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魔法少女ぐらたん  作者: Yorimi2
3.シークワース・バニラホワイト編
83/83

#82「乗り越えなきゃ・・・」

公園に広がる森はどれも葉を枯らした木々のみ。枝の細部までほぼ丸裸になった広葉樹は冷たい夜の中で不気味さを(かも)し出していた。

奥には崩れた鳥居らしき柱と、さらに境内の奥に朽ちて倒壊した社殿が見えた。辛うじて原形を留めているのは屋根だけであった。

彼女の言う通り、ここに神社はあった。

参道の両脇には、砕けた台座が一対。アギャンやウンギャンがかつて神社で守護をしていたように、狛犬がそこには居てたのかもしれない。


「大丈夫か? カオリ」


「うん、私は大丈夫。乗り越えなきゃ・・・」


ミカンはネビロスを抱いたまま、周囲を見渡しながら恐る恐る境内へ足を踏み入れた。震える自身の体を無理矢理でも前に進ませるのだ。


「本当にこんな所に、神社があったなんて・・・誰が(まつ)られてたんだろう」


「亡霊ってのは、意外と自分と縁のある場所に戻りたがるものさ。案外、ヤツの家だったりしてな・・・。気を抜くなカオリ、奴の勝手知ったる場所だ。何をして来るか・・・」


ネビロスはミカンに言い聞かせるが、どこからかルビィーの声が響き渡った。


「ご名答。流石死神です」


足を止めて2人は警戒し辺りを探っていると、辺りに真紅の火の玉が数ヶ所の灯籠らしき台に灯り出した。

赤く照らされた境内がハッキリ見え、前方の崩れた拝殿(はいでん)の上で真紅の死神が座って待っていた。


「ようこそ、ここは赤岩神社。よくぞご決断してくださいました。来ないかと心配してましたよ」


ぬいぐるみを守る様にしっかり抱きしめて身構えるミカン。


「ルビィー・ホーン、貴方がナイトメアユニオンに関わっていたなんて。どうして? アクムーンは魂を素に作られてるから、死神ならむしろ憎むべきはそっちでしょ」


アクムーンビーストをけしかけたと言う事であの組織と関わりがあるのは明白だ。しかし彼女が奴らに協力する理由が分からない。

ミカンの問い対して赤い死神は笑い始めた。

(そば)に浮かんだ大鎌を手にして、ルビィーは立ち上がる様に屋根から少し浮き上がる。


「クククッ、確かに許せません。タマモ総裁は事が済んだら狩りたいです。でもそれは死神ルビィー・ホーン本人の意思。私の中の彼女がそう求めているのですから」


「「!!?」」


死神本人の答えに驚くべき発言があった。


「どう言う事だ!? お前は一体!?」


「うーん、話せば長いのですがね〜。まず、かつてここは戌ノ国の伝説で有名な厄災の魔犬を討伐するために、派遣された神が(まつ)られたところ。しかし実際にあの魔犬が支配していたのはワタノ島でした。ヤレヤレ、あの時調査を怠っていたばかりに・・・。辺境の場所に砦を建てても意味はなく退屈でした。ワタノへ戻り、厄災の魔犬に挑んだのですが・・・返り討ちにされ、主を失った神社はこの通り。犬1匹で神の威厳が瓦礫の山です。クククッ」


「その神があなただって言うの?」


「いいえ、ここの守護神、猫神赤岩マリ丸の魂も私が食べました。ここは魔犬の犠牲になった戦士たちが集う墓場みたいになっています。マリ丸神の持つ結界が今でも残り続け、偶然にもここに集った哀れな魂は閉じ込められてしまいました。クヒヒヒッ、そうなればどうなるかわかりますよね・・・」


閉鎖された結界の中は、呪いを育てる井戸。そこに毒蟲を放り込み溺死させた蟲たちの霊が共食いをしだすのだ。育って強力になった悪霊が井戸から()い出て相手を呪う呪術に酷似している。

その呪法をネビロスは口ずさむ。


「ま、まさか・・・蠱毒(こどく)!」


「その通り! 皆さんとても魔犬に対して激しい憎悪をお持ちになっていましたよ。お互い食い合い濃縮された憎悪によって成長した悪霊・・・。それが私達でぇぇす。うふふふふ」


