21 厭です
「なんで私のところに依頼するんだ。そういった依頼は他の探偵に頼めるだろ」
不満げな表情を露わにしながら、なつは目の前に居る依頼人の男性──色白で体格的に痩せ細っているように見え、目はきゅるっとして優しそうな目つきをしている──に言い放った。態度が悪く、依頼人の目の前で大胆に足を組んでいた。
──何を厭がってるんだ……この人……。
呆れつつも、波岩は「あの~」と声を出した。
「何でしょう」
「我々に依頼してきた理由って、その事件の解決をして欲しいからですよね」
「ええ、そうですが」
男性は当然のように頷く。
今から一時間前、なつと波岩は近所の蕎麦屋から戻ってきた直後、依頼人がドアベルを鳴らしてきた。その音に波岩はいつも通りに依頼人に対して接していると、どうやら〝ある事件を解決してほしい〟とのことであり、中央のソファで向かい合って依頼人の説明を聞いていた。
が、その依頼人の話を聞いているうちに、なつは徐々に──というよりはあからさまに態度を悪化させ、遂には依頼への探究心を無くしてしまった。その依頼内容とはある学校で起こっているいじめを解決して欲しいというものであり、波岩は依頼を受けた方が良いのではないか──と考えていたものの、なつは「厭だ」の一点張りで波岩は唇を歪ませていた。
「なんでこの私がいじめ問題を解決しなきゃいけないんだよ。他にも居るだろ、教育委員会とか、その学校に居る教師とか」
「ええ、そうなんですが……」
「じゃあそっちに依頼すれば良いじゃないか」
「まあまあ」
横柄な態度を依頼人の目の前で披露しているなつを、波岩は何とかして静めようと間に介入する。だがそれが逆効果を与えてしまったのか、なつが「器の広いやつめ」と睥睨してきた。
──悪かったな、器の広い人で。
喉の先まで出かかった悪口を何とか押しとどめ、波岩は「でもなぜその依頼を我々に?」と理由を訊ねた。依頼人は少々逡巡しながらも答えた。
「実を言うと──狩人が関わっているんです」
「狩人?」
と今まで横柄な態度を取っていたなつが目を細めて身を乗り出した。
「ええ。誰もその件について触れないから、保護者の私が少しだけ──興味本位で独自に調べてみたんです。そしたら、狩人が関わっているらしくて……教員やら教育委員会やら、全くと言っていいほど関わらないんです。そのことについて調べて欲しくて」
「なるほどな。それなら引き受けて良いぞ」
──それならってなんだ‼ それならって‼
「ちなみにそのいじめ問題はまだ続いて……?」
と波岩が訊ねる。
「……ええ、まあ。昨日までは」
「昨日までは?」
怪訝そうな目つきでなつが訊ねると、重々しく依頼人は頷いた。その雰囲気を察したのか、なつと波岩の二人は固唾を呑んで見守った。
「そのいじめの被害者が自殺したんです。名を岡慧くんって言うんですが」
事務所に響くその名をなつは目を一瞬細めた。そんな彼女の様子を波岩は見逃すことなく──見ていた。




