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19 ある男の身勝手な願い

 中は広々としており、一人で住むのは勿体ないぐらい広かった。が、カーテンは閉め切っており、照明も暗かった為に広々としたリビングは暗く、リビングに隣接していた台所や畳のある部屋、そして寝室など散らかっている様子からして、刑事の二人にとって、男性への心証はとてもではないが、良いものとは言えなかった。


 「事件って何だ」


 男性が三人掛けソファに深々と座り、開口一番そう話した。夕海が「実は……」と口を開きかけた途端、美桜は「それは後ほど……」と慇懃に言った。


 「何が後ほどだよ。メディアには言うくせによ」

 「……申し訳無いです。規則なので」

 「規則ねぇ」


 そう言い、男性は隣の二人掛けソファに座っていた美桜と夕海をそれぞれ一瞥した。彼女らは特段怪訝な目つきはしなかったものの、男性はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。


 「何ですか」と夕海。その口調に少しだけ抗議の気持ちが含まれていた。


 「いや何でもないよ」男性は元のソファに腰掛け、背もたれに寄りかかった。「ただあんたたちの顔が美形で、風俗とかそっち系に活かせそうだよなぁって思っただけだから」


 「はぁ? 何を言って──」


 夕海が思いきり声を荒げようとした時、隣に居た美桜が彼女の口を塞いで制止した。突然のことに夕海は足をジタバタさせるが、美桜はそんなことに気にすることもなく──男性に一言「すいません」と謝罪をした。


 「ただですね、こちらには職務というものがございます。こちらの質問に応じないということであれば──何らかの措置が講じることを忘れないでおいてください」


 目をスッとさせて目の前の男性を一瞥させると、男性は「……分かった」と溜息交じりに呟いた。冗談で言ったつもりだろうが、彼女たちの様子を見て男性は辟易してしまった。


 「ありがとうございます。……では早速お名前と年齢、職業を」

 と手帳を手に取りながら美桜は質問をする。男性は座り直しながら、


 「三輪建英。もうすぐ四十になる元隔離施設職員──世間で言えば元狩人で、このマンションで落下死した子どもの父親だ」

 「……まだこちらから何も言ってないのに言うんですね」

 静かに夕海が訊ねると、建英は舌打ち混じりに答えた。


 「仕方ないだろ。自分の子どもが自殺してしまったんだから。隠されたら自分のやった行為がバレ……」

 「自分の行為が? 何です?」

 「いや……何でもない」

 あからさまに目線を逸らした建英を見て、美桜は怪訝に思うものの、質問を続けた。


 「……そうですか。では建英さん、昨夜は何をしていましたか?」


 「昨夜はあの子どもと二人きりだよ。数年前までは家内と子どもの三人暮らしだったんだが、二年前ぐらいかな、先立たされてな。今は子どもと二人暮らしだったんだが、その子どもまでもが先立たされたんじゃ……俺はもうどのみち一人だ」


 「心中をお察しします」美桜はそう言いメモ帳を捲った。「その子どもについてですが、何か変わったこととかありませんか? 例えば、学校でいじめにあった……とか」


 「特に変わったことはないな。ああでも、俺が狩人を辞めた途端に態度が豹変……と言っても成績が一気に落ちぶれたな。それで俺は手をあげ……」


 「手をあげたんですね?」

 と夕海が眼光を鋭くさせて言った。まるでその場で言わないと署に連行するぞ──そう言わんばかりの態度に、建英は「……ああ」と低い声で言った。


 「ということは……あなたの虐待で子どもはこのマンションから飛び降り、自殺した……という感じなんですね?」

 「ああ。だがな」

 「なんです?」

 「あいつが自殺したのは俺だけが理由だけじゃないはずだ。それを調べてくれ」

 そう言い、建英は二人の前で頭を深々と下げた。


 「……それが警察の──私たちの仕事だからしますよ。その代わり──」


 「その代わり、出頭して下さいよ。だろ? 分かってる。だから頼む」

 と、一人の父親が深々ともう一度頭を下げた。

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