カクカクと傾けた首を揺らし、不気味に笑う悪霊。とてつもない邪気がミカン達に襲い、心臓を揺さぶる。脈拍がどんどん速くなっていく。


「・・・浄霊に来たかつてのルビィー・ホーンも食べた魂の一つに過ぎません。憎悪に満ちていて、魂はとても美しく美味しかったですよ。しかし、もはや私は誰だか分からないので一番印象的だった彼女、今まで通りルビィー・ホーンとお呼びください! クヒヒっ、にゃははははははっ!!」


ルビィーは大きく両腕を広げ、天を仰ぐ。彼女の体は乱れ、激しい赤黒い炎となって踊る様に燃え盛る。灯籠の火も同調して激しさを増すのであった。

赤黒い炎が渦を巻き、境内を取り囲む。


「うわっ!?」


周囲に気を取られている隙に赤黒い火がミカンの(そば)を通り、ぬいぐるみを()(さら)う。


「しまったっ!」


手元にネビロスが居なくなった事に気づいた時には、拝殿(はいでん)の前で死神が彼の頭を鷲掴みにしていた。


「どうしたのですか? 約束でしょう?」


掴んだ彼を差し出す様に見せ、ルビィーは口角を吊り上げた。

歯を噛み締めながらミカンは身構える。


「・・・ッ」


「しかし、どう言う心変わりでしょう? あれだけ拒んでいたのに。他の2人も許すとは思えません」


ミカンは黙ったままだったので、ネビロスが代わりに答える。


「・・・話し合って決めた事だ。お前の要求を呑んだだけだ。行く場所は分かっている。必ずアイツらが助けに来る事を信じている! だから関係ないスダチさんを解放しろ!」


「すぅばらしいぃ! 貴方の覚悟は賞賛に値します・・・。約束は守りますよ。その前に――」


「?!」


ネビロスはギョロっとルビィーの方に目を向ける。目を動かすことしかできず、彼女は視界に入らない。

ルビィーは笑顔のまま、右手の鎌を彼の右腕に押し当てた。

すると、ジュッと音を立てて彼自身の右腕に焼ける様な痛みが伝わった。


「があああああっ!!!」


ぬいぐるみだけが焼けている(はず)なのに、ネビロスは耐えがたい悲鳴を上げる。

ミカンも両手で口を押さえて悲鳴を上げた。


「ただのぬいぐるみだけじゃクライアントに怒られてしまいますからね。デモンストレーションです」


「や、やめて・・・」


彼女の悲痛な訴えは届く(はず)もなく、ルビィーは愉快に彼が苦痛に(もだ)え苦しむ様を(なが)める。


「クククッ、ぬいぐるみだから熱くないと思ったでしょうッ? 実際焼けているわけではないのに、肉が焼ける感覚はどうです? 想像を絶する痛みでしょうッッ!! いくら邪龍の結界に守られているとは言っても、私にとって霊体にダメージを与えるなんて造作もないことなんですよぉぉッ!!」


押し当てた鎌を離すルビィー。


「うぐぐっ・・・」


焦げついた右腕を蜘蛛手の一本で押さえて苦悶の表情浮かべるネビロス。彼の額から脂汗が(にじ)み出る。


「さて、後は総裁達に可愛がられてください。絶望して精神が壊れる瞬間まで。その時が来たら私が狩り取って食べてあげます」


真っ赤な舌をチロリと出して唇を拭うとネビロスを真上に放り投げた。丁度頭上に空が割れて出来た異空間に彼は飲み込まれていった。


「お待たせしました、カオリ。貴方のお父様を返してあげましょう」


その瞬間、社殿がガクガクと揺れ出した。唯一原形を留めていた屋根は爆発するように粉々に吹き飛んだ。

残骸を焼き尽くす爆炎が生き物様に集まり、赤黒い火の塊がルビィーの傍に着弾した。揺れ動く火炎が形をなし、猫の様な四足獣の姿になった。

先程交戦したアクムーンビーストだ。

話が違う。やはり約束を守って取引に応じる相手ではない。倒すしか父を救い出す方法はない。

ミカンは後ろに飛び退いてブレイドを構える。


「くっ・・・お父さんをどこにやったっ!!?」


ビーストの足元にいるルビィーにミカンクナイを3本投擲(とうてき)したが、ビーストの前脚が彼女を(かば)う。刺さったクナイは炸裂してビーストの前脚をかき消したが、すぐに元通りになった。


