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夢喰い少女と平凡男

作者: 藤園ほころ

お久しぶりです。最近は時間がなくてかけていませんでした。軽く読める内容なので、ぜひ読んでみてください。

 目が覚めると、俺は小さな箱の中にいた。部屋かと思ったが、ふと上を見たら天井が空いている。箱には窓と扉がある。扉は対称的に二枚で、窓の傍には小さな机と椅子があり、机の上には花が活けられた花瓶が置かれていた。その椅子も机も花瓶も花も壁も窓も、全部白かった。怖いくらい白かった。眩しくて壊れてしまいそうだった。

「…ここは何処だ?」

俺が動けないでいると、ふと女の子が箱に入ってきた。彼女も白かった。白いワンピースに白い髪。白っぽい肌はどこかか弱そうに見える。目だけが赤色で、すごく目立った。彼女はこちらにはその赤い目を向けず、花瓶に添えられている花を愛で、触れる。一通り楽しんだあと、おもむろに潰す。すると花は赤色へと変化していった。撓った花には活力がなく、死にそうだった。

「君は、誰?」

思わず彼女に聞いた。すると彼女はこちらに気付き、少し微笑んで椅子に座る。無機質だった椅子は、黒色へと変化した。

「私はね、和心っていうの。君は?」

「反町京平」

「ふーん?」

「なぁ、ここは何処かわかるか?」

「うーん、そうだなぁ。強いて言えば君が創る世界かな」

「俺が創る世界?」

「そう。私は君を手伝うためにいるの」

よく、分からなかった。この世界だとどうやら思考がまともに働かない。鈍った頭で、少し整理する。

「別にわかんなくてもいいんだよ。君の思う世界を創っていけばいい。想像するの。欲望のままに」

「…なるほど?」

そう言われても、自分が具体的に何をすればいいのかは分からない。すると彼女は机にゆっくりと触れる。

「この机、白いでしょ?部屋も窓も壁も花瓶も。花と椅子は私が変えちゃったけど。要するにこの世界はキャンバスなの。君の想像色で描く、君だけの立体自由帳。魅力的すぎて狂っちゃいそうでしょ?」

試しにこの机を淡い水色にする想像をしてみた。するとなんとその通りになった。

「これは凄いな」

「ほかにもこんなことができたりするよ」

そう言うと彼女はおもむろに目を閉じ、祈るように手を組んだ。すると彼女の目の前に、たくさんの色鮮やかな風船が出てきた。

「まじかよ...想像を創造できるのか」

「まだまだあるよ。現実じゃ絶対できないこともね」

その白い小さく華奢なてに握られた風船たちは、彼女が軽くステップを踏むと軽々と彼女の体を持ち上げた。そのまま壁の上に綿毛のように降り立つと、羽の無い天使は一言。

「こんなわけで私は適当にぶらついているから、何かあったら呼んでね。後は君の思い通りに。じゃあごゆっくり」

彼女はワンピースの端を摘み、少し上品さを醸し出しながら扉から出ていった。しかし俺が何をしても良い世界だとこれからが楽しみだ。要するになんでもアリの世界。何か忘れている気がするけど、そんなことはどうでもいい。自分色に染める。こんなの興奮しないわけなかった。彼女が入ってきた扉とは反対側の扉を開く。するとそこにはまっさらな土地。自分色のインクを地面に垂らして、俺は溺れるようにやりたいことをしていった。


 「あははっ!狂ってる!壊れてる!これは美味しそうだなぁ!」

口元から垂れるよだれを拭いながら、高笑いする。欲望に溺れ、熱くなり、狂い、壊れそうになりながら中毒のように、この世界に殴り書きをし続ける。そんな彼をみて私は嗤うしかなかった。

「こんなに上手くいくなんて、案外ちょろいなぁ!今夜はご馳走だ。ふふっ!」

私も彼と同じように、燥ぎ、狂い、壊れる。これがまたたまらないのだ。最近の人間は不味かったが、もう私の知ったことではない。白髪美少女の私を拒む男などいないのだ。こんな美味しいチャンスを逃がすわけにはいかない。獏として。


