出会い 2
考えが浮かんで、行動に移すのは早かった。
凍てつくビル街を歩いて、とりあえず一番最初に目についた小汚いのに入る。鈍い音のする重いドアを開け、階段を一段一段上がっていく。階段は思ったより長く、そして暗く、重かった。ただただ上に、高いところに向かって、一心不乱に、階段が途切れるまで、足を動かした。
ふと足元に光が差し込んできた。ようやく、屋上に着いたみたいだった。扉は開いてないかとも思ったがそんなことなく、かっぴらいており、足を踏み入れてみると、頬を撫でる風が思ったよりも冷たく、心臓が掴まれたような気がした。
屋上は錆びたフェンスで取り巻かれていた。地面を覗いてみると、思ったよりも高かった。本当に何も考えずにただただ、上に向かって階段をのぼっていただけなので、自分が何階にいたとか、どれぐらいの時間だったとか、そういうのは全く知らなかった。知る必要もなかった。それがどうだったといえ、どうせ今から自分は、死ぬのだから。
この1ヶ月、生きた心地がしなかった。
何を食べても、何を見ても、何を聞いても。
心に、埋まらない穴が空いているようだった。
その穴には冷たい外気しか通らない。
生きているのに、死んでるような、そんな日々だった。
フェンスを跨ぎ越す。
鉄の匂いがした。
思ったよりも恐怖はなかった。
こんなにも、あっけないのか。
____________________その瞬間だった。
「そこで死ぬのやめてもらっていいですか?」
突風が巻き上げた。
ものすごい勢いだった。頬を撫でるどころか、全身に衝突してくるような。体が飛ばされてしまうかと思った。
でもその風はとても暖かかかった。
風のせいで視界に散らばった伸び切ってしまった前髪を払っていると、
「ねぇ、聞いてる?」
声のした方に顔を向けると、そこには、満月を掬ったような、長い長い爛々とした金髪がゆらりと揺れているのが見えた。
その光景は、泣いてしまいそうなぐらい美しかったことを今でもよく覚えている。
これが、俺たちの出会いだった。