1話 ライン村の子供
草原を走る。
靴は無い、正確には走ってる際に脱ぎ捨てた。
後できっと母さんに叱られるが今は頭からもう抜けた。
顔を撫でる風が気持ちいい。
足に伝わる土の感触が心地いい。
ツキ・ラーヴァこと、俺はこのライン村に生まれて今年で10歳になる。
そんな俺は1人で草原を走ってる。
周りには誰もいない。
........友達はもともといない。
それでも俺は1人を満喫し、今は草原を走ってる。
同い年の子はいっぱいいて、皆で遊んでるけど俺はいい。
確かに楽しそうだけど...あいつらは俺の事をバカにするから嫌いだ。
─────
草原を走ってると少し離れたところから大きな声が聞こえた。
聞き覚えがあるけど嫌な声だ。
俺に特に嫌がらせをする3人組の声がする。
普段なら無視しているが...なんだか雰囲気がいつもと違う気がする
.......ちょっと様子を見に行こう。
「やーい邪神軍めー!
これでもくらえー!」
「邪神軍めー、反撃してみろよー!」
「だけど最後は俺達聖神軍がお前らなんか皆殺しだー!」
案の定、嫌な奴ら3人組がいた。
うへぇ...とか感じながらもよく見ればここらで見かけない青い髪の女の子がいじめられてる
あれは...エルフだ...。
長い耳と長生きする事が特徴のエルフだ。
この村では人族と獣人が多いから初めて見た。
エルフの女の子は石や泥...それだけじゃなく殴られたり蹴られたりしてる。
「いた...やめて...おねがい...やめて...」
小さな声でそう言ってるのが何とか聞こえた。
俺は耳はいい方だが距離と声量であんまり聞こえなかったが。
酷いと思った時には既にそこに走り出してた。
父さん...ライン・ラーヴァはすごい人だと思う。
父さんと母さんには内緒にするように言われてるけど...俺の父さんは神様だ。
そのせいで別の街で日々忙しく、なかなか帰って来ないけど...それでもすごい人だ。
だって元々は別の名前があった町が父さんの名前に変えるくらいだし。
内緒にするように言われてるけど家名でバレないかなと心配したけど大丈夫だった。
なんでも、俺の家名、ラーヴァは親戚じゃなくてもこの世界にいっぱい居るらしい。
父さんは元々別の竜人族の家名だったけど母さんや将来のためにその家名を捨てたって母さんから自慢げに聞かされた。
母さんから聞かされる父さんの話は長くて苦手だけどその時の母さんはすごく楽しそうだし...やっぱり何より父さんは凄いと俺も思う。
そんな尊敬する父さんは色々教えてくれた。
その中の1つ「困ってるものは助けなさい」というものもあった。
俺は確かにそれが正しいと思っている。
だからほぼ無意識でこのいじめを止めようと思った。
「やめろおおおお!」
叫びながら俺は日々の鍛錬に使ってる木剣で3人組のリーダーの腰巾着みたいなネズミ顔のやつを殴り飛ばし、エルフと3人組の間に割って入った。
「げっ...てめえ『無能』!?」
.......『無能』
それは俺のあだ名だ。
本来、どの種族も5歳になったら皆なんかしらの能力が発現する。
多少前後することはあれど、皆遅くても8歳くらいには発現する。
俺の歳は10歳...だが未だに能力の発現の兆しがない。
それが原因で俺はこいつらから無能と呼ばれて嫌がらせや仲間はずれにされている。
だがもう気にしてない。
まだ能力が発現しないのは仕方ないので俺はどんな能力なんだろって期待しながら日々木剣を振るってる。
そのおかげで子供達の中で俺が多分1番強い。
「.......なにやってんだよ、お前ら...弱いものいじめとか恥ずかしくないのか?」
聞き慣れた悪態を流しつつ一応聞いてみる。
「だってそいつダークエルフだろ?
なら殺さないとダメだろー?
無能は頭まで無能になったのかー?」
「.......くだらね」
ダークエルフか...
