#51「キサマらを手向けにしてやる」
息を荒げ、ミントと魔獣は動揺したまま目の前に落ちたぬいぐるみの首と胴体を見つめる。ゆっくりとお互い一歩下がる。
「そ、そんな・・・ネビロス様」
気が抜けたように膝をつくミントだったが、
「お前ら・・・やっと止めてくれたか。全く」
ネビロスの声が聞こえた。不機嫌そうな顔でブツブツしゃべりだす彼。
「え!!?」「ぬえ!!?」
立ち上がった胴体は残った片腕で頭を拾い上げ抱える。
その姿を見て、
ミントと魔獣はお互い抱き合いながら、言葉にならない悲鳴を上げるのだった。
ミントスラッシュと魔獣の爪を同時に受けて首がとんでしまうとは・・・。ぬいぐるみの体でなければ、即死だった。
「ネビロス・・・様? だ、大丈夫なの!?」
ぐらたんは恐る恐る、頭を抱える首なしのぬいぐるみに声をかける。
魔獣の方はというと、相当ビビっており隠れきれないミントの後ろに隠れてそっと見つめる。
「・・・。僕自身は大丈夫。認めたくないが邪龍の封印のおかげだろうな。・・・後ろのお前、もう僕の仲間を襲ったりはしないな?」
毛を逆立てながら目を見開く魔獣はゆっくり頷く。
どうやら大人しく言うことを聞いてくれるらしい。
「ありがとうネビロス様。正直この装備じゃ、キツかった。それにしてもモフモフだね」
体毛に埋もれるミントは背後の魔獣見上げる。その様子をネビロスは和むように眺める。自身の脇に抱えられている彼の顔はうらやましそうにも見える。
「いいな・・・」
ミントは冷たい目線を向けると、
「・・・いや、なんでも」
ネビロスは視線を逸らす。
「と、ところでもう一度見れるか?」
ゴタゴタで博士の記録どころじゃなく、理解が追い付かなかった。聴けなかった部分も含めてもう一度見る必要がある。
「デキル」
ネビロスは後ろのコンピュータに向かい、もう一度映像を見ようとした。
その時、天井のダクトが抜け落ちて植物の根が飛び出すように張る。
「あれは!?」
ミントはダクトから伸びる根に気付くと、携帯端末に連絡が入った。
端末を手に取る。
『・・・ミントか! 直接遺跡中・・・根を張って、や・・・見つけた。いまま・・・何を・・・』
やどりんからだ。
「やどりんか!?」
ネビロスはミントの所に戻る。
『その声・・・ネビロス? ミントじゃないのか?』
「私もいるよ」
「ぬえ! ボクも」
魔獣は唐突に会話に混ざった。
『お嬢様? 二人ともよかった・・・って他・・・誰かいる・・・!?』
『異常なマナで・・・ノイズがヒデ・・・アタシの根っこ直接伸ばしても・・・おい、まさかと思・・・が』
ウンギャンの声が割り込んでくる。主たちの無事に安堵するが、知らない声で不安に塗り替わる地上の二人。
「え~と、話せば長いけど追っていたキマイラが一緒」
『『え!?』』
「献上物は返してもらったとは言い難いが、もう献上物の内容は大体見させてもらった。とりあえずキマイラはもう敵じゃない。やどりん、カオリやアギャンたちは無事なのか?」
『何があったか分からんが理解・・・た。カオリ・・・ミカンたち・・・無事だが、交戦中だ。気をつけろ! オマエんとこに、キマイラ・・・ってことは、別のヤツが・・・』
「イヤ、ボクひとり。ボクが最終生産」
彼女自身1体のみで間違いないらしい。
「あの虫かっ!! アクムーンビーストかもしれない! 奴とここで会ったから間違いない・・・。場所は!? やどりん、わかる?」
『ああ、近い。真下・・・』
「また真下か・・・」
下を見て、コツコツとつま先で床を蹴るミント。
「博士の記録も気になるが、カオリたちに加勢しよう。 ぐらたん、それからえ~っと」
「型式番号IPOS-NCX-2、キマイラマーク2。生産番号299号」
「ニーキューキュー。え~と・・・じ、じゃあ、キューちゃんで」
「ぬえ!」
『・・・あと言い忘れ・・・ャン! もうひとり、そっち・・・』
ここでウンギャンたちの音声が途絶えた。
「・・・。キューちゃん、マナが漏れてるの何とかならないの?」
魔獣は首を振って足元を見ると、左腕を振り上げた。
「よし、マシタだった? 近道する。離れてろ」
爪が赤く輝き、キーンっと耳に響く音を出す。
「おい、まさか・・・」
ネビロスのいやな予感は当たるのだった。
☆☆☆
柱のように大きなガラス管が規則的にフロア内で立ち並ぶ。
ヌイが変身するバーゲストと交戦する中、ミカン、ミルク、ネネはそれぞれガラス管の裏に隠れて様子をうかがう。
奇跡の卵? それからあの秘術が・・・? でも、どうしてネビロス君がその力を託されたのか分からない。あの博士の言っていた望みってなんだろう?
戦闘中、突然フロア内で流れだした音声に戸惑いながらもミカンは、迫りくる漆黒の犬神少女バーゲストがこちらに迫ってくるのをガラス管の裏から覗き込む。
今は戦いに集中しないと!
