表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女ぐらたん  作者: Yorimi2
3.シークワース・バニラホワイト編
79/89

#78「とても機嫌が悪いのです」

「はあ〜、今回も空振りか遠く踏んだりまでシークワースまで来たのに・・・。おまけに鉄道は運休中で、帰ることすら出来ない」


ハンティング帽を被った男性は列車衝突を防いだと言う犬神少女を記事のネタとして追っていたが、避難させているホテルには厳重に犬顔の警備員が張り詰めており、取材を全く許してくれない。

この国は頑固(がんこ)な奴が多過ぎる。


不満と残念な気持ちを抱えてジャーナリストの男性はホテルを後にし、いつも待機していた喫茶店へ向かうのだった。

その時、二人組の少女が彼の前を横切る。


まさかとは思ったが、犬神少女たち本人ではないか? 顔は似ている。変身前だが顔は変わる訳じゃない。妖精らしき小さいのを2、3匹連れている。


男性は急いで端末を広げてメモをチェックした。


ダークパープルの髪で緑目の中学生くらいの少女。栗色髪でオレンジ目の高校生くらい少女。

あとは・・・

1名足りないが間違いない。


取材のチャンスだと思い、男性は急いで二人組の女の子たちに駆け出した。


「すみません!! フリージャーナリストの者なんですが・・・!?」


犬神少女たちに直接インタビューを迫ったが、男性は立ち止まり絶句した。


「あ・・・っ」


二人の少女は振り返る。

よく見ると彼女らの頭にはケモノの耳がしっかり生えていた。

ダークパープルの女の子は垂れた犬耳、栗色の女の子は三角耳が付いていた。

人間では無かった。


「何ですか? おじさん、取材ですか?」


「あ、ああ。君たち現地の子?」


「んー、タニブには引っ越してきたばかりかな?」


「そ、そうか。君たちに聞きたいけど数日前に縦断鉄道シークワーライナーの事件について何か知っている事は?」


二人は顔を見合わせると、ダークパープルの子が話し出した。


「ニュースで見たけど、すごーいくらいしか。映像も撤去作業のものだけだし、魔法少女的なのが本当に防いだのはちょっと考えづらいかな〜」


「そ、そうか・・・。ありがとう」


ケモ耳の少女たちは速やかに立ち去っていた。その場に残された男性はガクッと頭を下げるのだった。


「あー、収穫なしか〜っ。早くバニラホワイトに帰りたい」



☆☆☆

「ふーっ、意外とバレなかった。やっぱりまだウロついてるもんだね〜」


クー・シーの姿に戻ったカオリは目的地である建物の前で後ろを振り返り、他に報道関係者が追跡していないか確認する。


「正解でしょ? みんな誰も変身してるのが人間じゃない事なんて思ってもいないからね。逆にここじゃ人間の方が目立つしね」


「私は(しばら)くこの姿ギャン」


魔力解放して蝙蝠(こうもり)の翼をパタパタさせながら、ぐらたんも本来の姿を(さら)して羽を伸ばすのだった。彼女左肩にはマスコット姿のアギャンがしがみ付いている。


「さて、ここがそうだな。ミルクベーカリー・モンタギュー」


ぐらたんが背負うリュックから頭を出したネビロス。建物はおしゃれで花壇にはまだ(つぼみ)の花が並んでいた。

はっちゃんの話によるとこのパン屋に丑神(うしかみ)がいるそうだ。


早速店に入ろうとしたところ、

店員らしき栗色のケモ耳を生やした男性と小柄な白いシスターが何やら言い争ってるのが窓の外から見えた。


「何()めてるんだろう? 兎に角入ろう!」


カオリが一番に扉を開け、みんな一斉にパン屋に入って行った。


「だから・・・そう言われても困りますー。申し訳ないですが、潰れてしまったのはどうしようもないんですから」


「何とかしてください、スダチ。いつも遠く遥々(はるばる)貴方のパンを求めて買いに来ているのですから。更に遠くなってしまったら、生徒達が飢えてしまいます。もう一度・・・」


「え〜っ、また開店したところで結果は同じですよ〜っ」


「やってみないと分からないでしょう? いや、やってみてから言いなさい」


「い、いや。だから・・・」


店内だと二人の容姿や話し声がはっきり分かる。

パン屋の男性は店のエプロン姿。体型はやや細身。優しそうな顔をした男性。少しクセのある栗色の頭髪から生える犬耳は折れ曲がっている。そして腰から同じ毛色の尻尾が見える。

