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一生のお願い

「お兄ちゃん……一生のお願いですっ!どうか、一生のお願いを聞いていただけませんかッ?」


「頭でも打ったのか……(なぎ)?叶えられるか分からんが、聞くだけは聞いてやらんこともない……ぞ」


普段の内島凪(ないとうなぎ)から発せられる言葉(セリフ)ではない単語が聞こえ、耳を疑い、自然に漏れた質問だった。

しおらしい様子で兄の部屋に入り、ラグが敷かれていないフローリングで正座の体勢に土下座でもする勢いで頭を床に擦りつけ俺に両手の掌を合わせ懇願してきた。


「ありがとう、お兄ちゃん。一生のお願いをきいてくれるなんて、さすがお兄ちゃんっ!それで、一生のお願いなんだけど、私の彼氏のフリをしてほしいのっ!」

頭を上げ、普段の行いを誤魔化すような高い声でおだてて、とんでもない内容の頼み事をしてきた妹だった。


「……えっと、今、なんて?」

「だからーぁ、私の彼氏のフリを——」

「ふぁあああああーッッッ!か、かかっ、か彼氏ぃぃいいいぃぃぃ〜ッッッ!?」

「出来たんじゃなくて、お兄ちゃんにフリをしてって言ってるの。……無理ぃ、かなぁ、お兄ちゃん……?」

俺の動揺した叫び声に、うるさそうに耳を塞ぎながら、呆れながら訂正し、瞳を潤ませ上目遣いで甘い声音でお願いする彼女。


断りづらい手法で攻めて来やがったぁぁああぁぁ……ズリぃぃいいぃぃ!


「むぅ……無理ぃ、なん、てぇ……」

「妹の一生のお願い……お兄ちゃんはきいて、くれないんだ。私って、お兄ちゃんに要らな——」

「きっ……きくよ、きくって凪ぃっ!大切だよっ、要らない子じゃないからっ!そんなこと、ないからねっ!」

「ほ、ほんと……お兄ちゃん?きいてくれる?」

「ほんとだよ、ほんと。彼氏のフリ、するだけだろ。そんだけだろ?」

「あ、ありがとう、お兄ちゃんっ!」

さすがに、抱きついてこない彼女だった。

僅かに首を傾け、抑えめな笑みを浮かべ、守りたくなるように唆してきた。

「おう……気が済んだら、寝にいけぇいぃ……」

「うんっ……お、やすみ、お兄ちゃん」

弾んだ声で返事をし、普段のように無視するかを躊躇した間を見せ、挨拶をした彼女。

「おやすみ……凪」

太腿を露出させた丈のサイドにソリッドが入ったパンツにグレーのTシャツの彼女に挨拶を返すが、振り返ることもなく自室を出ていかれた。


兄に彼氏のフリをしろっていうのが、一生のお願いかよ……


俺に頼み込むってことは……凪のやつ、友人いねぇのかな……?



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