ミカンはガラス管の裏から飛び出し、シトラスブレイドでバーゲストに斬りかかる。
「そこにいたか!」
バーゲストは巨大なメイスで応戦。
大振りの横薙ぎをかわし、ミカンは取り回しのいいブレイドの斬撃による手数で勝負に挑む。
「蘇らせるシステムか・・・。興味深い。これもまだほんの一部だというのなら、あの少年を放っておくことはできん」
バーゲストは冷静にミカンの斬撃をメイスで受け流し、左腕の籠手からクローを展開して反撃に出る。
「なっ?」
意表を突かれたミカンは紙一重で身を後ろにそらしてクローをやり過ごす。首に巻いているマフラーが裂け、切れ端が舞う。
再びメイスの攻撃が繰り出されるため、ミカンはそのままバック宙をし、
「どうして私たちを憎んでいるのか知らないけど・・・その力を奪うつもりなら、させない! ぐらたんとネビロス君のためにも!」
ミカンクナイを4本投擲する。
しかし、メイスや装甲に阻まれクナイは弾かれる。
「・・・なら、キサマたちはその力をどうするつもりだ。知れば誰もが欲しがるその力を」
バーゲストはミカンに迫り、メイスを振り上げる。
「くっ・・・」
振り下ろされようとするメイスを身構えるようにして睨む中、ミカンの額から一筋の汗が流れる。
「ネネ!」
隠れていたミルクが飛び出し、ネネに合図を送った。一斉にバーゲストに発砲する。しかし、彼女はそのままの姿勢を崩さず、飛んでくる光弾をメイスで弾く。
二人の援護でミカンは、迂回し左側から接近してブレイドを振るうが、バーゲストの左腕のクローで斬撃を弾かれてしまう。
バーゲストからクローによる反撃をかわし、再び距離をとるミカン。
「ミカンイリュージョン!」
続けてミカンは4人に分身して、四方からバーゲストに攻撃を仕掛ける。
「ちっ!」
正面からくるミカンからの斬撃をメイスで受け止め、押し返す。そして後ろから斬りかかるミカンを蹴り飛ばし、右側からくるミカンの飛び蹴りを姿勢を低くしてやり過ごす。
跳び蹴りで通過していったミカンと入れ替わるように、左からくる別のミカンに対してはメイスの柄で足払いする。
「はあ!」
上にミカンは跳びあがり、ミカンクナイを投擲。バーゲストは数本クナイを受けることになったが、その場から後方へ跳んだ。
「ミルキーマグナム!」
後ろへ回ったミルクは空中にいるバーゲストへ追撃する。
身をひねるように回転させメイスを振り回すバーゲストは、ミルキーマグナムをはじき返す。そのまま接近して左腕のクローでミルクに斬りかかる。
ミルクは両手のブラスターからエッジを展開してクローを受け止める。
「重いギャン・・・」
無防備になったところバーゲストのキックが繰り出される。
「ギャン!」
蹴り飛ばされたミルクは後方のガラス管に突っ込んだ。割れたガラスの破片が飛び散り、ガラス管から溶液があふれ出る。
「「はあっ!」」
バーゲストがミルクに追い討ちをかけようとしたところに、ミカンと大剣を振りかぶったネネが一緒になって同時に斬りかかったが、二人まとめて軽々とメイスではじき返す。
吹き飛ばされた二人は、体勢を立て直して着地する。
「手ごわい。ミカンイリュージョンでも攻撃が当てれないなんて・・・」
「ならば・・・」
ネネは大剣を背中に背負い直し、両手から蜘蛛糸を飛ばしてバーゲストを拘束した。
「くっ!?」「捕らえた」
「ネネ、助かるギャン」
割れたガラス管から体を起こすミルク。バーゲストの後方にはミカンが対峙する。
「「イヌガミック・ドライブ!」」
二人の犬神少女は、神通力を増幅させた。
「やらせるか!!」
バーゲストは左腕のクローで拘束する糸を切り裂くと、両腰のスカートアーマーが展開する。
装甲の隙間から無数の弾頭が紫色の閃光を発して、取り囲むミカンたちに襲う。
「きゃああ!!」「ぐあっ!!」「ギャン!!」
飛び出した弾頭は、ミカンやミルク、ネネに命中して炸裂した。それぞれ吹き飛ばされ、床に倒れるミカンたち。
うつ伏せに倒れるミルクはゆっくり顔を上げる。
「うっ・・・、あれはMMM! どうして、ナイトメアユニオンが・・・」
「エクレアちゃん救出作戦でウンギャンたちが使っていたミサイルのこと?」
「・・・? なんだそれは? 聞いたことがないミサイルだな」
「あっ!! ・・・ただの秘密兵器だギャン! い、犬神少女の!!」
バーゲストはゆっくり近づき、
「おしゃべりもそこまでだ」
メイスを石突部分を前にして肩に担ぐ。
「冥土の土産だ・・・。闇に葬られた犬神少女計画の悲惨な出来事・・・」
「えっ?」
倒れたミカンはバーゲストはから出た言葉に驚愕した。
犬神少女計画にそんな過去が・・・!? それがヌイの憎む理由!?
「・・・。その計画で犠牲になった盟友に、キサマらを手向けにしてやる」
メイスの石突部分が展開して、そこに紫色の光が集まっていく。
「ま・・・マズいギャン!」
「や・・・ヤバヤバだよ・・・」
バーゲストが構えるメイスから極大のマナ粒子ビームが放たれようとしていた。