小柄の白いシスターは分厚い白いコートを羽織っており、純白で狐のようなふわふわの尻尾がコートの上から生えている。頭に被った白いウィンプルにも尖った山が盛り上がっていることから下には三角耳が隠れている。

その後ろ姿にネビロスは見覚えがあった。


「どうされたんですか?」


話に割り入って二人を止めに入ろうとするカオリだったが、ネビロスがシスターに声をかけたことでかき消された。


「先生!? ポラリス先生ッ!!」


ネビロスの知り合いだったことにぐらたんたちは驚きを隠せないでいた。


「え? 知り合い?」


カオリは小声でぐらたんに聞いたが、アギャンやウンギャンと一緒に首を振った。


「分かんない。ネビロス様の先生かぁ」


孤児院で彼が育ったと言うのは事前に知っている。彼の異常なほどのモフモフに対する執着は、先生の耳と大きな尻尾が原因か・・・。


彼女を見ては勝手に納得するぐらたん。


名前を呼ばれたシスターはウィンプルで隠れた耳をピクリと動かし、ぐらたん達に振り返る。

瞳は海の様に青い。顔はおしとやかで実に修道女らしいが、表情は冷たい。何か近寄り難い感じがした。


「何ですか、このモンスターは?」


彼女の視界に映ったのは小さな白いぬいぐるみ。しかも左腕が異形で奇妙なクリーチャーだ。彼女は真顔のままその小さくて白い魔物を見つめる。話を止められたことで店員もポカーンとネビロスを見つめるのだった。


「ぼ、僕です! ネビロス・スノークリスタルです!! ポラリス・スノークリスタル院長先生!」


「ネビロス? 彼がそんなよく分からない魔物な訳ないでしょう」


ネビロスは必死に、自身を指差して自分を主張するが、中々信じて貰えない。声で気づかないのも無理はない。孤児院を出て行ったのは声変わり前なのだから。


「これでどうです!? 話すと長いですが、色々あって結界に封印されているんです」


ネビロスは会計のカウンターに座り込むと、頭からネビロス玉がスッと浮かび出した。水晶の中には、銀髪翠眼の少年がいた。

ポラリスはじい〜っと水晶にいる彼を見つめ、水晶の表面に手を触れた。


「なるほど、湾曲空間・・・。確かにネビロスです」


分かって貰えた事で、ネビロスはパ〜ッと嬉しそうな顔をしたが、


「しかし、まだ貴方であることを信じていません。本当にネビロスであるなら証明出来ますね? 私は死活問題に関わる交渉をしてるので、とても機嫌が悪いのです」


まだ疑っている様子。

彼女の凍る様な冷たい視線に圧倒され、水晶の中で固まるネビロスだったが、彼女の事を良く知っているので何をすべきか自然と体が動いた。


「ならばっ!」


ネビロスはぬいぐるみに戻るとカウンターの奥にある長い暖簾(のれん)へ飛び出した。


「すみません! 厨房をお借りします!」


「ちょっと!! キミ!」


スダチが止めに入ろうとしたが既に遅く、ネビロスは暖簾(のれん)をくぐり厨房へ突入して行った。


申し訳なくなったカオリとぐらたんは頭を下げるのだった。


「すみません! すみません!」「ウチのネビロス様がご迷惑を!!」


「あ、うん・・・。君たちは一体? お客さん?」


戸惑いつつ、ぐらたん達に振り向く店員。

ぐらたんが前に出て説明した。


「ええと、私たちは犬神少女で、ナイトメアユニオンと戦うために旅をしているの。そこで神通力(じんずうりき)を鍛えたくて、ここでお店をやってる丑神(うしかみ)もん()牛命(ぎゅうのみこと)に修行をつけてもらいたくてやって来たの」