内心でも仕草でもため息をついてると2人が手のひらを向けてくる。
「ファイアー!」
「ウインド!」
2人が叫ぶと手のひらからそれぞれ、小さな火と雷が飛んできた。
不意打ちだな、これ。
「懲りないやつらだ...」
あえて避けないで被弾する。
今良ければ確実に後ろのエルフの女の子に当たってしまう。
2人の能力で煙幕が発生して何も見えないが2人が高笑いしてるのが耳に響く。
この2人の能力は『魔術』
誰もが体内に持ってる魔術を自身の素質の属性に変化させてその属性に伴った現象を起こす能力としては非常にオーソドックスなもので、この2人の場合はまだ初級魔術だ。
能力は他にもあるが俺は知らない、中には固有能力と言って非常に珍しく、2人目の使用者がいるかわからない能力も持っている人がいるらしい。
俺は見たことないけど確か父さんがそうらしい。
「いやーあいつにはさんざん苦しめられたけどこれでようやく倒したな!」
「うす、修行の成果っす!」
あいつらは俺がやられたと思って上機嫌だ。
そういう真面目さは他のところでも発揮して欲しいものだ。
「......もういい?」
「んな...!?」
「げっ...お前なんで...!?」
「せえええいい!」
2人が驚いてるうちにリーダー格のボディーガードっぽい大柄なやつに顎目掛けて木剣を振るい、気絶させる。
幾ら子供でも魔術は魔術、なんの耐性もなしにほぼ無傷でいることなんて大人でも難しい。
では何故か、それは俺の体に秘密があるからだ。
なんの能力もない俺は代わりに全ての能力が効きにくい体質らしい。
だが、この体質はいい事ばかりではない。
母さんが言うには全ての能力というのは味方からのサポート、さらに治癒も効きにくくなると言っていた。
事実、腕を切断してしまった人が治癒能力を使える母さんを尋ねて来たが母さんはあっさり治してしまった。
だが、俺のただの擦り傷を治そうとしたとき、母さんは首を傾げながら30分かけて治していた。
だが、そんな体質でも今は盾の役割になる。
「何やら特訓したようだけどまだまだだね...
.......まだやる?」
大柄なやつを一瞬でノックアウトするともう1人のリーダー格のやつは尻もちをついて情けない声と顔で俺を見上げている。
「ひっ...ひいいいい!」
倒れてる仲間2人を残して行ってしまった...やはりあいつはいつ見てもなさけないな。
俺はそのまま後ろを振り向き、エルフの女の子に声をかける。
「お前...大丈夫か?」
「う、うん...大丈夫...けど君はいいの...?
私...ダークエルフって...」
「あいつらと一緒にするな...ダークエルフなんて存在しないだろ」
ダークエルフ...
この国は今、聖神王国と謎の巨大勢力、邪神軍と名乗ったものと戦争してる。
二神戦争と呼ばれてる戦争の中で邪神軍にエルフの兵士が居たらしい。
そこからダークエルフという種族が話に出たが実際このエルフとダークエルフに違いはないと父さんが言っていた。
ただ生まれが邪神軍の傍であり、徴兵されただけで、普通のエルフらしい。
だが、今ではエルフ達はダークエルフと言われて酷いことを受けるらしい。
「.......うん...ダークエルフなんかいないよ...私も...みんなもただ のエルフだよ...」
ダークエルフはいないという発言に少し嬉しそうにしてるのが普段鈍いと言われる俺でもわかった。
何故だか俺はその顔を見てもう少し話したくなった。
「お前、名前は...?」
「...名前?
名前は...レイン...家名は...わかんない...」
家名がわからない...?
なんだかすごく訳ありな気がする。
あまり聞きすぎるのも良くない気がして話題を変えようと思ったが...怪我が酷いな...とりあえず母さんに治してもらおう。
「俺はツキ・ラーヴァ。
.......お前、うちに来いよ、その怪我、治してもらった方がいいぞ」
「えっ...でも...」
「いいから、ほら」
手を差し出すとオドオドしながらも俺の手を掴んで立とうとしている。
「いたっ...
...ごめん...立てないや...」
「.......まさか骨まで...?
あいつら...最低だな...」
どうやら足の骨が折れて動けないらしい。
そこまでやるとは...本当に酷いやつらだ。
「仕方ない...ほら、こい」
今度は背を向けて屈む。
「えっ....!?
い、いいよそこまでしなくて...!」
「そんな事言ってるけどお前その足でどうやって家に帰るんだよ...?」
「そ、それは...」
遠慮気味だったレインを軽く説得し、背負って家に向かう。
「少し響くと思うけど耐えろよ」
「う、うん...」
なんだかさっき話してた時よりも小さな声で返事をした。
なんでだ?
─────
極力揺らさないように頑張って静かに歩いてもやはり俺では揺らしてしまうようだ...おかげで何度も苦しそうな声が聞こえ、その度に声をかけるが大丈夫だよと言われ、申し訳なさが勝ってしまう。
そこまで遠くない家に長時間かけてやっと帰って来れた。
この頃にはレインは既にぐったりしていた。
「ただいま母さーん!
