#56「・・・のこり15分」
遺跡内に警報が響き渡り、急いでリバイバーキャスケットのあるフロアに戻った犬神少女たち。
しかし、船虫が待ち構えていたのだった。
棺の上に座りながら、手に持った黒い直方体の記憶装置をポンポンと軽く上に投げるように遊ぶ船虫。
ネビロスにとって、その黒い記憶装置には見覚えがった。
さっきホログラム映像で見た緑色のモノと一緒に箱に入っていたものだった。
ネビロスの目線に気付いた船虫は遊ぶのを止めて記憶装置を握りしめる。
「あ~コレかい? ひひひ! コイツはアタシがもらったぜ。そっちはもういらね~かな? もう聞いちまったから・・・」
「ふーねーちゃん・・・! ・・・ッ!!?」
ネネが一歩踏み出そうとしたが、動けずにいた。
いつの間にか船虫の左手には見たことのない造りの拳銃が握られていた。
いつ抜いたか分からない。銃口はネネに向けられていた。
「いい子だネネ。アタシに撃たせるなよ? テメーらもだ。動くなよ? まあ動いたところでアタシが引き金を引く方がはえ~が・・・試してみっかい?」
全員その場で動かず様子をうかがうが、ネネは食い下がる。
「どうしてっ!? やめてっ、ふーねーちゃん! 貴方はそんなことする人じゃ・・・」
「ネネ。悪いこたぁ言わねぇ・・・。これ以上アタシに関わるな」
魔獣は毛を逆立て威嚇する。
「そこのムシ、ココになにをした」
「虫って言うな~っ!!! 適当にコンピュータいじったら・・・なんかやばい感じになった」
「ぬえっ!? 何だと!!?」
その時、フロア内に音声が響いた。
『総員、本館から退避してください! 間もなくこの研究所は機密保持のため自爆します。総員、退避してください。のこり30分・・・』
『エラー・・・のこり15分』
「「「「「「「「何だって!!?」」」」」」」」」
この場にいた全員が同じ言葉を発し、ソワソワと足踏みをしだす。
「や、やっべ・・・まあ、り、リバイバーキャスケットだってぇ? 死者を生き返らせられるって言うすんげ~違法モンを見過ごすわけにはいかねー。オメーも死神ならわかるよなあ? これで生き返った小僧」
「くっ・・・」
冥界法第146条、死後の裁判および判決後の浄化期間を終了せずに来世への転生を行ってはならない。
すべての魂は必ず冥王によって裁かれ、浄化という魂の初期化をした上で生まれ変わることが義務づけられている。
ネビロス自身、死んだというなら裁判から浄化の過程を飛ばし再び同じ肉体に転生したということでこの法に抵触している。生き返らせる手段自体がここに存在する確固たる証拠もある。
「こ、ここは本業を思い出して冥界に突き飛ばすのがイイのかもしれねーが、秘術もあるからな~。今はまだ記憶が引き出せない状態だから・・・っていうかそれどころじゃねえ!! ひとまずはこのメモリーとこの棺桶を頂いておいとまするぜっ!!」
船虫が棺から立ち上がると、彼女の背後に異空間ゲートが現れた。
焦っておきながら妙に悠長にしゃべっていられるわけだ。
「・・・っ!!? させるか!!」
ミントは飛び出しミントスラッシュを放つが、船虫の前に割って入ってきたアクムーンビーストが構える盾によって阻まれる。
カブトムシ型のビーストは人型に近い。大きなランスと盾を持った騎士のような姿で今まで相手してきたビーストとは違い中々カッコイイデザインだ。
「いいタイミングだぜ! ちょうどいい遊んでやりな、ディープ・アクムーン!!」
船虫はリバイバーキャスケットとともに異空間に飲み込まれ姿を消した。
「あくむ~ん!」
ゲートが閉じた後、カブトムシ型のビーストは犬神少女達に立ちはだかる。
魔獣は一筋の汗を流しながらみんなに話しかけた。
「オマエたち、脱出しろ! 早ク」
「・・・キューちゃんはどうするつもり?」
ミカンは恐る恐る魔獣に振り返り聞く。
「ここを守るのがボクの使命。アイツを足止めする! 時間がない」
ビーストが突撃してきたので魔獣は敵のランスを左手で掴み破砕し、右手で敵を殴り飛ばした。
ビーストは壁を突き破って吹っ飛ばされ、壁に出来た穴から破片と塵が巻き上がった。
魔獣の言葉に納得できなかったネビロスは彼女の前に飛び出す。
「何を言ってるんだ! 死ぬつもりなのか!」
「ボクはツクラレタ兵器。だから・・・急げ!」
魔獣は優しい笑顔をネビロスに向ける。彼女の笑顔は何か寂しげな感じがした。
「急げというが、ここまで入り込んでしまったらどこが出口に近いが分からん。案内してくれ! ・・・ああは言ったが、ほんと言うとキミとはまた真剣勝負がしたかった。この酒の味が分かるならキミとは気が合いそうなんだがな」
「・・・」
「・・・時間的にも脱出は厳しい。ここは自爆装置の解除に専念した方が・・・キューちゃん、ここから解析できる?」
大量の汗が額からあふれながらもミントはコンピュータに飛びつきキーボードを叩くが・・・
「危ないギャン!!」「うわっ!?」
咄嗟にミルクはミントに飛びつき押し倒すと同時に、コンピューターが木っ端みじんに吹き飛んだ。
そしてホログラムプロジェクターに置いてあった緑色の記憶装置も一緒に粉々に砕け散るのを目の当たりにし、ネビロスは悔やんだ表情で右腕を伸ばした。
「くそっ! 博士の記録が・・・」
続きは闇の中。今まで聴いたことを整理していくしかない。
手掛かりを破壊したのは、空いた壁の向こうからビーストが新たに生成し手投げてきたランス。破壊したあと飛んで行ったランスは反対側の壁に突き刺さった。
「っく・・・解除もさせないつもりか」
ミルクの下敷きになったミントは、壁の穴から現れたビーストを睨みつける。
「・・・。分かったボクが案内する・・・動力炉を直接停止させる。近道だ! ついて来い!」
思い直した魔獣は最初に開けた穴に飛び込んだ。考えを改めたことでみんなは安心をする。
「キューちゃんっ!!」
「よ~し! みんな、続くのだ! とう」
コーラスも後に続き穴に飛び降る。そして全員が穴に飛びこむが、またしてもビーストが追ってくるので、
「ミント・リフレッシュ・トルネード!!」
飛び降りる際にミントはビーストに向かって必殺技を放ち、再び吹き飛ばした。
盾で防がれていたので仕留めきれたか分からない。
「気休めだが・・・」
ミントが降りてきたのを最後に、続いてネネは蜘蛛糸を網状に放ち、天井の穴をふさいだ。
その間魔獣は再び床に爪を振り下ろし、穴をあけた。
「コッチ」
遺跡の自爆を止めるため、犬神少女達は動力室へ急ぐのだった。