「おや? もう返してあげましたよ。気づかないなんて親不孝者ですね」


「何を、言っているんだっ!」


理解出来ず一歩後ずさるミカン。構えたブレイドの刃先が揺れ動く。


「貴方のお父さんはこの子の腹の中ですよ。クククッ、どうぞお好きに彼の魂をお取りください」


「なっ!!?」


燃える猫のビーストはゆっくりミカンの前に出てくる。

余りの衝撃で言葉は出ない。構えたブレイドを下ろし、ミカンは肩を震わせて(うつむ)く。


「どうして・・・」


その間にビーストは迫り、前脚を振り上げた。

その瞬間、涙を含んだ鋭い眼光でミカンは見上げる。


「どうして、こんなヒドイ事するのっ!!?」


燃える手で叩き潰そうとしたビーストの胸元から顎にかけて、ミカンは斬り上げる。

ビーストは真っ二つになり大きくのけぞった。そのまま後方へ宙返りしたミカンは、崩れた鳥居の柱を蹴って、死神目掛けて真っ直ぐに突撃する。


「ルビィィィーッ!!!」


二又に分かれたビーストを通り抜けその先にいる死神にブレイドを繰り出した。

ルビィーは応戦して大鎌を振るう。

激しく刃がかち合い、火花と共に甲高い金属音が響き渡った。

一撃離脱で斬り抜けたミカンは向き直り、低姿勢になって地面を滑っていく。左手をついてブレーキをかけた。

ルビィーもゆっくり後ろに振り返り、ミカンに視線を向けた。


「貴方のお父さんについては申し訳ないと思っています。せめて貴方を焚き付けるために協力してもらいました。もっと激しく怒りを見せてください。もっと魂の輝きをっ!!」


「クッ」


ミカンは再び飛びかかりブレイドを振るうが、大鎌でいなされる。


「・・・しかし彼は別です。冥界の禁忌を破り蘇ったのは、当然見過ごせません」


ミカンは喰らいつく様に攻め続け、シトラスブレイドと鎌の刃が何度も交差する。


「ネビロス君は蘇ってなんかないっ!! 魂も新しく生まれた新星魂で、初めての命なんだッ!!」


「知ってますよ。それくらい」


大鎌の刃がミカンの左肩を掠めた。

左肩から血が(にじ)み出るが、アドレナリンが出過ぎているせいか痛みはない。リーチでは圧倒的に不利だ。


「船虫が回収したリバイバーキャスケットを調べないわけないでしょう。中にまだミイラがいたそうで、失敗だった様です」


「じゃあ、どうしてッ!!」


ミカンは後ろに飛び退いてミカンクナイを地面に投げつける。クナイを炸裂させる事で目くらましをして距離を取ったのだ。

しかし、後方からビーストが飛び掛かったので、ミカンイリュージョンで分身して二手に別れた。

左右のミカンに戸惑っているうちに、彼女2人は同時に左右からビーストをX字に斬り抜けた。

首を切り落としたがビーストは形を崩し、炎を触手の様に伸ばして空中にいるミカン達を薙ぎ払う。しかし、2人とも分身だった様で燃えたミカンの葉が散らばるだけだった。

体を再生させたビーストは居なくなったミカンを探りだしたところ、


「イヌガミック・ドライブッ! シトラスカット・ストライク!」


ビーストの頭上から本命のミカンが降り、輝きを(まと)ったシトラスブレイドを突き立てた。眩い光と共に赤黒い猫のビーストは掻き消える様に飛散した。その場には地面にブレイドを突き立てたミカンが残る。

