暗殺
男はホテルにチェックインを済ませるとそそくさに自室に向かった。
小汚いホテルだが、特に問題は無かった。そもそも泊まるわけでなく、この場所を借りたいだけだったのだから。
男はトランクを小さなベッドに放ると中身を空け、細かい部品を組み立てだした。黒く長い部品は男の器用で鮮やかな手つきによって次の瞬間にはライフルに成っていた。窓際に銃を持っていき、鞄や腕で高さを調整しながらスコープを覗いた。男はその大きな窓の向こうにいるターゲットを探した。男のいるホテルの向かいは高級マンションで高そうな家具が並び、棚にはアジアンチックな調度品が飾られていた。間取りから察するにリビングだろう。するとターゲットが丸く切り取られた視界の端から横切っていった。すかさず、黒い十字を重ねて姿を追った。ターゲットは品の良い白髪を後ろに流した男性だった。決して派手な見た目ではないが、家の中でのふるまいに育ちの良さが現れていた。しかし、リビングにとどまらないターゲットは窓に切り取られた部屋の奥に消えてしまった。バスローブが見えたからシャワーでも浴びに行くのだろう。
仕方ないので男はスコープから目を離し、目の間に指をあてた。最近は、少しスコープを覗くだけでも乾燥するし疲れるのだ。
少し伸びをしようと上半身を反らすと、ぽふんと何かにあたった。後ろには何もなかったはずだが。男は後ろを振り向いた。後ろに立っていたのは長方形に切り取られた厚手の布――カーペット――だった。
カーペットは両手を上げて警戒するクマのように男に襲い掛かると体に巻き付き、カーペットの端を男の口にねじ込んだ。男は嗚咽したが構わずに奥の方まで突っ込まれていた。毛が喉に絡まり、吐瀉物があふれ出す。涙目になりながらも抵抗するがカーペットに巻かれていると四肢に力が入らない。しばらくすると男は顔をぐちゃぐちゃにしながら力尽きた。
カーペットは男が死んだことを確認すると自然と元の位置に戻っていった。