忘れる人と覚えている人
はじめて掌編小説?を書いてみました。
2人がコンクリートの段差に腰掛けて話していた。
「君は今日で生まれてから何日?」
「22日だよ」
「そっか、4日先輩だね」
「君は18日なんだ」
少し間が開く。2人の間には緩やかに何度かの瞬きがあった。
「生まれてからなにをしてたか覚えてる?」
「覚えてない」
「死ぬときの1番の思い出はなんだと思う?」
「まだずいぶん先だよ、その日の1番幸せな出来事だと思う」
彼は瞬きをして彼女の笑いながらの返事を聞く。
「じゃあ昨日は覚えてる?わたしは笑ってたよ、一昨日は悲しかったし、その前は笑った」
「覚えてないけど今は楽しいよ」
「なんで覚えてないの?」
「毎日同じ日ばかりだと忘れるんだよ」
「昨日は生きていた?」
「生きていた。今も生きているから」
「笑った?」
「わかんないけど、今すぐにでも笑える。多分明日も」
そう笑った。
そういって瞬きをした。
「わたしは全部覚えてるよ」
「どうだったの?」
そう聞いてまた瞬きをする。
「昨日の君は笑ってたね。君のいうとおり」
「話すのは楽しいからね」
「こうやって毎日話している時間が幸せだよ」
「多分明日も笑ってると思う」
「当たるといいよね」
彼はまた何度か瞬きをする。
「うん、毎日楽しいのはいいこと」
「でもさ、忘れるのは悲しくない?」
そう聞きながら彼女は瞬きをする。
「別に、今が楽しいから」
彼女はまた瞬きをする。
「そっか、私は全部を覚えてるよ」
「どうして?」
「忘れたその時間にわたしが生きていたかわからないから」
「今生きていたらそれはそういうことでしょ」
彼はきょとんとしながら瞬きをしてまた話し始める。
「でも確かにいう通りかもね」
「生きているからわかるっていってたのに」
「そうだっけ?でも今日産まれたみたいな気分だから」
「君の方が先輩なのに」
「でも初めて話した日からずっと楽しいよ」
彼女は驚いて何度も瞬きをする。
「それは覚えてるんだ」
「今が楽しいから」
彼はそういって瞬きをする。
その間もずっと時が流れる。
「わたしはそういう考え方好きだよ」
「なんの話?」
彼はごく短く瞑った目を開けて質問した。
「いつも通りの話」
「あれから何日経った?」
「何日もだよ」
「全部覚えてる?」
「生きてたから。わたしは楽しい人生を送ったよ。君も」
「そう。いま、人生で1番幸せかもしれない」
「わたしは何週間前のある日が1番の思い出」
「なんで?」
「生を実感できた日だから」
「よかったね」
彼はそう言いながら瞬きをした。
その瞬間2人はコンクリートの段差からいなくなり、それは時が止まったような振る舞いだった。
稚拙な文章で恥ずかしいですが世に出します。
私は覚えている人に近いです。
あなたはどうでしょうか?