 ふと、気になることがある。彼女が出ていった扉の先には何があるのか。俺の望んだ風景へ繋がる扉とは反対側の扉。なんかあったら私を呼べと言われたけど、恐らくここについては話してくれない。なんとなく、そう感じる。だからといってこの世界でも勝手に開けていいようなものではないことを肌で感じる。自分で創っておいてなんだが、自分の創る世界は狭い。ミニマリストとかそういう話では無く、単に欲が無い。やってみたいなぁと思う事が少ない。その彼女を作って学校生活謳歌して己の青春ライフを送ろうとかいう典型的な発想なんて考えない。あ、そうだった。俺は明日から一応高校一年生だ。この世界にきた経緯とか、経路とか、理由とか、時間とか、制限とか、正直あるのかすら分からないけど、一応、高校生。家から一番近いところを選んだ気がする。まぁ、要するにやる気の無い生徒だ。勝ち負けには執着が無く、平和主義な子。小学校のときに、こう成績をつけた先生は見る目があると我ながら思う。どうせ新生活もそんな感じだ。小さいコミュニティで、あんまり動かない。結局変わらない日常が来るんだと思ったら、つまらなくなってきた。どうせなら、一生ここの世界に住みついて、ここの住人になりたい。彼女のように天使にはなれずとも、救済者になれないだろうか。そんなことを考えていたら、突然大きな警告音が鳴り響いた。耳元で連続的な甲高い音が鳴り響く。あーもう。

「うるさいなあ」


 「うるさいなぁ、じゃないわよ。新学期早々遅刻とかやめなさい。さっさと準備して朝ご飯食べなさい」

母は俺の部屋だというのにズカズカと入ってきて、まだ喚いている目覚ましを耳元に近づけて、文句を言う。せっかくいい夢だったのに起こさないで欲しかったが、高校生活早々に遅刻は流石にぼっち確定演出なので、仕方なくなれない制服を着る。ブレザーとは言え、制服は煩わしくて嫌いだ。制服なしの高校にしておけば良かったとは思いつつ、また受験をする気はさらさらない。ダイニングに降りると、母が用意してくれた朝ご飯に、最近は全然喋らない妹の夏帆の冷たい視線。忙しそうに会社へと急ぐ父の姿。まぁ、要するに変わらない日常が始まった訳だ。

「じゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃーい。京平!ぼーっと突っ立ってないで早く食べなさい。遅刻するわよ」

「バカ兄貴はほっとけばいいよ。じゃ、私も家出るから」

「あ、ちょっと、何時に帰るの?最近帰り遅いから心配なのよ」

「わかったわかった。日没ごろには帰るように努力するから」

…ドタバタ。もうちょっと、こう、ゆったりと暮らせないものか。

「遅刻するわよ!早く出なさい!」

はいはい。今から行きますよ。


 入学式を少し寒い体育館で過ごし、新たなクラスメイトとのオリエンテーションが始まる。皆が自己紹介をする中、今日の夢のことを考えていた。何故かは知らないが、少女と白い部屋と風船があったことくらいしか覚えていない。幸せな感覚だったのは覚えてる。あとは必死に思い出すが、思い出せない。何だっけ?

「鹿島和心です。鹿島神宮の鹿島に和む心と書いて、わこです。趣味は…読書ですかね。これから一年間よろしくお願いします」

いよいよ前の人が終わり、自分の番になる。ところで聞いたことがある名前だったな。

「反町京平です。東急東横線の反町と同じ漢字ですが、読みはそりまち、京都の京に平凡の平です。趣味は寝ることです。これからよろしくお願いします」

適当に挨拶を済ませると、鹿島が振り返ってきた。

「私、鹿島和心。よろしく」

「俺、反町京平。よろしく」

やっぱりだ。聞いたことある声に和心という名前。夢の中の彼女で間違いない。だがどうして現実にいるんだ?予知夢を見る能力は俺には無いし、あってもあの夢は現実味がなさすぎる。

