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第一話 ジュリゼーナ

 東京都の五階建てのマンション。

 窓から見えるのは、きらきらと輝く色とりどりのイルミネーションに無数の星。 

 ふるさとはもっと星が綺麗だった、と私と同じように上京してきた高校の同級生は言うけれど、東京だって負けていないと思う。

 夏には花火が打ち上がるし、冬には大きなクリスマスツリーが飾られる。

 とにかく、最上階からの景色は最高なのだ。

 私はうっとりと空を見上げた。

 東京の景色を堪能していた間に暖まりすぎていた部屋に戻り、私は暖房を消して布団に潜った。

 布団にくるまって寝返りを打っていると、やがて眠気が襲ってくる。

 うとうと意識が落ちていきそうな中、私の脳には高いけれど威厳のある女性の声が響いていた。

「みずき、あなたは明日からジュリゼーナになってもらいます」

(えっ?)

 脳に直接飛び込んできた声に驚いて、閉じていた目を見開く。

「え、あなた誰? ジュ、ジュリ……? 誰ですか、それ」

 声の主を目を凝らして探すけれど、ぼんやりとした白い影しか見えない。

「そんなことどうでもよろしいでしょう。私は女神ですから、逆らえませんよ?」

「え、よろしくな……」

「もう、うるさいですわね。一旦お黙り。ジュリゼーナは魔法学校の教師です。あなた達はお互い魂を入れ替えるのです」

「た、魂を入れ替え?」

 展開が早すぎてついていけない中、女神様はではおやすみなさい、と優雅に手を振ってすぅっと暗闇に消えていった。

(魂を入れ替え? 魔法学校? 意味分かんない!)  

 とにかく頭を整理したい。だけど、目はどんどんと閉じてくる。

 私は眠気に勝てず体をベッドに預けた。

 ぱっと目を覚ますと、体の上にはタオルケットがかけてあった。蒸し暑さに顔をしかめながら、私は起き上がる。 

 そこで、違和感に気がついた。

(私、タオルケットで寝たっけ……?)

 昨日はとても寒かった。東京で大雪が降ったとかなんとかで、テレビは大騒ぎだった。私は雪の多い地方から上京したから雪が積もるなんて日常なのだけれど、ネットには雪の写真がたくさんアップされていた。

 そんな日にタオルケットで寝るはずがない。そう、私は分厚い布団に潜って寝たのだ。

 混乱しながら周りを見渡す。一面に布団が敷き詰められていて、私は窓際で寝ていたようだ。タオルケットは白くて本当に何も特筆すべきことがない。早く状況を理解したいのに、合宿のようだという感想しか浮かんでこなくて、頭を抱えてしまう。

 私がぱちぱち瞬きをしながら呆然としていると、ドアが開いて誰かがひょこっと顔を出した。

「あっジュリゼーナ! 起きたの? 良かったぁ!」

 金髪に青い瞳の女の子が笑顔で近づいてくる。

 喜んでくれているのはわかるけれど、私はこの人を知らない。知るわけがない。私ーー福原みずきの友達に、金髪少女なんていなかった。

 知らない人が親しげに声をかけてくるのは少し怖くて、反射的にくるりと後ろを向く。

「えっ? もぉ、なんで無視するのよ~! 病み上がりなんだから、ふざけないでよぉ」

(違う、ふざけているわけではなくて……)

 そう言いたいのに言えなくて、私は首を振る。

 すると、おろしたさらさらの髪が揺れる。

 そういえば、視界からの情報に頭の中の情報処理が追いつかず、ジュリゼーナについてを全く知ろうとしなかった。

 私が横髪をつまみ上げて顔の前に持ってくる。

 黒色であるはずの髪は、見事な薄紫だった。

 ありえない事態に全身が震えだす。

 金髪少女の声が聞こえたのか、他の子も部屋に入ってきた。

「ゼルラーヴァ、どうしたの? うるさいですよ……ってあら、ジュリゼーナ! 起きたのですね? 良かったですわ! とても心配しましたの。もうしんどくありませんか? 今日は五の日ですから……」

「ファスレート、そっちのほうがうるさいからっ!」

 二人がきゃっきゃっと言い合いながら代わる代わる私の顔を覗き込む。

 そこで思い出した、女神様の言葉。

『ジュリゼーナは魔法学校の教師です。あなた達はお互いに魂を入れ替えるのです』

 つまり、私は私ではなくジュリゼーナで、この二人と友達で、ここで暮らしていかなければいけないようだ。私の魂は女神様によってジュリゼーナに入り、ジュリゼーナの魂は私に入った。つまり、もしかしたらこれは異世界転移ではないのだろうか。

(えっうそ異世界転移⁉ うわ、あり得るんだ! 本の中の世界だと思ってたよ)