丑神(うしかみ)・・・お師匠のことかい? そうか、なるほど君たちが・・・」


理解してくれた店員は快く暖簾(のれん)をめくって中へ招く。


「僕は犬村スダチ。もん()様はパンのお師匠なんだ。お師匠は今外出中で・・・。ここで話すのも何だし、奥の二階へどうぞ」


めくられた暖簾(のれん)の奥にはネビロスがせっせと何か作っているが、そこは何も見ない事にした。

彼が名乗った事でぐらたん達も自己紹介する。


「スダチさん、お邪魔します! 私はぐらたん。こっちは・・・」

「私はアギャン」「某はウンギャン」


「あたしゃ、やどりんだ」


「私はカオリです。お邪魔します、スダチさん」


最後にカオリが名乗った事で、スダチは彼女を見つめたまま何か驚いた表情のまま固まる。


「どうしました? スダチさん?」


首を傾け、不思議そうにカオリは彼を見上げる。


「あ、いや。あはは、何でもないんだ。同じクー・シー族に会えてね」


彼は笑いながら後頭部を撫でる。


「へえ、ここでもクー・シーって珍しいんですね」


「そうなんだ。ファーノイドの中でも、少数だからね」


スダチは微笑んだまま、厨房へ入っていった。お邪魔する事になったぐらたん達は後についていく。


☆☆☆

スダチに二階の部屋へ案内されたぐらたん達は、テーブルに沿って一列に席に着いた。向かい側にはスダチと、勝手について来ていたシスターのポラリスが席に着いた。


二人から話を聞けば、

バニラホワイトポリスでパン屋を営んでいたスダチだったが、パンを買ってくれる人が中々増えず減る一方でやむ無く閉店してお師匠である丑神(うしかみ)の元に戻ったという。

そこで、唯一の常連だったバニラホワイト雪原にあるスノークリスタル孤児院の先生ポラリスが彼を連れ戻すために追ってきたという。


「気持ちは分かるけど・・・明らかに迷惑客だギャン」


アギャンは小さく呟くがポラリスと目が合ってしまい、ビクッとした後目を()らした。


「・・・先生、別に他のお店で買っても良いんじゃ無いですか?」


カオリはスダチの隣で不貞腐(ふてくさ)れているポラリスに聞いたが、


「他はダメです。彼のパンじゃ無いとダメなのです!」


(かたく)なに彼のパンにこだわった。横でスダチはヤレヤレと疲れた顔をする。

何度言っても引き下がらないつもりだ。

(らち)が開かないと思っていたところで、救世主の登場だ。焼きたてのパンの美味しそうな匂いが近づいてきた。


「勝手に借りてすみませんでした! どうぞ」


ネビロスは厨房で作ってきたものをぐらたん達が席に着くテーブルへ一人一人配膳(はいぜん)して行った。


「チョコクロワッサンアイスクリーム()えになります」


配り切った後、彼は空中で調理帽を脱いで軽く会釈(えしゃく)した。

お皿には、チョコレート色に染まったクロワッサンとアイスクリームが添えられていた。

見るからに美味しそうで、ぐらたんとカオリ、アギャンととウンギャンは目を輝かせる。


「へえー、パンも焼けるのね」


感心しながらカオリは目の前のクロワッサンを(なが)める。彼女達の様子を見て得意げにネビロスは答えた。


「もちろん、喫茶店にはパンのメニューもあるからな」


「それにこのクロワッサン、チョコ味のほかに、イチゴ味やワタノ抹茶もあるんだ!」


ぐらたんが、待ちきれない状態でクロワッサンを(なが)めながら補足を入れた。両サイドのアギャンとウンギャンも(うなず)く。


「へえ、そうなんだな。あたしゃ抹茶が好きだから、次食ってみたいぜ」


フライングでやどりんはナイフでカットしたクロワッサンを口に入れた。


「うん。うめーな!!」


いきなり勝手に厨房を使われて、パンを振る舞われて変な気分になったスダチは、ナイフを入れた。


「い、頂くとするよ」


カットしたクロワッサンからドロっと溶けたチョコレートが流れ出て、カカオの香りが広がる。まるでフォンダンショコラの様だ。一緒に()えられたアイスクリームが溶け渦巻きを描きながらチョコと混ざるのだった。

あまりの完成度にスダチはゴクっと唾を飲み込む。

隣で表情は薄いものの不機嫌そうなオーラを放っていたポラリスは一瞬目を輝かせるが、すぐに真顔に戻った。


「・・・まあ、見てくれは合格点です。問題は味なのです」


スダチとポラリスは同時にフォークで口に入れた。


「「!!?」」


口に入れた瞬間、サクサクするクロワッサンの食感からジワッと溶けたチョコが広がり、苦甘い味が口の中を満たすのだった。アツアツのチョコは一緒に食べたアイスクリームによって冷やされ、絶妙な温度感とクリーミーな甘さが混ざるのだった。


