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22 なぜ?

 依頼人の岡(しげる)から依頼を引き受け、彼の言ういじめ問題が昨日まで起こったという学校へなつと波岩の二人は訪れていた。その学校は中高一貫の学校であり、私立であるためか──外観としてはとても綺麗であり、内装としても清掃が行き届いているようだった。


 広々とした正面玄関で二人は待つ。すると、右の方から少し皺の深い男性の姿が現れ、なつと波岩は「どうも」と少し頭を下げた。


 「お待たせしました。ではこちらに」


 と言い、男性は自分についていくよう促した。その促し通りに彼らは男性の後を追うように廊下を歩く。少し長めの廊下だが、手前右から事務室、校長室、職員室と部屋が並んでいた。左には学校職員のロッカーが並んでおり、その上に書類やら私物やらと沢山物が置かれていた。


 後に男性に案内されたのは職員室を過ぎた先にある、美術室だった。手前右には美術部が活躍したのだろうか、数々のトロフィーが飾れており、その対面には小さな小窓が設置されていた。


 男性はドアノブを捻り、「どうぞ」と二人を美術室に入るよう促す。その通りに二人は部屋に入ると、男性はガシャンと扉を閉めた。


 「すいません。先に断っておきますと……昨日まで学校全体がドタバタしていて、お二人をお招きする会議室が取れなかったんです。そのため、生徒たちが使うような教室にお招きしました」

 「ああいいえ。とんでもない」


 男性が申し訳なさそうな口調で言うと、波岩は顔の前で手をパタパタとさせた。


 「あなた、お名前は?」

 となつ。いきなり質問をされたことが驚いたのか、男性は目をパチクリさせながらも、首からぶら下がっている名札を見せた。


 「事務員の杉田と申します」

 慇懃に軽く頭を下げた後、なつは「羽賀野だ」と男性に手を差し伸べた。杉田は彼女の手を握って「よろしくお願いします」と答えた。


 「では、私はこの辺で。今担当の者を呼んできますので……」


 そう言い、杉田が美術室を出ようとドアノブに手をかけた瞬間、なつが「待て」と彼の動作を止めた。波岩は少し首を傾げたものの、何となくなつが言おうとしていることは察した。


 「……隠し事でもしてるな?」


 なつがゆっくりと杉田に近寄った後、顔を覗くようにして彼の表情を見た。なつより身長の低い杉田は動きを固めた。その動作はまるで彼女の発言が正しいかのように──波岩はそう思えた。


 「……してます。ただ、これを話すと私の首が飛んでしまうんです」

 「飛ぶ? どういうことだ」


 目を細めたなつに対し、おどおどしながら杉田は続きを話した。


 「昨日までこの学校で起きていたいじめ問題に狩人の人達が関わっているんです。その……彼らが、私たち学校職員に向けて〝この件には絶対関わるな。関わったら国に直接報告し、迅速に対応させて貰う〟と言われたんです。それ以来、誰にもその問題には口をしていないんです」


 依頼人の岡が言っていた通りだ。


 だが、なぜいじめ問題という教育問題に──吸血者を隔離させる通称狩人たちが関わる必要がある──?


 と波岩が顎に手を添えながら考えていると、彼と同じようなことを考えていたのか、なつが「なぜ狩人たちが?」と口にした。


 「分かりません。この問題には一切関わるな、と校長からも釘を刺されてるんです」

 「校長か……」

 額を押さえながらなつは呟く。


 「その問題に教育委員会の人達は関わっているのか?」

 そう言うが、杉田は首を横に振った。


 「とりあえず……立ち話もなんですから」と言い、杉田はすぐ横にある机を指差した。木製で作られており、所々傷が見受けられた。四人が座ることを想定されているのか、背もたれのない椅子が四つ向かい合うかのように設置されていた。


 なつと波岩は隣同士に、杉田は二人と向かい合うように座る。


 「事務員なのであまり詳しくはないのですが……。先週木曜日にいじめの問題が発覚したんです。その問題は加害者が被害者に対しお金をせびったり、暴力を振ったり、無視をしたり……そういったよくあるいじめだったんです。その問題に対し、教員たちは無論解決へ動きだそうとしたんです。そしたら……」


 「そしたら、狩人たちが現れた──と?」

 波岩が確認するような口調で話を受け継ぐと、杉田は「ええ」と頷いた。


 「さっきも言った通り、狩人たちは私たちを脅してきたんです。それにも関わらず、私たち──と言っても教員の方なんですけど──が解決へ独自に動こうとしたら、その動きをまるで先読みしているかのように、また目の前に現れて動きを止めたんです。そして……」


 「そして?」

 となつが少し前のめりで訊ねる。杉田は怖ず怖ずとしながらも、


 「先に解決しようとしていた教員たちが……左遷されたんです。どこか遠い学校に」


 と言う。杉田はおもむろに携帯を取り出し、暫し画面を触り続ける。「あった」と数分後に小声で言い、携帯の画面をなつと波岩の二人が見えるよう机の真ん中に置いた。その画面には異動した教員たちがどこの学校に配属されたかが一目で分かる、地方ニュースのサイトだった。


 「飛ばされた教員の名前は? 場所は?」

 と二つ質問を口にするなつ。彼女の質問を聞いていた杉田は画面を指差して「この方です」と言う。そこには椙村(すぎむら)泰介と記されており、右隣には第五高校と記されていた。


 「第五高校? 異動された場所か?」

 「ええ。私の知る限りだと、まだそこに居ると思います」

 そう言うと、なつは「分かった。ありがとう」と一言礼を述べて立ち上がった。それに倣って波岩も「こちらこそありがとうございます」と頭を下げた。


 「いえいえ。こちらこそお役に立てていれば」

 慇懃に杉田が言うのを見て、二人は美術室を出た。長い廊下を歩きながら職員室の横を通っていると、なつが「なぁ」と話しかけてきた。


 「なんです?」

 「この事件、何か匂わないか?」

 「……匂う?」

 波岩が首を傾げると、彼から見たなつは犬歯を少し剥き出しにしてニヤリと笑った。


 「ああそうだ。この事件……触れてはいけない〝玉手箱〟のような気がする」

 「〝玉手箱〟?」


 歩きながら波岩は疑問に思っていると、「あれ?」と聞き覚えのある声に反応してキョロキョロと見回した。正面玄関に着いた二人は目の前に居る、既視感のある二人の刑事を見て表情をきょとんとさせた。


 「何してるんですか」


 そう言ったのは──少し呆れた表情の美桜だった。

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