 一応事態は呑み込めたけれど、とにかく冷静になりたい。この二人のノリについていけない。

 私は二人に疲れたから寝る、と伝えて布団を顔まで引き上げた。

 一日寝てすっきりした。起きたら日本だったらいいなと願っていたけれど、目を開けると昨日も見た世界の風景だった。

 日本ではないと困ることなんてない。

 そう思いながら寝たけれど、やはりここと日本は色々と違いそうだ。今まで読んだ転生・転移系の本では、主人公が慣れない生活で大分苦労をしていたはずだ。

 私が目をこすっていると、金髪少女がぱちっと目を開けてふふふと微笑んだ。

「おはよ。今日は六の日だから、ゆっくりしなよ。ジュリゼーナは働きすぎだから」

 金髪少女はさっさと布団から出てどこかへ行った。

 六の日とは? と思いつつ私はのっそりとした動きで辺りを探索するために金髪少女を追いかける。

 部屋のドアを開けると、そこは廊下だった。

 壁には色々なタペストリーが飾ってあり、ガラスで透明のモビールやサンキャッチャー、観葉植物や時計もある。

(わあ、飾りがいっぱい。ここ、お金持ちなのかな? うん? 私、寮暮らし? それとも、シェアハウスとか?)

 首を傾げていると、大変なことに気がついた。

(私と、ジュリゼーナが魂を入れ替えた……ってことは、ジュリゼーナが日本に!? なにそれ! 日本って便利だけどここの住人にとっては絶対意味不明な世界だよね!? 空を飛ぶ飛行機があるし、服を入れてスイッチを押したら綺麗になっている洗濯機があるし、冷たいものが溶けない冷凍庫があるし!)

 私がどひゃー、と声を出さんばかりに頭を抱えていると、私が出てきた部屋の隣のドアがガチャっと開いた。

 ぴくっ、と体が反応して、慌てて背筋を伸ばした。

「ジュリゼーナ、おはよう。食堂まで一緒に行こう」

 一人の女の子がひらりと手を振った。髪の色と同じスカイブルーの爪が主張しているように見える。

(ふうん、マニキュアを塗るのはあるんだね)

 心のなかで頷きつつ、私は行こう、と返事をした。

 知らない人と知らない世界で話すのは不安だったけれど、その子はぺらぺらと話し続けていたのでこの世界の知識が増えたし、怪しまれることもなかった。とても話しやすい相手だ。

 その子に続いて食堂に入ると、私が思い描いていた食堂とは全然違うところだった。

 まず、椅子とテーブルがない。

 ほとんど床を埋め尽くす大きな橙色のレジャーシートが敷いてあって、その上にみんな土下座のような姿勢で食事をしている。

 膝をつき、前かがみになり、お皿を床に置いて。そうやってご飯を食べるのが、この世界の常識らしい。

 開いた口が塞がらない。

(えっ……ちょ、なんか他にあるでしょ。遠足では、みんな正座とか体育座りとかあぐらとかかいてたし、えっ?)

 困惑しながらも、ご飯をもらうための列に並ぶ。もう十人程並んでいた。

 白いエプロンをつけた若い人が食事を手渡してくれる。

 手をぶんぶん振っている金髪少女の隣に座り、食べ始めた。

 異世界なので、変なメニューとかなのかな……? と考えていたけれど、別にそんなことはなかった。日本でも食べていたようなパンとスープだ。パンは口の中の水分が全部取られるくらい乾燥してかっさかさだったけれど、食べられないことはない。スープもうっすら塩の味がして、人参のような少し甘い野菜が入っていた。

 スープは日本では味が薄くて塩や胡椒を加えたくなるぐらいだけど、食べられる範囲だ。

 パンを噛みながら辺りを見渡す。

(なぁんか、この光景見たことある気がするんだけど~? なんだろう? あっ!)

「書き初め!」  

 私が思わず立ち上がると、みんなが一斉にこちらを見た。私の周りでご飯を食べていた人は、訝しげに目を細めている。

「あ、ごめんなさい」

 ぺこっと頭を下げて座り直す。

 いきなり大声が響いたら驚くのは分かるけれど、お正月に学校で行った書き初めの光景にそっくりなのだ。そう、膝をついて前かがみになるあの感じが。

 心のなかで言い訳しつつ、パンを喉に流し込むためにスープに口をつける。

 カップを傾けて飲み干すと、一瞬スープが喉につまった気がした。

「うっ⁉ げほっ! けほっ、こほっ」

 私は目を白黒させながら咳き込んだ。慣れない体制での食事は危険だ。

(へ、変なところにスープが入ったぁ……)

 胸元を押さえてため息をつく。

 ここで生活していくのはなかなか大変だ。朝ご飯を食べただけで常識の違いを痛感した。

(なんか、悲しいっていうか、虚しいっていうか……)

 もう一度はぁ、とため息をつくと、ぴゅうっと食堂に風が吹いた。

 こんにちは、そしてはじめまして。

 神宮寺 麗鈴です。

 初めて「小説家になろう」に小説を投稿しました。

 初投稿でいいコメントばかりがもらえるとは思っていませんが、頑張って連載していきますので応援よろしくお願いいたします!


 あと、タイトルが

「ある日目覚めたら魔法学校の教師に『転生』していた件について。」

になっていると思うんですけど、『転移』の間違いでした。

今から直せないので、ここに載せておきます……。

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