二人の様子を見て笑顔になりながら、ぐらたん達もクロワッサンを口に入れた。


「ん? チョコの中にカリカリとした物が・・・、新しく何か入れた? ネビロス様」


「よく分かったな。細かく砕いたアーモンドを新たに加えて改良してみたんだ」


「サクサクの後にこのアーモンドの食感がマッチしててイイギャン!」


「よーし、次回からアーモンドを標準化するか」


ぐらたん達と謎の白いぬいぐるみのやり取りを見て、スダチは身を乗り出す。


「な・・・、何なんだキミは一体っ!?」


プロみたいな味に、彼は驚きを隠せない。横でポラリスは小刻みに震えながら喜びの感情を出すのだった。


「こ、この味こそネビロスなのです! 知らないうちに更に腕を上げましたね。貴方は紛れもなくネビロスです」


(ようや)く認めてもらいネビロスはガッツポーズをとった。


「で・・・、ポラリス先生、どうしてここに?」


話に参加していなかったネビロスは、口をハンカチで拭くポラリスに問いかけた。


「たまたまシークワースまで遠出をしただけです。まさか教え子に会えるとは思ってなかったです」


「遠出って・・・レベルでは・・・。みんな大丈夫なんですか?」


「問題ないでしょう。アイペロス先生がいますし、モースキーもいますから。それにニコも先生見習いとして頑張っています」


「そうか、あのニコが・・・先生に」


あの3名に任せた事に不安しかないが、ネビロスは孤児院での思い出を懐かしむ。

ポラリスも無表情は相変わらずだが、ご機嫌な様子。さっきの()め事はどうでも良くなった様な彼女の言いように、スダチは少々傷ついた。


「カイトは最近独立して郵便屋さんになって都市で働いてます。たまに帰って来ますね」


「カイトもか・・・。よくアイツとは孤児院中探索したり、外では一緒に先生に狩猟に連れて行って貰ったな〜。今元気に働いてるのか」


「全く、よく施設内で迷子になったりして探すのが大変でした。逃がしたユキウサギより手を焼いたのです」


白い女狐との思い出話に花を咲かせて普段とは違うネビロスのイキイキとした表情を見て、ぐらたんはモヤモヤしながら様子を(なが)めるのだった。


()いてるの? ぐらたん」


小声でカオリが茶化してくるので、


「私なんか、いつも悪霊狩りを手伝ったり、ネビロス様の作ったお菓子の試食をしてたもんね。特に発売前の新作とか」


小声で対抗してみせた。

そのリアクションでカオリやアギャンやウンギャンは安心したのか、ニヤニヤしてぐらたんを見守る。


ポラリスにも聞こえていたのか、ぐらたんと目が合った。無表情だが、何だか余計に澄ましたような余裕の笑みに見えてきたので、こちらも不敵に笑って張り合って見せたぐらたん。

ポラリスとぐらたんの間で何かバチバチと火花が飛び散る。


「さて、気が変わりました。私はとても機嫌が良いのです。確か犬神少女でしたね、貴方たち。この際私が修行に付き合ってあげますよ。神通力(じんずうりき)には心得があります」


ポラリスの突然の提案にぐらたんは反発する。


「何でっ!!? 丑神(うしかみ)に教えてもらうんだからっ! 必要ないです。雪国にお帰りください!」


ぐらたんは引き取り願おうとするが、ポラリスは構わず優雅に紅茶を口にする。


丑神(うしかみ)では務まりません」


「どうしてですか?」


気になったカオリは紅茶を飲む彼女に聞くが、即答で返ってきた。


「感ですよ。私にはわかります」


根拠が見えずみんな反応に困っていたところ、電話が鳴った。部屋の隅にある棚の上にある古風な黒い電話だ。

スダチは急いで受話器を取ると、本体からホロスクリーンが浮かんだ。見てくれはアンティークで洒落(しゃれ)ているが、しっかりと現代仕様の電話だった。ホロスクリーンには何も映っておらず「音声のみ」と表示されている。残念ながら相手側が分からない。