治癒魔術かけて欲しいんだ、ちょっと来てー!」
母さんの間延びした返事が家の奥の方から聞こえた。
すぐさまパタパタと小走りで母さんがやってきた。
「おかえりなさい、ツキが治癒魔術って珍しいわ...あら、その子は?」
やはり俺の背中のレインに気づいたようだ。
ここであまり見ない青髪のエルフとなればむしろ気づくなという方が無理な話だ。
「さっきそこで知り合ったんだ...レインって言うんだ。
骨折しちゃってるし...怪我治してあげて?」
「やだ...あなた怪我させたの!?
いつも言ってるじゃない、あなたは他の子よりも力があるんだから他の子を怪我させないように気をつけなさいって!
しかもこんな女の子を...」
「違うよ!?
俺じゃなくていつも俺に嫌がらせする3人組がいじめてて俺が助けたんだよ!」
「あらそうなの...?
とりあえず...治療しないとね...この子私のベットに運んで?」
母さんの勘違いを正し、母さんの指示通り、レインを母さんのベットに寝かせる。
母さんはタオルなんかを持ってくるとテキパキと治療を始める。
俺の母さん、ミエル・ラーヴァも父さんと同じくすごい人だと俺は思っている。
扱う能力はさっきも話したオーソドックスな魔術だが母さんは多分他の人に比べて魔術を扱うもの...魔術師としてはレベルが高過ぎる。
母さん曰く、そもそも魔術には基本的な属性が5つあるそうだ。
火、水、風、土、そして治癒だ。
そして魔術の強さも4段階に分かれており、初級、中級、上級、神級がある。
誰もが初級から始まり、中級に上がって1人前、上級で国なんかに仕えるエキスパート、神級で後世に伝えられる偉人レベルだそうだ。
一般的な魔術師は基本的に適正のある属性が1種類、多くて2種類だ。
一応、練習すれば適正のない属性も扱えるようになるが成長はほとんど出来ずに中級になれることは少ない。
また、適正のない属性を鍛えれば鍛えるだけ適正のある属性の伸び代までなくなってしまい、最終的には器用貧乏な半人前の魔術師が誕生してしまう。
少し長くなったが母さんの話に戻そう。
母さんの場合、使える属性はなんと全属性だ。
しかも全てが中級まで扱え、治癒に至っては上級を扱える超凄腕魔術師だった。
なんでも、この幅広い能力で昔は所属していた冒険者ギルドでも最強クラスのパーティに参加していたそうだ。
普段はのほほんとしてる母さんから想像も出来ないが、たまに見る治癒を見るとその疑いも嫌でも打ち消してくれる。
「ふぅ...この子の治療が終わったわ」
「うん、ありがとう母さん」
「じゃあ次はあなたね...
いくらあなたは能力が効きにくいからって過信しちゃだめよ?
怪我、してるじゃない」
こういう時の母さんはめざとく、俺の怪我をすぐに見つけ、治療する。
俺の怪我の場合小さく、少し擦りむいた程度の物に対して母さんは30分の時間と魔力をかけて完璧に治療する。
正直割に合わない。
もし俺が母さんと今同じ状況なら治療せずにいたかもしれない。
それでも母さんは迷わずに割に合わない大量の魔力を注ぎ、俺の治療を行う。
のほほんとしていてもやはり母さんは凄くて優しい。
父さんと同じくらい俺は母さんを尊敬してる。
「ふぅ...次からなるべく怪我しないようにね?」
「うん...けど今回は避けたら後ろにいたレインに当たってたんだよ...」
「あらそうなの...じゃあ仕方ないわね...むしろ偉いわ」
頭を撫でられた。
照れくさいが手を跳ね除けたりはしない。
ただし、顔は背けた。
「お母さん、ちょっと疲れたから寝るわね...ツキはレインちゃんが起きるまでそばにいてあげなさい?
あっでも襲っちゃダメよ?そういうのは段階を踏んでからね?」
「子供になんて事言うんだ母さん!?」
のほほんとしてるというか...すこしズレてると言うべきか...うちの母さんは...。
─────
あれから30分くらい経っただろうか...レインがもぞもぞとしだした。
多分もう起きる。
「う...んん...ここは...?」
「おはよう、ここは俺の家の母さんの部屋だ」
「あっ...ツキ...」
目覚めると少し気まずそうにしている。
「一応怪我の様子を見せろ」
近づいて足などの様子を見る。
「あっ....ちょっ...!」
何故か顔を赤くしながら少しだけ抵抗するがすぐに止めた。
なんだったんだ?
