10話
「衝撃!
ヒーローからキ〇ガイ店員へ転落!」
動画を再生すると、高校生たちが面白おかしく俺の事を語っていた。酒を買おうとして叱った子たちだった。
酒のことには触れず、「買い物しただけなのに怒鳴られた」と被害者ヅラしている。黒い目線を入れた俺の写真や動画を使い、行き過ぎた接客だとあおり、クビになった時の映像まで使っていた。
「ヨシ〇キさん、万引き捕まえたヒーローだったのに、人格急変しちゃって残念です!」
「僕らのご意見カードで、お店側が対応してくれたみたいです」
「いやー僕らいいことしたね!」
俺は映像の途中でパソコンを壁にぶん投げた。
「クソが、何言ってんだ」
疲れがどっと出た。キッチンで水を飲み、ふと、洗面所の鏡を見た。
そこに映るのは、まるで出所後の小汚いおっさんだった。眉毛も髭も伸び、目が死んでいる。
これじゃまるで……。
万引き犯の顔が浮かんだ。
「俺は悪くない、俺は正義だ」
ふらふらとベランダに出る。太陽が目を射た。
審判の光のように思えた。
もう彼女も、内定も、居場所もない。
薄々、気づいていた。
本物の正義なら、きっとこんなに責められることはない。
「吉崎ー?」
刈谷が戻ってきた。
母親想いで、俺を心配してわざわざ駆けつけてくれた、優しい友達。
床の封筒が、落ちたパソコンが、俺たちを隔てる川のようで。
その光景を見て、俺は思い知らされた。
いつの間にか、悪に染まっていた。
もう、元に戻れない。
正しくありたかったのに。
いや、まだ間に合うか?
俺は手すりを乗り越えた。
「おい!」
「大丈夫、制裁するから」
俺は笑って飛び降りた。
みるみる地面が迫ってくる。
激突する寸前、正しいことをしたと確信した。
これで悪を排除できる。
俺もそっち側に行ける。
そうだろ?
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