を歩き始めた。その隣を波岩が歩く。「私もそのことについて考えてるし、頭の片隅に入れてる。かの有名な探偵がこう言っているだろ──〝全ての不可能を消去して、最後に残ったもの如何に奇妙なことであっても、それが真実になる〟って。ありとあらゆる可能性を周辺にあるヒントと一緒に考えつくし、推理を導く。私のモットーだ」


 「……そう言えばそうでしたね」


 羽賀野なつは探偵であり、同時に推理オタクでもあることを波岩は失念しかけていた。と言うのも、波岩がなつと初めて出会った際、探偵事務所が本棚で埋め尽くされており、その全てが推理小説で埋め尽くされていることを──波岩は今でも覚えていた。


 「そう言えばそうだったって……何を忘れてるんだよ」


 なつが思い切り波岩の踵を蹴る。その衝撃が一気に全身に伝わり、思わず「痛っ!」と声を挙げてしまう。


 「何するんですか!」

 「何って──忘れていたからだろ」

 唇を尖らせながらなつは話す。そんな彼女に波岩は嘆息をつく。


 そうしていると、二人は川又建英と自殺した川又茂樹が住んでいるという部屋の前に到着した。部屋番号を一瞥したなつは隣のドアベルを鳴らす。ガチャリと開いたドアの隙間から現れたのは、顔の濃い男性──川又建英だった。


 「どちら様だ」

 低い声で訊ねられると、なつは「探偵だ」と端的に答えた。


 「探偵? 呼んだつもりないんだが」


 目を細めて建英はなつを見つめる。そんな彼を一瞥しながら、波岩は二人の間に介入して「突然押しかけて申し訳ございません」と話した。建英は目線を波岩に移した。


 「今回の息子さんが自殺された件について、警察の依頼があり参りました。よろしければ……」

 慇懃に波岩が話すが、建英は「ねぇよ」とあしらった。


 「大体、なんで探偵が来るんだよ。なんで警察がお前らのような探偵に依頼するんだよ」

 「それはですね──」

 と言いかけた途端、なつが「それは私が吸血者だからだ」と口を挟んだ。


 「吸血者?」と建英が目を細めた。

 「ああ。その後に起きたもので吸血者の関与が疑われる事件が起きたそう──」


 そこまで言いかけた途端、波岩はなつの華奢な腕を掴んで建英に背を向けた。


 「そこまで話して良いんですか」


 建英に聞こえぬよう小声でなつに抗議をするが、彼女は何の悪気も無く「え、悪いか?」ときょとんとした表情で呟く。


 「悪いでしょ! 大体……」

 「大体? 何が?」


 なつの問いかけに波岩が口籠もりをしていると、後ろから「おい、もう良いか」と低い声が聞こえてくる。振り返って見れば、そこには少しイライラした表情をした建英の姿がそこに居た。


 「あ、いえ」

 「じゃあ早くしてくれ」


 舌打ち混じりに建英が言う。そんな姿を見ながら、なつは「何か用事でもあるのか?」と質問を飛ばした。


 「特にはないよ。ただ家でゆっくりしたかっただけだ。……昨日まで辞めた狩人で溜まった今までの疲労を回復したかっただがな」

 「狩人?」


 途端になつの目線が冷たくなる。その様子を察したのか、建英は「な、なんだよ」と表情に焦りを見せた。


 「お前、狩人なのか?」

 「……そうだが、俺は世間で言われている狩人とは違う」

 「どういうことだ?」

 間髪入れずになつは問うた。


 「狩人には二つほど派閥があるんだ。世間で知れ渡っているのは野茂派と言われている人達のことで、簡単に言えば保守派と言ったところだ。政治の方で何か言われればなんでもやる、そういった人達がいる。それに対し、俺も含めた平和主義者な狩人たちが水木派だ。温厚な人達が多くて、吸血者たちと仲良く過ごしたいと考えている人達が多いんだ」


 「……なるほどな。で、お前はその水木派に所属してるのか」


 「ああ」と低く唸る建英。その様子を見ていたなつは怪訝な目つきで見ながらも、一息ついてから「まあ立ち話もなんだし、家の中に入らせてくれないか?」と訊ねる。数秒間合いが空くものの、建英はそれに了解するかのように重く首を上下に振った。


 その様子を見たなつは「お邪魔するぞ」と言い、中に入る。その後に続くよう波岩も家の中に入っていった。

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