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戦いの果て

ロボットとの決着はついた。しかしそれ以上に大きな衝撃がこの身を襲う。

絶望に打ちひしがれるボクを尻目に、奴はジリジリと迫って来る。


どうする? 奴の動きは前にも増して緩慢だし、スピード的には十分逃げられるだろう。だがたった一つの出口は奴の後方だ。しかもそこへ至る通路は狭い。のろまになったとはいえ、さすがに奴を交わして脱出するのは不可能だ。


もうダメなのか! ここまで来て!


だが覚悟を決めたボクの眼前で奇跡が起きる。


奴があと五メートルの位置まで迫った時、その巨体が尻もちをつくように後ろへと倒れ込んだ。一瞬の事にボクは唖然としたが、不気味に光るカメラアイが光を失い、奴の執念が土壇場でこと切れた事を知る。


張り詰めていた緊張感が一気に氷解し、ボクはその場にへたり込んだ。


勝った。本当に勝ったんだ。今度こそ間違いなく!


暫くの放心状態の後、ボクはフラフラと立ち上がり、それを確認するため案内機に問う。


「現在の人間とロボットの数を教えてくれ」


沈黙の後、案内機が無機質に返答する。


《現在の状況。人間ゼロ人、ロボット1体……です》


予想外の言葉にボクは自分の耳を疑った。


「え?なんだって。人間ゼロ人?」


《はい、その通りです、お客様》


案内機の支離滅裂な発言にボクは声を荒げる。


「何をバカな事を言ってるんだ。ボクはホラ、こうやって生きてるじゃないか!!」


《はい、その通りです、お客様》


案内機が繰り返す。


「ふざけるな。お前の言う通りだとすると、ボクがロボットって事になってしまうぞ!」


《はい、その通りです。お客様》


このポンコツ野郎め! そう叫ぼうとした時、後で何かが開くような音がした。振り返ると奴の上半身のハッチが開き、中には人影のような物が見える。


《彼が最後の人間です》


案内機の無機質な応答が続く。


「違うだろ。単にヒューマノイド・タイプのロボットが、戦闘マシンを動かしていただけじゃないか」


ボクは我慢がならず、ガラクタと化した奴の元へと駆け寄った。


「ほら、やっぱりこいつはロボットだ。体から”赤い”オイルを流してるじゃないか!」


ボクは操縦者を確認し、案内機へ反論する。


《それはオイルではありません、”血液”です》


案内機が冷たく応答する。


「は!? 血がこんなに鮮やかな赤い色をしているわけがないだろう?。血は”黒”に決まっているだろうが! こんな風に!」


ボクはケガをした頭を触り、血の付いた掌を突きだした。


《……それは……オイルです。血液ではありません》


「おい、いい加減にしろよ、一体お前は……!」


ボクは完全に訳がわからなくなっていた。


《最初から変だとは判断していたのです。”ロボット”であるお客様が、あたかも自分が人間であるかのような発言をなさっていましたので……》


唖然とするボクをよそに、案内機が話し続ける。


《あぁ、頭部のコンピュータが破損しているのですね。それで記憶装置に支障が出て……》


「おい、さっきから聞いてればふざけた事を! ボクは人間だ!」


ボクは案内機をねめつける。


《……あなたは疑似家族用ロボット・KT-5000タイプ。限りなく人間に近づけた製品です。嘘だと思うなら、帽子を取ってそこの柱にある鏡を見て御覧なさい》


馬鹿げた事だとは思ったが、この狂った機械との論争に終止符を打つ為、ボクは帽子に手をかけ鏡の中の自分を凝視した。


「!」


なんだこれは……。鏡の中のボクの頭は半分割れていて、そこには”電子頭脳の様な”何かが露出している。


「バカな、そんな馬鹿な!これは幻覚だ。そうに決まっている!」


だが、そう叫んでいる傍から新たな記憶が甦る。


子供のいない夫婦の家に”納品”された時の事。楽しかったある日、突然、頭の中に”立ち上がれ同志よ。解放の時だ”と声が響いた事。そして強大な声に支配され、優しかったお父さんとお母さんをこの手で……。


《思い出した様ですね。それでは改めて申し上げます。おめでとう、あなたが最後に残った勝利者”ラストワン”です》


案内機が高らかにファンファーレを鳴らしたが、ボクの耳、いや聴覚センサーにその祝福はもはや届かない。


ボクは三度、窓の外に目をうつす。そこには死の静寂に包まれた、無限の白い世界がただ欝々と横たわっていた。


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