五、猫と共に遭った、鵺の亜種
我が家は昔から、動物を飼ったり植物を育てたりするのが大好きな人が多かった。
まあ、祖母が華道の先生という事もあり、祖母の活ける華がとても好きだったというものもあるが。
そんなとき。
我が家に、猫がやってきた。
父の紹介でいただいた、シャム猫のMixだったが、とても美しい碧い瞳が特徴の、しっかり者の猫だった。
この猫も、時々、変なものを視たりするみたいで、何もないところをガン見したり、私が怖いタイプの奴を視た時は、必ずずっと側に着いていてくれた。
そんな、初代猫。
時々何もない空間をどついたり、家のなかをパトロールしたり、時々、祖母の様子を伺ったりして、皆を守ってくれていた。
そのときの安心感があるからだろう。
私も、母の実家が経営するアパートで独り暮らしをして、変なご縁で猫を飼う事になった。
その頃、自宅周辺で地域猫(当時の叔父曰く、裏の家が飼ってる猫)が庭へちょくちょくやって来ていた。
その地域猫にすら追いかけ廻されてイジメられていた子猫を保護したのがきっかけだった。
本当に小さな猫で、ガリガリに痩せていたが、保護して沢山ご飯食べさせて、良く眠ってよく遊んだ結果、ガッシリ体型のデカイ猫に進化したのは笑った。
この猫、一緒にいると、不思議な出来事に遭遇する事が多く、かといって悪い方向になることもないので、とても頼もしい相棒であった。
まあ、動物関係は追々話をしようと思うが、ひとつだけ。
数ある話のなかでも、とびきり不思議な話をしようと思う。
季節は初秋。
我が家には母方の祖母が大事に植えて育てていた柿の木がある。
この柿の木、丹精込めて育てると甘くなり、他の野菜たちと一緒な感じで育てると渋くなる、不思議な柿だった。
今年も豊作だなぁ、なんて思いながら、少しだけ猫が脱走しないレベルで細く、窓を開けていたのだが。
突然、猫の尻尾が猛烈にタヌキになり、外を黙ってじっと見つめていた。
どうしたのかと思い、猫を後退させて外を覗くと。
四つ足の、猫ではないサイズの猿みたいな何かが、柿の木へ向かっているのが見えた。
おい、ここ、結構な都心だぜ?
何処かの家のオシャレ猿が逃げ出したか?と思って、そぅっと窓を開けて観察していると。
うん、柿、盗んでるね、これは。
柿の枝を力任せにバキバキ折る音を聞きながら、私は鍔付の木刀を装備して様子を眺める。
しばらくして。
塀の上を悠々と、柿の枝片手にこちらへ向かって来る、猿のような何か。
暗がりの中、目の前に来て、違和感に気付いた。
あれ、体が猿じゃなくて犬っぽい?
それに、顔、人間っぽいなあ?
そんなことを思っていたら、そいつが目の前で止まって、此方を見た。そして、ニタリと笑った。
その瞬間、その、中年のオジサンの様な笑みで、柿を盗んだのだと思った瞬間に、私はブチキレて叫んだ。
「テメぇぇぇ!何、柿盗んでんだ!!対価置いてけ!!このヤロー!!」
木刀で狙いを定めるが、奴の方が足は早く、柿をまんまと盗まれてしまった。
ぷんすこ怒りながらも、我が家の猫を見渡すと。
「オメェー何してるのさ!?」
とでも言いたげな表情で、此方を見上げていた。
うん、近所迷惑だったと、反省しているよ。
でも、タダで持っていくのは、泥棒だから。
例え、相手が妖怪だったとしても、許さない。
次に会ったら、ブッ飛ばーす!!
そう思っていたのだけれど。
それからの翌春以降、一年。
畑で採れる作物が、通常の2倍以上の収穫量を誇ったとか。
実を盗まれた柿の木が、ものすごく豊作な上、何もしていないのに甘い実になっていたとか。
庭の環境が一変したのだ。
今考えるに、どうやら、これがあの妖怪の対価だったみたいだ。
きっとあのあと、罪滅ぼしの如く、対価を置いていったんだろう。
それにしても、あの猿モドキ、一体何の妖怪なんだろうねぇ?
職場の人には、鵺の亜種って言われました。