12 事件の真相・中
「……な、なんでそんなことを言うんですか」
言葉を上ずらせながらエリカは話すが、動揺を隠しきれなかったのか呂律が回ってないように思えた。そんな様子を一瞥しながら、「そりゃ簡単だよ」となつはニヤリと笑みを浮かべた。
「君が自分の恋人を殺害してくれって頼んだんだろ?」
「何を言ってるんですかなつさん!」
机を叩き、その場を立ち上がった美桜。彼女を見上げ、きょとんとしたまま美桜のことをなつは見つめていると、「どうぞ?」と言わんばかりに話の続きを促した。その動きに若干苛ついたのか、美桜は小さく舌打ちを鳴らした。
「彼女にはまず被害者とは恋人関係なんですよ? 殺すメリットなんて……殺す動機なんてあるわけないじゃないですか! それに、彼女はあの出来事の唯一の目撃者なんですよ?」
「いつ私が彼女のことを──二人を殺害した犯人だと言った?」
「はっ?」
訳が分からず、ただポツンと美桜は立っている。が、彼女の表情は鬼の形相で、今にも怒りそうな表情となっており──頭の上から湯気が立ち上りそうだった。そんな彼女を見守りつつ、隣に座っていた夕海は「まあまあ」と彼女を座らせた。
「確かに彼女は人を殺した。だがそれは姉のことを殺害しただけに留まる」
「はぁ、それは分かりますが──。たださっき、なつさんは姉〝も〟って言いましたよね。それと何か関係があるんです?」
と波岩が話の間を割って話す。波岩の隣に座っていたなつは「はぁ」と嘆息をついた。
「なにを言ってるんだ」
「へ?」
「だから、何を考えてそうなるんだ。お前の目は節穴かよ」
──いちいち癪に障る。
口から今にも飛び出そうになる不平の言葉を必死に堪えつつ、波岩はジッとなつを見据えた。彼女は一度波岩を一瞥した後、視線をエリカに変えて「はて、本題に移るとしよう」と話し始めた。
「これから私が話すのは全て推測だ。以前君の血液を介して見た過去の記憶と、周囲の話などを参考にして考えた推測だ。間違っていれば遠慮なく話を遮ってくれ」
となつは言う。だが目の前の女性はただジッとなつのことを見つめており、何も口をきくことはなかった。そのことを見越してなのか──なつは「……ないようだな」となぜか少しだけ自慢げに呟いた。
「私が考えた推測はこうだ。
君ともう一人の女性──エリは元々出会うはずのなかった関係性だった。しかし、ある出来事をきっかけにして、君とエリは次第に姉妹のような関係性になっていた。そこで関わってくるのが、被害者の光昭という男性だ。光昭はエリに接触して一度は恋人関係、ないしは肉体関係を持った。が、エリとの仲を親密にしていくにつれ、実はエリには金銭で悩みを抱えていることに気づいた。その事実に気がついた光昭は彼女を自分の趣味で撮影していたAVに出演させ、金銭を受け取った。が、その金銭でエリと揉めて彼女をあえなく捨てた。──ここまで間違いはないか?」
と確認するようにエリカに問う。エリカは何も答えず、まるでなつが滔々と語っていった推測が事実のように波岩などの三人は思えた。
「その後、光昭は君と出会った。がそれ以前にエリから光昭と金銭で揉め事になっていることを聞いてたのだろうか──それとも悩み相談を受けていたのか──それは分からないが、とにかく彼には何か良からぬ話があることは知っていた。しかし、エリは光昭と付き合った。それはなぜかと言ったら──」
「好きだから」
「え?」
と、不意にエリカから発された言葉に思わずなつは首を傾げたが、もう一度エリカは「好きだったから」と言い直した。
「ほお、それはなんでだ? 相手は自分の姉同然の存在を傷つけた存在。そんな人と付き合うのは──」
なつの話を我慢しながら聞いていたのか、エリカは唇に歯を立てて聞いていた。今にも腹立たしいと思っていたのだろうか──それとも、何か理由があってのことだろうか──。
「違う。姉とは無関係なの。私があの人と付き合ったのはただ……惚れたから」
「惚れた?」
「ええ。まだ彼が吸血者になる前の頃──」
と、エリカは当時のことを思い出すように語り始めた。