間も無く、ルビィーが斬りかかって来たので、ミカンはバックステップして回避し、空振りしたルビィーは彼女を追撃する。


「クククッ、問題はそこじゃないんです。過去に彼は確かに死んで、そして今存在しているんですから」


回り込んで背後から大鎌を振るうルビィーをバック宙で飛び越え、ミカンが逆に後ろから斬りかかる。


「・・・でもネビロス君は、その時のネビロス君じゃないっ!」


ルビィーは振り向きながら鎌で薙いで、これを防いだ。


「確かに()じゃない。魂は別物です」


そして返す様に逆から横薙ぎを繰り出す。


「でもそれは霊的な観点から見たことで、現実的に見て、魂は別だから他人だと誰が理解出来ると言うんですか? 誰が信じると言うんですか?」


ミカンは何も言い返せず黙りこむ。

繰り出される鎌の刃をブレイドで打ち返し、次の斬撃をサイドステップで避けるが刃が擦り、切れたミカンのマフラーがヒラヒラと舞った。

絶えずルビィーは鎌を振り回し続ける。


「死んだはずの人間がっ! 目の前に現れたぁっ!! 彼を見てその奇跡を信じない訳がないッ!」


何度も打ち合ったため、遂にボロボロになったシトラスブレイドの刃先が悲鳴を上げるように折れた。


「そんなの屁理屈だっ!! 貴方はただ他人を傷つけて楽しみたいだけでしょうがっ!!」


それでも、隙を見て相手の懐に入り、ルビィーの左肩を切り裂く。

左腕が霧散しても楽しげな笑顔を崩す事はなかった。


「まだ終わってませんよぉっ! 失敗したのはナベリウスが残した棺で、少年にはまだ可能性が秘められているんですから」


残った右腕で鎌を振り回すルビィー。


「何としてでもその奇跡の正体を暴いてもらい、総裁には死を超越した軍団を作ってもらわねば」


「ふざけないでッ!! それを許せないのに・・・何が目的なんだっ!!」


大振りになったところで避けやすくなった。

最後に振り下ろされた鎌をクルッと身を翻して回避しながらミカンはクナイを数本投擲(とうてき)した。

至近距離にも関わらずルビィーは鎌をクルクル回してクナイを蹴散らしたが、一本は右手に当たり、大鎌が彼女の手元から離れた。このチャンスを逃さずミカンはトドメの突きを繰り出す。


「イヌガミック・ドライブ!」


しかし、倒したはずの猫型のビーストが横合いに入って来た。


「クッ」


赤黒い炎が横切った後、ルビィーが肉薄する。


「気になりますよねっ!? もちろん楽しむことですよ! 実現したら、私は感謝して総裁達を狩ります。死を恐れぬ罪深き化け物が争い合う混沌とした世界で、永遠に狩り続けれる! 何と素晴らしい世界でしょう!!」


イカれている。こんな事をして何になるというのか!? 理解しようとしたのが愚かだった。


「そんなことッ!!!」


攻撃手段を持っていない彼女の捨て身に、迷いなくシトラスカット・ストライクを撃ち込む。

しかし、手元から離れた彼女の大鎌が自我を持った様にクルクルと動き出し、死角からミカンの右脇腹を切り裂いた。


「くあっ!」


咄嗟に身を(よじ)った事で致命傷は避けれた。

痛みで顔をしかめ、胴体に風穴を開けたルビィーとすれ違うミカン。

刺し違えたが、ビーストがまだ残っている。

反応出来る訳がなく燃え盛るビーストが繰り出した前脚に薙ぎ払われた。


「うっ!」


ミカンはもろに火にまかれ、吹き飛ばされる。灯籠に叩きつけられ、灯籠は粉々に砕け散った。

全身の痛みに耐えながらミカンは体をゆっくり起こす。


「うぐっ・・・」


ルビィーは元通りに再生し、手元に大鎌が戻ってきた。ビーストと共にゆっくりと、動けずに居たミカンに近づく。


「おや? もうお終いですか? ガッカリさせないで下さい。私にとって貴方は特別な存在・・・。昔の貴方はもっと獣の様に純粋でした」


本当に昔の私はどうやってアイツを倒したのだろう。過去に戻って昔の自分に聞いてみたい。でもそうするとイヌガミライが怒ってきそう。食べられちゃうかな?


表情を変えず減らず口を言い続ける彼女を、膝をついたまま真っ直ぐな視線で見つめるミカン。

最後まで素性が分からないがフードから覗く赤い眼光から理解不能な狂気を感じる。

ルビィーはミカンを見下ろしながら鎌を振り上げる。ビーストも座り込んでミカンの何とも言えない顔を覗き込む様に眺めてきた。


不思議と死が怖く無い。目の前の幽霊も怖く無い。


「でも寂しくはありませんよ。貴方のお父さんも一緒です」


寂しくは無い。だって私はもう・・・


錆びた大鎌がミカンに振り下ろされようとしたその刹那——


1人じゃないっ!