「さっきの自己紹介、平和の平って言えばよかったのに」

「ピンフでも平成でも漢字は同じだし、別にこれでいいのさ。君こそ平和の和って言えばよかったのに」

「ピンフでも令和でも漢字は同じだしね」

初対面でもこんなに軽口を叩けるのは、やはりその特徴的な赤い瞳が夢の少女と同じように埋まっているから、間違いないのだろうか。思い切って聞いてみようか。

「今夜も会えるか?」

「君次第だからなんとも」

「君から入ってきたのに?」

「嘘はつくもんじゃないね」

「君は一体何者なんだ?」

「そっくりそのままお返しするよ。あの世界を覚えている人はいないからね。まぁ、私の正体は、今夜会えたら教えてあげる」

少しいたずらっぽい目をしていた気がした。これで彼女と改めて出会った事になった。夢でしか会えない少女。正体はまだ、誰も知らない。あぁ、夜が待ち遠しい。


 その夜眠りに就くと、彼女が例の世界で待っていた。だがその世界は消しゴムで消されたかのように真っ白だった。

「お待たせ、的なのはないんだね」

「待ったか?」

「いま来たところ」

「こっちもだ」

白くなった世界で、君と二人。一晩だけの世界。

「こっちの世界では白髪なんだな」

「向こうの世界は置いといてよ。あんまり黒髪は好きじゃないの」

「それも創造できるのか。スゴいな。ほんとに君は何者なんだ?」

今日俺が一番知りたかったこと。

「会えちゃったから言うけど、驚かないでね」

「この世界があることでもう十分驚いた」

今ならなにを言われても、驚かない。

「私はね、いわゆる獏だよ」

…は?獏ってなんだよ。

「あれ?知らなかった?獏っていう化け物。主食は夢。悪夢だろうが、変な夢だろうが、いい夢だろうが、全部食べる悪魔。夢の記憶がないのは、私が食べちゃってるから。君が一日目に気になっていたそこのドアは私しか出入りできない獏専用扉。そこの先には沢山扉があるの。人の夢に繋がっていて、そこで私は栄養補給をしてる」

納得のいく説明をしていただいたらしいが、生憎ほとんど理解していない。

「まぁ今日はゆっくりと考えればいいよ。今日は食べないであげるからさ。じゃあね。私は誰かの夢を喰ってくるよ」

そう言って箱を出ていった。


 あれから数日、夢の中で彼女と過ごすことはあっても、獏について喋ることはなかった。昼の世界ではクラスメイトとして接し、夢の話題は一切出さない。彼女なりの時間を与えてくれたんだと思う。ここ数日は夢を見てないし、ルーティンのように過ごしていた。そのおかげでだいぶ思考の整理が追いついていた。彼女に聞きたいことは山ほどある。今夜辺りで会いたいとは思っているが、会えるという保証はない。そんな中、珍しく昼の世界で彼女が夢の世界について話してきた。

「ねぇ、京平。私の存在については理解できたかい?」

「聞きたいことは山ほどあるが、取り敢えずは理解することにした」

「そう。じゃあ、今夜会おうか。お喋り会をしよう」

「お菓子とかはいるか?」

「京平がその場で作ってくれればいい話だよ。ケーキでもジュースでも」

「料理の腕はないから期待しないでくれ」

「君の想像力に期待だね」


 そして、夜が来る。最近は眠ることが多いから気分がいい。すぐに眠りに就くと、彼女がいた。

「やぁ。お昼ぶりだね」

「そうだな」

「んで、質問は?」

「まずもう一度改めて君が何者か知りたい」

「私は鹿島和心。獏であり、夢の観察者であり、白髪赤眼の夢喰い少女」

「俺に接触した理由は?」

「いい夢を見るから」

「望みは?」

「いい夢は美味しい。特に欲におぼれた夢はご馳走。最近の現代人は夢を見なかったり、悪夢ばかり夢を見る。悪夢は不味いんだ。常温で三日くらい放置した弁当みたいなの。君の夢は美味しいから、また君に夢を見てほしい」

「なぜうちの高校にいる?」

「君が悪夢を見ないため。そして現代人の悪夢の調査」

「俺は君に協力したい。何をすればいい?」

彼女は驚いた表情をしていた。

「えっと...君に協力をしてもらうつもりはなかったんだけど。まいったな」

「何でもいい」

「まぁ、君との日々は楽しかったよ。だけど私のことを忘れてほしい」

「急だな。理由は?」

「私がいると不味くなるからさ。ほら、時間じゃない?」

ピピピッと繰り返す音が夢の世界に鳴り響く。

「まだいけるさ。君がいると不味い理由を教えてくれ」

「君といると幸せなんだ。君だけで美味しいから。隠し味とか、過多な調味料は要らない」

目覚ましのアラームがせかすようになり続ける。

「今まで質問ばかりで悪かった。これで最後だ。俺と君は、また会えるか?」

「初対面としてね。...そろそろ限界だ。じゃあね。君と喋れて楽しかったよ。それじゃ、頂きます」


 「いつまで寝てるつもりなの。学校遅刻するわよ」

母が俺の部屋で怒鳴る。

「いい夢、見てたんだ」

「は?」

「えっと...あれ?どんな夢だったっけ。思い出せないや」

「そんなバカなこと言ってないの。もう時間ないわよ。早く準備しないさい」

そうして、また平凡な日常が始まる。

いかがだったでしょうか。まぁ、結末としては結局京平が自分で描く世界(夢)が一番きれいだということに気づいた和心は、今までの記憶ごと夢を喰ってしまうことで、自分の存在を京平の記憶から消し、常においしい状態の京平を保ったというオチです。書きたかった内容でしたが、正直書きづらかったです。それでも最後まで読んでいただき、ありがとうございます。また、宜しくお願いします。

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