七:○○おばちゃん
私の父には、戦時中、幼くして亡くなった姉がいた。
父方の菩提寺に弔われているが、祖母はいつも其処できちんと手を合わせてから墓へ向かう。
その、叔母に関するお話だ。
祖母は生前、
『危険な目に合ったら、叔母の名を呼んで助けを求めるんだよ』
といつも言っていた。
危険な目・・・と言っても、直感で悪いところへは行かないし、嫌な気配がしたら神社へ避難していたので、普段なら大丈夫だった。
だけど。
多分、とてもぼんやりと油断していたんだと思う。
その頃、従姉妹の姉からも、
『ぼうっとするのは自分を確りさせてないから、だから憑いてこられるんだ。
いつも注意深く警戒して、意識はハッキリとさせておきなさい。』
と言われていたのに、忘れてしまっていたんだ。
昼間の仕事が多忙を極め、夜もクタクタになって床に倒れて眠る、そんな日々が続いたある日。
通勤中に、どうやら変なのに憑かれたらしい。
帰りがけに突然、上から押さえ付けられるような重さを感じながらも、負けるか!家に帰るんじゃい!!と自宅へ戻ったものの、その重さが取れないままに眠ってしまった。
深夜。
パチっと目を覚ますと、私の足元に黒い何かが立っていて、その後私の体を這うように顔の近くまで来た。
馬乗りになられた状態で、私は腕を動かそうとしたものの、黒い影に押さえつけられていて、動かせない。
思わず、父から教わった『阿・吽・力』の呼吸に合わせて、何度も何度も力一杯抵抗したら、突然『パァン!!』という音と共に体が自由になり、反射的に影へ正義の右鉄拳をねじ込む!・・・と思ったら、拳が触れる直前に、黒い影が消えた。
一体何だったんだ、と思いつつ、貴重な睡眠を邪魔された事に剰りにも腹が立ち、そのままもう一眠りした。
で、翌日深夜。
昨日と同じ時間に起こされ、しかも今度は何度気合い入れても体が動かない金縛り状態になり。
そのうち、馬乗りの状態で動かなかった黒い影が私の喉元に手?を伸ばして首を絞め始めた。
これはやべえ!!となった私は、もう、必死に考えを巡らせ、意識せずに『○○おばちゃん、助けて!!』と叫んでいた。
すると。
冷風が吹いたな、と感じた直後。
『ぅうちの子に何すンだゴラァォァォァ!!』
と、マジでこんな感じの雄叫び?と共に、影が斜め後ろから吹き飛ばされ、一瞬だけ、父を更に厳つくしたような女性が、ハリセンの様なものを片手に睨みを効かせている姿が見えた。
ーーああ、これが○○おばちゃんかぁ。強いな。
そう思いつつ、自由になった右手で頭上の木刀を掴み、部屋の隅でウゴウゴしてる黒い影にブン投げると。
スゲー勢いで、影が部屋の壁を突き抜けて吹っ飛ばされていった。
すごいな、母方に代々伝わる鍔付の木刀!有能!!
で、静かになって。
見えなくなった叔母に、ありがとうと感謝を告げると、また冷風が外へ向かって流れて行った。
あれから、何かあったら○○おばちゃんを頼り、普段はベッドの頭上に木刀を突き刺して眠りに着くようになったのだった。
うちのご先祖様も生きてる人も、父方の血が流れている女性は、基本的に厳つくなる模様。