スダチは素性不明の相手と通話する。


「あ、はい! 僕です。どうされたんですか、お師匠?」


どうやら話し相手は丑神本人の様だ。スダチは額に汗を浮かべて不安そうな顔で受け答えする。


「ええっ!? は、はい、わかりました。お店は、お任せ下さい・・・。いえいえ、とんでもない。・・・僕からお伝えしますので。はい、お大事になさってください」


通話が終了すると、スダチは力が抜けた様に受話器を本体に戻した。


「どうしたの、スダチさん」


ぐらたんが彼に近寄り顔色をうかがう。

魂が抜けた彼は不自然にカクカクと振り向く。


「ご、ごめんよキミたち。お師匠が(しばら)く入院・・・!! 季節性のウイルスだそうだ。(しばら)く帰ってこない・・・」


「「「「「ええええええっ!!?」」」」」


突然の丑神が病気で帰って来れない事を聞かされ、ぐらたん達の驚きの声が部屋中に広がった。


「あ〜ん、どうしよう・・・。僕だけじゃ〜無理だぁぁぁぁっ」


そして情けない声を上げながら、スダチは崩れる様にテーブルに頭を伏せた。折れた三角耳はヘナっと垂れる。


「このままじゃ、お師匠の店まで僕のお店みたいにッ! む、無理だ〜」


ぐらたん達は丑神(うしかみ)に修行をつけて貰えない事にショックだったが、スダチは一人で営業して行かないといけない事に絶望していた。


「大丈夫です。私は貴方のパンは気に入っています。自信を持つのです」


ポラリスは優しく彼を慰めるのだが、はっきり言って慰めになっていない。

カオリもテーブルに突っ伏している彼の背中に手を当てて慰めに行く。


「大丈夫ですよ! バニラホワイトで合わなかっただけで、ここならスダチさんのパンを気に入ってもらえますよ」


「無理だよ〜っ」


震える彼の目から涙が込み上げる。


「僕はっ! 今までっ、パンを上手く焼けた事なんて・・・」


悲観し続ける彼に、白いぬいぐるみが立ちはだかった。

ネビロスは職人たる心得を熱く語る。


「スダチさんっ! スイーツ作りにおいて一番大事なのはまごころです! それはパンでも同じです。どうであれ、たった一人でもお客さんのために美味しさを伝えたい・・・その一心があれば問題ない! 僕も過去に失敗した事は何回もあります。何がダメで、次からはこうしようって、それでも諦めずに僕がスイーツ作りを続けるのは、やっぱりみんなが笑顔になってくれるからです。みんなを笑顔にしたい、幸せなひと時を届けいたいこの思いを忘れないでください。・・・貴方がパンを焼き続ける理由は何ですか?」


ネビロスは優しく小さな右手を差し出した。泣くのをやめて、スダチは頭を上げる。

売れない。それでもパンを焼き続ける理由を彼は思い出す。


「焼き続ける理由・・・、そうだ! ここに渡ってくる前、身寄りのない子達に初めて自分で焼いてあげたんだ。味はともかく、あの子達は笑顔になってくれた。元気を分けれた。だから、みんなにも届けたいと思った」


スダチはネビロスの手を取る。


「ありがとう。経営の事ばかりで肝心な事を忘れていた。キミ、ええと」


「ネビロスです。僕も手伝いますよ」


「ああ、ありがとう! ネビロス君。いや、お師匠っ! あのクロワッサン感動しました! 是非とも僕にご指導をっ!!」


「えっ? あ、うん」


急に師匠呼ばわりされ戸惑うネビロス。


「良かったね、スダチさん!」


カオリやぐらたんは彼が気を持ち直した事で喜ぶのだったが、ウンギャンは不安そうにネビロスに駆け寄る。


「ネビロス様、はっちゃん様が来るまでに、INU(イヌ)言語の学習はどうするのです?」


「あっ!」


はっちゃんがタニブに到着するまで時間がかかる。本格的な開発が始まるまでに、やどりんやウンギャンからINU(イヌ)言語を教えてもらう事になっていた。INU(イヌ)言語とは犬神少女の変身システムを構築するプログラミング言語である。


ハッと思い出しかかのように、ネビロスは気まずくなるが、首を横に振って言い直す。


「何とかなるさ。今まで本業をやりながら喫茶店を運営して来たんだからな」


そう言えばそうだったと言わんばかりにウンギャンは口を大きく開けて納得した。


「さて。もん()(ぎゅう)に代わって私が鍛え直してあげるのです。可愛がってあげますよ。はい」


ポラリスは席から立ち上がると、楽しげなオーラでぐらたんを見るのだった。


何でこっちを見るんだっ!?


獲物を見る様なギラつく目にぐらたんは後ずさる。

こうして予想外な事にはなったが、ポラリス先生による神通力の修行が始まるのであった。

ファーノイド:全身ケモ度MAXからケモミミや尻尾の一部のみの要素を持った人を含めた獣人の総称。それに対して普通の人間はノーマノイドと呼ばれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