拾:鞍馬の天狗
これを書いているのは、気温が35℃を越える夏日である。
こんな暑い日、私は、いや私もそうだが、いつも共に行動する者達も皆、よく思い出話として話題に出す、不思議な出来事がある。
それは暑い夏の日。
私はいつも共に行動する従姉妹たちと、朝イチで京都へと旅立った。
何故朝イチかというと、1日だけでものすごいハイペースで、まるで巡礼者の如く寺社を巡るという、私達は『ダッ修行』と呼ぶ路をこなす為である。
1日で帰路につくので、皆、サンダル+リュック1つの軽装である。
京都へ着いたらバスに乗り、一条戻橋の清明神社へゆき詣で、そこから出町柳へバスで行き、叡山電鉄で鞍馬、貴船、そこから南下して伏見稲荷を頂上まで詣で、帰路に着く。
そのルートを、今まで何度もやってるからか、市内は猛暑だったが皆安定して進んでいた。
しかし、鞍馬寺に参拝し終わったとき、不思議な出来事が起きたのだった。
鞍馬寺は、参拝するのに歩きorケーブルカーで8割進み、そこからは階段ラッシュになる。
もちろん足腰膝にキやすいので、杖みたいなものもあったりするのだが、私達は筋トレがてらサクサク登って、無事に本殿を参拝した。
鞍馬寺は、本殿の前に広場があり、真正面は素晴らしい景色が望める、癒しスポットである。
そこで涼しい風を浴び、これから貴船に向かうのに、どのルートで行くか話をしつつ、来た階段方面へ足を向けると。
ーーーーカツン、コン、カン!
私達各々に、謎の小石がぶつかった。
「?」「?」「は?」
私達は顔を見合わせ、周囲を見渡す。
が、その日は、誰もいなかった。
とても静かで、穏やかな、鞍馬寺。
狛犬ならぬ狛虎も、心做しか優しい雰囲気だ。
我々は目配せし、再度、鞍馬山の地図を広げ、貴船へのルートを確認する。
私達の心は一つで、
『来たルート以外で移動出来るなら、それが良い』
という思いだった。
しかしそこで見つけたのは、貴船へ行けるもう一つのルート
『鞍馬の山越え』
である。
私達は山の入口まで移動したが、木の根道などバリバリの山道で、我々の軽装では心許ないと思い、やはり引き返そう、と小声で話して振り返り足を踏み出すと。
ーーーーカツン、コン、スカン!
「!」「!」「ぃたっ!」
・・・・・・・。
足下には、転がる小石。
全員の意思は一致。
どうやら、この道を行かねばならぬらしい。
私達は、なけなしの長袖を羽織り、サンダルのストラップなど調整して、諦めて山に入った。
もちろん、山に入る前に
「この道で貴船に向かいますから、絶対に全員に虫は近づけないでください。」
「そして全員、一切怪我をしないように、野生動物にも会わないようにしてください。」
「全員、電車で貴船に行くよりも、マッハで無事に到着できるようにしてください。」
と各々、謎の存在にオーダーをしてから入山して。
入山後、宝物殿にて素晴らしい観音像に出会い感動したり、
奥の院まで無事に到着してからが、この山の本番である。
普通に、山道。
蛇の何匹かは出会うかと恐怖しつつ、ヒールのサンダルなのにとっても足取り軽く、我々は鞍馬の山道を進んでいた。
正直、普通では考えられないぐらいに、身体が軽い。
なんなら、木の根道からの下りの、木の根がボコボコ乱立する道ですら、八艘飛びかな?と思わせるくらい、つま先でのスナップ効かせて、全員がスパスパと降りて行く。
途中ですれ違った方も二度見レベルである。
そうして、ちゃんと写真撮ったりもしながら、私たちは恐るべきスピードで、貴船へと到着した。
この時の山越えタイムの記録は、私が記録する限り、今まで一度も超えたことはない。
その後我々は、貴船との門を出る前に、山に向かって、無事に到着出来た事の感謝を告げ、お礼にお昼は何が食べたいか伺うと。
しばらくの空白があり、返答なしかと我々が山に背中を向けた時。
『蕎麦』
という声が、私達に聴こえたのだった。
もちろん、お昼ご飯は美味しい蕎麦を頼み、ついでに甘味も共に山の存在にお供えしてから、お下げした蕎麦を美味しくいただきました。
それから、私たちは残りの行程を無事にこなしながら、石を投げたのはどういう者なのか?と話していたのですが。
調べて、現地の人にも聴いた結果、鞍馬の天狗ではなかろうか?という結論に至ったのである。
今でも鞍馬へ伺う際は、少量ではあるがお土産のお菓子を持参して供えつつ、参拝させていただいております。
凄く久々の更新になってしまいました〜