境内の外の茂みからぐらたんが躍り出た。まるで最初はいなかった様にその場にフェードインした。姿を消す魔術ステルスマントで今まで隠れていたのだ。

彼女はこの瞬間を待っていた。


「タイダル・ヨルムンガンド・グレイシャーッ!!」


呪文を叫ぶぐらたん。

燃えるビーストの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がると、噴水の様に大きな水柱が発生した。

遺跡でキュラソフィーが見せた魔術に似ている。しかし(そび)え立つ水柱は大蛇に姿を変え、鎌首を持ち上げると素早くビーストを取り囲む様に巻きついた。水の蛇体が何重にも巻きつき、ビーストは巨大な水球に取り込まれてしまった。

そして冷気を(まと)い、ビーストを閉じ込めた水球が一瞬で凍りついた。


「はぁっ!?」


ルビィーにこれが予測出来ただろうか? 彼女は間一髪魔法陣から飛び退く。

ぐらたんの魔術から逃れるが、顎が外れんばかりに口を開き、目を丸くしてその様子を眺めていた。


そして、ぐらたんと共に隠れていた人影が茂みから飛び出した。


「ミルキー・ホット・バスターーッ!」


イヌガミルクが2丁拳銃を構え巨大なビームを照射した。

青白いビームは巨大な氷の塊を貫くと、ビーストは眩い光となって消滅した。

氷の粒と共に、光の粒子が四散することから完全にビーストは浄化された。

実体が無く、アクムーンのコアを狙えないのなら固めて実体を持たせればいい。ぐらたん達が導き出した答えだ。


「はあああああああああああっ!!?」


伏兵からの奇襲で猫型ビーストはあっという間に撃破され、ルビィーは驚きの声を上げるしか無かった。


ぐらたんとミルクがミカンの元に駆けつける。


「待たせたね、ミカン」「よく一人で耐えたギャン!」


「う~うん、2人とも信じていたよ。・・・ごめんね、ルビィー。1人で来なくて」


ミカンは立ち上がる。


大量の氷の粒と冷気を撒き散らした後、その場には青白い光の玉が浮かんでいた。

スダチの魂だ。

先ほどの弱々しいモヤの様な感じではなく、綺麗な星の様だ。


「よし、確保っ!」


ぐらたんは飛び立ち、スダチの魂を回収しようとしたが、

輝く魂は、もの凄いスピードで明後日の方向に飛び去った。青白く残った一筋の閃光はまるで流星だった。


「あ、あれっ!? 何処行くのっ!?」


ぐらたんは魂が飛び去った彼方を見つめるのだった。

彼の向かった先は・・・


☆☆☆

「ッ!!」


タニブ総合病院。

そこに搬送されたスダチの肉体は植物状態だったが、突如目を覚ました。生命維持のためくっ付いていたやどりんと(そば)で見守っていたウンギャンが驚きを含んで歓喜した。


「うおっ! 目覚めた!? って事は・・・」「無事にスダチさんを助けることが出来たギャン!」


「こ、ここはっ!!?」


「タニブ総合病院だギャン。外は寒いし、貴方の安全を確保するため・・・」


状況を理解する前にスダチは点滴の針を抜いてベッドから起き上がると速やかに、窓の外から飛び出して行った。


「ええっ!?」


四階の病室の窓からから飛び降りたスダチをウンギャンは追いかける。

もちろんやどりんはスダチに絡みついたままだ。


「ちょ、何処行くんだっ!!」


「ええっ!? やどりんさん、何でっ!?」


「いや、おま、こっちが聞き・・・うひゃ!!」


ずっとくっ付いているやどりんに(ようや)く気づき驚きながら、スダチは走る車の上をぴょんぴょんと飛び移ったり、ビルの壁を走ったり、常人離れした素早い動きをする。これが運動音痴の動きか?

絶句したままやどりんは必死にしがみつきながら、彼の真剣な横顔を見続ける。

忍者の様に彼はタニブ市内を疾走して行く。

説明する暇はなく、スダチは向かわねばならぬ場所があった。

それはミカン達が戦っている公園とは違う方向。


アレをカオリに・・・! 必ず必要になる筈だ。

タイダル・ヨルムンガンド:アクアプリズン系水操魔術の発展型。タイダル・ウェーブほど大規模ではないが、大量の水を必要とするため発動するのに多大な魔力と、チャージ時間を要する(ただし水が豊富にある環境では、水を生成する過程を省略でき、魔力消費も抑えられる)。蛇のように動きまわり、対象を絡めとって大きな水球に閉じ込めて締め上げるように水圧で圧殺する呪文。指向性があるためタイダル・ウェーブより扱いやすいが、発動に時間がかかるのであらかじめ完成した魔導グレネードとして運用するのが効率的。

ぐらたんが使用した「タイダル・ヨルムンガンド・グレイシャ」は、氷結魔術を複合したカスタム呪文。

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