「.......うん、流石だ」
傷跡1つない。
うちの母さんはやはりすごい。
「......一応言っておく、俺はなんもしてないぞ」
「えっ...なんのこと...?
この治癒魔術のこと?」
「いや、わかんないなら気にすんな」
母さんの忠告を思い出し、なんとなく無実と訴えておくがレインはなんのことか分からず、きょとんとしている。
レインはわかってないが俺だけ恥をかいた気分だ...おのれ母さん...。
「...とりあえずお前はもう少しゆっくりしてろ...母さんが起きて、様子を診てもらってから俺が家まで送ってやる」
「えっ...あっ...うん...」
なんだか気まずそうな顔をしている。
「......あー...暇なら少し話すか...」
「う、うん...じゃあ...ツキってあんなに強いのになんで無能って呼ばれてるの...?」
いきなり突っ込んだ話題で来たな...。
「あー...俺まだなんの能力も使えないんだ...兆しもないし...そこから無能って言われてるんだ...」
「へえ...そうなんだ...」
納得がいくような顔をしているな...。
「じゃあ私と似てるね」
微笑みながらレインはそう言った。
「似てるってレインも能力が?」
「ううん、私は強化魔術師っていう能力らしいんだけど...未だにちゃんと使えないの...」
強化魔術師とはまた珍しい。
普通の魔術は攻撃、または治癒系の能力が主だが中には味方を強化する魔術師がいるらしい、それを強化魔術師と呼ぶがあまり見ない能力だ。
「私も...ほとんど使えないから...仲間...かな...?」
おどおどしながら上目遣いで俺を見ながらそう言う。
「嫌な仲間だな...」
対して俺は普段言われたことない反応に満更でもない反応を返す。
それを見てレインも嬉しそうに微笑んでいる。
......少しその笑顔から目を離せなくなった。
「.......あれ、私の顔、なんか変?」
「いや、なんでもない...」
視線がバレたので慌てて顔を逸らす。
不思議そうな顔のレインを盗み見ながら。
「あっ...そういえばまだお礼言ってなかったね...
ありがとう、助けてくれて」
「いや、別にいいよあれくらい」
「なにか、お礼をしたいけど...」
「...お礼なんか別にいいけど......」
「でも...」
バツが悪そうな顔で俺を見ている。
律儀というか気にしすぎというか...。
「じゃあ俺と暇な時遊んでくれよ
俺友達いないからさ...」
「えっ...そんなことでいいの...?」
「そんな事がいいんだよ」
「う、うん...!
私も友達いないから何すればいいかわかんないけど...それなら毎日だって遊ぶよ!」
「毎日は多いと思うけどな...」
こうして、1人ぼっち同士に友達が出来た。
寝起きで間延びした声をした母さんに呼ばれたのはそれからすぐの事だった。
─────
「よし、特に痕も残ってないし完璧!」
母さんが治療後の様子を見ている
元々母さんの腕は確かで傷跡すら残すことはないのだが必ず確認するあたりマメだと思う。
「じゃあツキ、あとはわかってるわね?」
言われるまでもない。
「ああ、家まで送ってくるよ。
レイン、お前家どこなの...?」
レインに家を尋ねると何故か暗い顔で俯いてる。
「えっと...実は...帰る場所がないの...」
一瞬固まり、俺と母さんは顔を同時に顔を見合わせた。
「ど、どうしよ母さん...!?」
「ど、どうするってえっと...」
俺と母さんは少しレインから離れて小声で話す。
「とりあえずほっとけないよ...」
「あら、厄介事は嫌だから放り出そうとは言わないのね、よかったわ」
「母さんの中での俺はなんなんだよ...
そんな酷いこと言えるかよ...」
「ならいいけど、どうするの?」
母さんは俺を試すように見ている。
「.......家で引き取れない」
「ええ、任せなさい!
お父さんには私から言っておくからあなたはレインちゃんの面倒を見てあげなさい?」
「えっ...あっ...わかった...」
初めからそうする気だったのか早口で捲し立てる。
「なあ、レイン」
「なに...?」
「お前、うちに住まないか?」
「えっ...えっ...!?」
突然言われて驚いてる...まあ当然か。
「住むところないならこいよ...ほっとけないしさ...?」
「........いいの?」
上目遣いで聞いてくる。
何故かドキッとした。
「その代わり、友達ってのはやめだ」
「えっ...?」
「俺達は家族だ...!」
「.......うん!」
俺の言葉に嬉しそうにしているが言ってて恥ずかしいな...
後ろでニヤニヤするな、母さん。
こうして俺に新しい家族が誕生した。