#53「もう、戦うしか・・・ないのか・・・!?」
通気口から抜け出したヌイは壁を伝いながら、地上を目指す。
死者を蘇らせる装置、リバイバーキャスケット。
秘術を目の前にして、逃げてしまうとは・・・。
「くそっ! ・・・これ程とは」
アクムーン結晶体を応用した新たな力を手にしたのに、100年以上前の生体兵器に手も足も出なかった。
自身の無力さに憤り、ヌイは壁を軽く殴りつける。
あれさえあれば、あの子は・・・。ああ、トキノア・・・。
浮き上がってきたやるせない気分を押しとどめ、ヌイは歩き出す。
すると、前から足音が聞こえてくる。警戒して身構えるヌイだったが、
目の前から歩いてきた人物に驚愕して固まってしまう。
「!!?」
なんだ!? こいつ・・・
主張が激しい異常な身なりの男と目が合っては、しばらく沈黙が続くと何事もなく通り過ぎていった。振り返らずそのままヌイは立ち去ろうとしたが、
「・・・。ところでキミ? キミも依頼を受けたギルドの者かね?」
急に話しかけられビックと足を止める。
「・・・。いえっ」
しかも返事をしてしまったヌイ。
「そうか。ここには恐ろしい魔物が潜んでいるのだら、早く脱出するといい。アッチに地上に続く階段がある」
「あっ・・・どうも」
男は遺跡の奥へ進んでいった。鳥肌を立てたヌイは速やかに教えられた出口へ向かった。
☆☆☆
突撃してくる魔獣。
一斉にみんなは散開し、誰もいなくなった壁に魔獣の左腕が叩きこまれる。
壁には大きな穴が開き、激しい衝撃で破片をまき散らす。そして崩れるように数十本の空のボトルビンが散らばった。
「・・・・・・」
そして、背中を見せたままゆっくりと背後に目をやる魔獣。
魔獣の元へネビロスは飛んでいく。
「どうしたんだ! もう戦わないって言っただろ!? 戦いは終わったんだ」
「・・・。終わらない。トマラナイ。このカラダ、動き続けるまで! みんな居た、この場所を守り続ケル・・・」
魔獣は左腕を振り回し、ネビロスを追い払う。ネビロスはかわして、魔獣から離れる。
魔獣は振り返り正面を向いた。赤い眼光が揺らいでいて目が潤んでいてるような気がした。
「くっ、もう、戦うしか・・・ないのか・・・!?」
自分が治療したという魔獣の左腕。その治療跡を見ては、複雑な心情がぐるぐると回り続ける。
ジリジリと魔獣は歩みよってくる。
「・・・ッ。みんな、ヤツを止めたい! 力を貸してくれ!!」
「そーだ、必殺技の浄化作用なら・・・。おーけー、やってみなくちゃね」
ミカンは唇を舌で拭うと、シトラスブレイドを構えなおした。その横で、ミントはみんなに呼びかける。
「よーし。じゃあ、みんな、行くよ!」
ミント、ミカン、ミルク、ネネは魔獣へ駆け出す。
目を細めた魔獣は彼女たちを迎え撃つ。
「・・・たおす・・・!」
「ミルキーマグナム!」「ミカンクナイ!!」
青白い光弾とクナイが放たれるが、すべて魔獣に弾かれる。後から飛んできた残りのクナイは、上に跳びあがることで避けられた。そのまま飛び掛かる形で両腕を振り上げミルクに襲い掛かる。
「見た目に反して身軽だギャン!!」
ミルクは前に飛び出し、攻撃を回避する。
ミルクのいた場所に勢いよく魔獣の両腕が振り下ろされ、床は派手に破片をまき散らしながら砕け散った。
飛び出したミルクはクルっと宙返りし、反転する際にブラスターを連射。
光弾は魔獣の背中や後頭部、翼にに命中するも怯む様子はない。
ミルクに入れ替わるように、ミントとミカンは突撃し左右に分かれる。そして両側から、ミントはミントスラッシュで、ミカンはシトラスブレイドで斬りかかる。後から続くようにネネは、跳びあがり大剣を振りかぶる。
しかし、魔獣はノンルックで対応し、同時に左右から繰り出される斬撃を腕で受け止める。
「なっ!」「うそ!?」
払いのけると、後ろに振り向く勢いで尻尾を振り回してミントとミカンを薙ぎ払う。弾き飛ばされた二人はそれぞれの壁に叩きつけられ、破片やチリを巻き上げる。
そして上から斬りかかるネネを迎え撃つ魔獣。ネネは咄嗟に天井に蜘蛛糸を放ってぶら下がり、落下タイミングをずらす。
攻撃を空振りする魔獣の脳天へ大剣を振り下ろすが、刃は魔獣の頭を割ることなく接触面で刃がこぼれて砕け散る。
「くっ!」「イタい・・・脳がユレル」
ネネが怯む間もなく、刀身は魔獣の左腕に摑まれる。ギシギシと砕け大剣はへし折られてしまった。
「イヌガミック・ドライブ! ネネ! 避けるギャン!!」
折れた大剣を投げ捨て、右側に距離をとるネネだったが、魔獣の尻尾が足に絡みついた。
「何? うわっ!?」
ネネは振り回され、ミルクの方へ投げ飛ばされた。
「ミルキー・ホッ・・・!!? ギャン!!」
「ぐはっ!」
ミルクは引き金を引くのをためらってしまい、投げ飛ばされたネネと衝突。
二人一緒に倒れる。
魔獣が雄たけびを上げ、倒れている二人にゆっくり前進する。
「アギャン、ネネ! っく!!」
ネビロスは飛びつくようにミルクの傍に落ちているミルクブラスターを拾い上げ、床に置いた頭を銃架にして銃身を安定化させて魔獣に狙いをつける。
「がはっ・・・! ネビロス様逃げて」
ミントはわき腹を押さえて上半身を起こし、ミントスラッシュを発射しようとするが間に合わない。
「ジョシュ・・・どーして? 武装解除しろ・・・でないと・・・」
魔獣は方向転換し、ネビロスの方に足を進める。揺らめく眼光が彼に向けられる。潤んでいる目から一筋の涙が零れる。
「オマエも・・・コウゲキタイショウに・・・」
「・・・っ! 元に戻ってくれ!!」
魔獣はズシズシと地響きを起こしながら走り出し、ネビロスに急接近する。
「イヤっ・・・トメラレナイ! ボクに出来ることは・・・」
左腕の爪が繰り出されようとしたその時、重たい金属音が鳴り響き、火花が激しく飛び散る。
ネビロスを貫こうとした魔獣の左腕は、何かに弾かれたのだった。
大きくのけぞった魔獣は左腕を軽く振りながら、一歩下がる。目を丸くした表情のまま目の前に割り込んだ人物を見て固まるのであった。
ネビロスとミントも同じ表情で動けずにいた。
さっきの衝撃で、気を失っていたミカンやミルク、ネネも目を覚まし、驚いた表情でその人物に注目する。
ミルクを下敷きにしたままネネは思わず口を開く。
「・・・どうして陛下が・・・!?」「どいて欲しいギャン・・・」
「やるな・・・流石、吾輩の・・・いや、俺の最大のトラウマ」
ネビロス、そしてミルクとネネの前に立っていたのは、うるさいくらいに七色の光を放つレインボーバブル国王コーラスの姿。
太いハの字の眉毛で疲れた表情なのは変わらず、
「・・・そして最大の好敵手!」
両手で大剣を素振りした後ビシッと構えなおす。そして彼の電飾スーツは激しく明滅するのだった。